広瀬 勉
#photograph #photographer #concrete block wall
黒い卵から双子が生まれた
黒い兄と黒い弟
黒い肌と黒い髪
黒い唇 黒い瞳
真っ黒で 目鼻があるかもわからない二人はいつも一緒だった
同じ背丈で同じ声で同じ服装
どっちがどっちかは誰にもわからず
どっちがどっちかわかられないままよく怒られ よくいじめられた
二人とも勉強ができなかったし 黒かったからだ
走るのが遅かったし 話しかけられるとマゴマゴした
同じようにどんくさく 実際ちょっと変なニオイがする黒い双子
けとばしても唾をかけても黒いので表情がわからない
血が出ても黒いので傷の深さがわからない
傷の在り処もわからない
二人でいた 寄り添っていた
ように見えた
タバコを吸っていた
黒い固まりが二つ 肩を並べて黒い煙を吐き出していた
橋の下 黒い川がゆっくりと流れていた
金管楽器の音がどこかから聞こえた
黒い双子はこの河原で 何本も何本もタバコを吸った
そしてある日双子の兄は弟を
この黒い川の中へ突き落とした
泳げない弟は 水の中でバシャバシャし
流され、沈み、そしてぷくぷくとあぶくが出て
浮き上がってきたときは死んでいた
兄はそれを全部見ていた でも見分けはつかないから
兄でなく弟の方だったかもしれない
死んだ方も生きてる方も
黒いので表情はわからない
それを包み込んで流れる川の表情も
水が黒いのでわからなかった
空は晴れて 大きな鳥のような雲が浮かんでいた
向こう岸には高い塔やビルがあった
背後の高速は渋滞し
トラックが数珠なりに連なっていた
水は静かに流れ 黒い少年を運んで行った
水と同じ色の少年のりんかくはすでにない
海まで10キロ 兄は川に向かって佇み タバコをふかす
黒いので表情はわからない
どこを見ているかもわからない
足元にコケみたいな細かい雑草がはえ
ところどころで小さい黄色い花が開いていた
金管楽器の音が聞こえてきた
本当は全然 違う顔だったのかもしれない
違う心だったのかもしれない
いつも寄り添っていた 一緒だった
金管楽器の音が聞こえていた
今も寄り添っているのかもしれない
(11月某日、堀切橋下で)