美術室

 

みわ はるか

 
 

中学校の美術室。
なぜか心の奥にいつもある。
それは多分とても心地いい場所だったからだと思う。

決して美術は得意ではなかった。
むしろ苦手だった。
ポスターに描く絵も、粘土で作り上げる作品も、オルゴール作りも、何をやってもいまいちだった。
いつもこっそり誰かに手伝ってもらったり、開き直って先生に筆をわたして横でわたしは頭をかかえていた。
先生が作り上げていく作品はとても美しかった。
同じ道具を使っているのに、どうしてこんなにも違うものかとみとれていた。
先生も「まぁ、あなたは!ここまではやるけど後はやるのよ」。
なんて怒ったように言っていたけれど、それに反して顔はにこやかで、楽しそうに筆を走らせていた。
この人は本当に美術が好きで今ここに存在しているんだなぁ。
そんな先生の顔を見るのが結構好きだった。
作品は何回かの授業を通してやっと出来上がる。
なんとか作品を完成させたわたしはそれを提出した。
確かあれは自画像を彫刻刀で掘って版画にしたものだったと記憶しているけれど、先生は自分が手伝ったところを指さして、
「あら、この辺とても上手にできたわね。これはとてもいいわ。」
先生はきっと自分が手直ししたことをすっかり忘れていたのだろう。
「へへへ、そうでしょ。わたしもやればできるんですよ。へへへ。」
なんて今にも吹き出しそうな笑いを我慢してさらっとその場を去った。
その絵の評価は一番いいものになっていた。
ちょっと後ろめたい気持ちになったけれど、今では懐かしい思い出だ。

美術室はちょうど北側に位置していた。
木の机、背もたれのないこれまた木の椅子。
アスパラガスのようなグリーンの体操服で授業を受ける。
風通しもよかったため窓が全開に空いている時なんかは心地いい風が最高だった。
窓から見える夏の入道雲はいつまでも見ていられた。
もくもくと力強く青い爽やかな空に突き抜けるような白い入道雲が大好きだった。
美術の時間がずーっと続けばなぁと木の椅子をギコギコさせながらいつも思っていた。
すぐ隣にある美術準備室はひんやりとしていた。
過去の先輩の作品や、先生が見本でつくったものがたくさん並んでいた。
奥行きのある絵画、考える人のような彫刻、木彫りのフクロウ・・・・・。
わたしにとっては身近にある小さな小さな美術館だった。
そこには先生の許可があればすんなり入れたので定期的に見に行っていた。
学校の中の神秘的な場所で不思議な気持ちにさせてくれた。

中学校を卒業して、美術に触れる機会は激減した。
この季節になるとあの美術室を思い出す。
先生のことも、クラスメイトのことも、空も、準備室も・・・・・。
穏やかで心地いいあの時間が、あの時一緒に過ごしたみんなに今でもあればいいなと思う。

こんなご時世だからでしょうか、年を重ねたからでしょうか、またいつかみんなに会いたい。
ベランダの風鈴の音に耳を傾けながら文章を結ぶことにする。