14歳になった、花へ

 

村岡由梨

 
 

 

14歳のお誕生日に、
おばあちゃんから贈られた
チャコールグレーのロングワンピースを着て、
ママがプレゼントした黒のブーツを履いて、
パパがプレゼントしたベージュのポシェットを首から下げて、
みんなでお祝いに外食したね。
ポシェットの中には、眠が一生懸命選んで買ってくれた
ピンク色のお財布が入っていた。
すごく大人びた姿だったけれど、履きなれないブーツのせいで、
靴擦れを起こして、帰り道は辛そうだったね。

その後、ママと夜の公園を散歩した。
昔あったジャングルジムも、鉄棒も無くなってしまった公園で、
「鬼ごっこしたいなあ」と呟く君。
君がズボンを真っ黒にして駆け回っていた頃とは
もう随分変わってしまった。
公園も、君のからだも。
私たちは、しばらく何も言わずに、夜の公園を歩いたね。

眠と君は姉妹で、
とても仲の良い姉妹で、
いつも子犬のようにじゃれあっているけれど、
一方が元気で、もう一方が元気じゃない時もある。
そんな時、パパやママの気持ちは、
元気じゃない方に傾いてしまう。
人間のからだや気持ちを平等に半分にするのは、すごく難しい。
右半身と左半身
上半身と下半身
前半分と後ろ半分
眠と君、両方に、平等に、
からだと気持ちを与えたいけど
そうはいかない、すごく難しい時があるんだ。
そのせいで、
「誰もわかってくれない」
君がそんなさみしい気持ちになって
落ち込んで、
ベッドで一人ぼっちで泣いている時もあるかもしれない。
ほんとうに、ごめんね。

時々、パパや眠や君が待つ家に帰ることが
不思議に思える時があるよ。
家に帰ってきても、
誰も「おかえり」と言ってくれない、
一日の労をねぎらってくれない、
世の中にはそんな孤独な人もたくさんいるというのに。

14年間、苦しくて辛い日がたくさんあったでしょう。
でも、君が生きて呼吸をしているだけで
ママは幸せです。

ありがとう。
面と向かって言うのは何だか恥ずかしいから、
「浜風文庫」の力を借りて、君に言葉を送ります。
本当は「君」なんて書くの、こそばゆい。

 

お誕生日おめでとう。
瑞々しく変貌を遂げていく君。

これからも、よろしくね。
14年経っても、何だかぎこちない母より。

 

 

 

ソシラヌ広場ーアンモナイトの見た夢 Ⅱ

 

南 椌椌

 
 

10月18日から青山ギャラリーハウスMAYAにて個展『ソシラヌ広場―アンモナイトの見た夢』を開催いたします。
個展に合わせて刊行の同名作品集より4点を「浜風文庫」に公開いたします。

 


 

猫とレインボー

 
猫の気持ちは わからないという人
猫の気持ちは よくわかるという人
ボクは猫だけど ボクの気持ちは
わかるようで わからない
それはどうでもいいでしょ
ボクは生まれてこのかた 猫だから

ボクのルームメイトはレインボー
なにが楽しいのか 虹の絵と歌ばかり
恋人もいないのに 恋の歌ばかり
レインボーの気持ちは よくわからない
それはどうでもいいでしょ
ボクは生まれてこのかた 猫だから

 
 


 

トンピナチョのはなし

 
農夫トンピナチョが 豊作のもろこしをロバに積み
千年伝えの 聖アルバンの森で  
ヤブに隠れて シッコロしてると
いにしえ絶滅したとされる マヤの聖獣トビハネマヤネズミが
怒り狂って トンピナチョめがけて 跳びかかってきたのだ
「聖獣のオレさまに シッコロかけるなんて このウンチョロたれが!」
「なにいうだ!シッコロかけても ウンチョロはたれてねえだ!」

  語るに落ちるとはこのこと
  てんやわんや アホらしい その後の委細は省きます

  (知りたい方には耳打ちします)

トビハネマヤネズミの正体は ウソかマコトか
組んずほぐれつ ほぐれつ組んず
聖アルバンの神々さえも 笑って見守るばかり
太陽なんか 膝をかかえて おねむの時間
もろこし積んだロバさえ トボトボ帰路につき
いつまでやるんだ トンピナチョ
「やってられねえ!」
トビハネマヤネズミは 我にかえって
聖アルバンの闇の彼方へ 消え去ったということだ

 
 


 

プラテーロの思い出

 
ヒメネスの「プラテーロとわたし」の舞台
アンダルシアのモゲールを訪ねたことがある
ポルトガルに近い ウェルバ駅からヒッチハイク
丘の上に白い宝石と 謳われた町並みがみえ
さっそく ひげたっぷりの爺さんと ロバがお出迎え

ヒメネスは快癒の日々を ここモゲールで
ロバのプラテーロとともに過ごし
詩人のことばで「プラテーロとわたし」を書いた

夢よりも 昔になってしまった
眩く光る広場から 花咲く小路を幾つも抜けて
日がな一日シエスタのような村
古い葡萄酒の酒蔵で一杯やってると
寡黙なプラテーロがウインクする

村はずれのモンテ・マヨールの丘に行った
ヒメネスとプラテーロがよく歩いた道だ
ふくろうのホーホーと啼く声を聞いた
丘をめぐって ホーホー探したが 姿は見えなかった

村の広場にもどって来ると
三角屋根の ソシラヌ移動遊園地が立っていた
塗りの剥げた さびしい回転木馬
オモチャのような観覧車が 空回りしていた

遠くから ほらホーホーという声が 聞こえてきた
そうだな もう酔うしかなかった
ホーホー ホーホー
        
 ✶ ファン・ラモン・ヒメネス作『プラテーロとわたし』理論社・初版1965年
  伊藤武好、伊藤百合子訳 理論社版の長新太の挿絵がたまらなかった。
  作品背景の写真はアンダルシアのフリヒリアナという町。

 
 


 

ハゴロモ

 
半島の舞姫がつま先あげて 肩で長短(チャンダン)
思い出したように ときめきの心躍りを
踊りましたね ありがとう
哀しみは 腰をおとして たひらかに
水の上から音もなく 舞いたつ
羽衣は 白いチョゴリのことだった
鹿の角生やした姉さんが
涙こらえて 頬染めている
どこから来たのか オアシスの仔象
長い鼻 ふりふり ダイジョブ ダイジョブ

✶ 長短(チャンダン) 韓国舞踊特有の調子のとり方。原マスミは「ハゴロモ」という曲で 「チョゴリよ チョゴリ わたしのハゴロモ」と歌っている。イ・チャンドンの映画「オアシス」には、壁のポスターの仔象が、ソウルの安アパートの部屋に出現する美しいシーンがある。

 
 

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2021年10/18(月)〜10/30(土)

南 椌椌 個展「ソシラヌ広場―アンモナイトの見た夢」

開廊時間:11:30am〜7:00pm(日曜日休廊 土曜日5:00pm迄)

〒107-0061 東京都港区北青山2-10-26
(地下鉄外苑前駅徒歩5分)
tel : 03-3402-9849
fax : 03-3423-8622


e-mail : galleryhousemaya@gmail.com


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家族の肖像~親子の対話 その56

 

佐々木 眞

 
 

 

お父さん、薬の英語は?
メディシンだよ。

お父さん、鎌倉の信号、怖いんですお。
そうか、怖いんだ。困ったね。

お母さん、新逗子駅、葉山逗子に変わったよね?
そうね、変わったわね。

逗子の信号もツツツツって鳴りますお。
え、そうなの?鎌倉だけじゃないの?
ツツツツツって鳴りますお。
おんなじ音なの?
そうですお。

お母さん、えこひいきって、なに?
その人だけ特別に可愛がることよ。

お母さん、ひょうきんて、なに?
オレたちひょうきん族よ。

様々って?
色々よ。

コウ君、その恰好おかしいわよ。
リコちゃんに嫌われる?
嫌われるわよ。
そうお。

コウ君、今日はどこ行くの?
セイユー行きますお。
他は?
セイユーだけですお。

お父さん、コウ君が一番好き!
ありがとうございました。

お父さん、欠席の英語は?
アブセントだよ。

コウ君、今日は父の日だよ。お父さんに、なんていうの?
ありがとう。
コウ君、ありがとう。

お母さん、薬剤師て、なに?
病気の人のお薬を考えてあげるひとよ。
エイ子さん、薬剤師さん?
そうだよ。
石原さとみとおんなじ?
そうね。テレビのね。

お父さんに「後から片づけなさい」っていわれたお。
コウ君、あれは偽のお父さんだったから、忘れていいよ。

お父さん、大丈夫ですか?
大丈夫だよ。