村岡由梨
人に優しく
きょうだい仲良く
お年寄りを大切に
そんな当たり前のことが出来ずに、
人を殺すためのナイフを持ったまま
私は母親になってしまった。
友達を殺して
母を殺して
きょうだいを殺して
夫を殺して
娘たちを殺して
気が付けば、ひとりぼっちになっていた。
「ひとりぼっちも悪くない」と
口角を耳まで大きく引き裂いて笑う私がいた。
「私には私のストーリーがある」
「時代にも世代にも性差にも括られたくない」
そう言って、
「その他大勢」と一緒くたにされることに抵抗した。
孤独を掴み取った私は、
白光りする翼を大きく広げて羽ばたくことを、ずっと夢見ていた。
けれど、現実の私は高い所が苦手で、
私が飛べないのは、結局
自分の羽ばたきを信じていないからだと、
随分後になって、わかった。
「その他大勢」にもそれぞれのストーリーがあるということも。
余りにも愚かだった。
何もかも手遅れだと
精神科の待合室で声を押し潰して泣いた。
コントロール出来ない怒りと苛立ちで、
不愉快な人間の内臓が入った白いビニール袋を
思い切り床に叩きつけた。
ビニール袋は、中途半端な手応えで
だらしなく破裂して
肉片は方々に飛び散り、
私は血まみれになった。
不愉快な穢れた血。
もう耐えられない。
お願いだから、死んでくれ。
お願いだから、殺してくれ。
「そんなに死にたければ、ひとりで死ね」
私が詩を書くのは、
まっとうな人間になりたいからです。
今も昔も
平気で人を傷付けて、
周りを不幸に巻き込みながら、
現在進行形で、わたしは生きている。
そう言いながら、
「あなたは悪くない」という言葉を
どこかで期待していた
狡い私は、こうして46番目の詩を書いた。
いつだったか、ゾウの親子の夢を見た。
優しい眼をした母ゾウが、
子ゾウに赤紫色のさつまいもを食べさせていた。
生まれ変わったらゾウになりたい。
そうすれば、誰も憎まずにすむから。