出てる、出たぞ

 

辻 和人

 
 

出てる
出たぞ
この病院では育児の実践をいろいろやらせてくれるけど
オムツ交換はそのハイライト
今まで4回やらせてもらってみんなおしっこだけだった
今度はどうかな
うぎゃーうぎゃー
こかずとんの暴れる腰持ち上げて
新しいオムツを履いてるオムツの下に敷いてっと
うん、青い線が出てるからおしっこはしてる
オムツのテープ剥がすと
出てる
出たぞ
ぷちっ
黄色い
ウンチだ
これがウンチか
お尻の下、スプーン一杯分くらい
ぷちっと黄色く存在を主張
ちょっと甘い匂い
ミルク味のお菓子みたい
やったね、こかずとん!
「あ、ウンチしてますね。いい色です。
 お尻拭いて古いオムツはこのビニールに捨てて
 新しいオムツ履かせて下さい。
 ギャザーはしっかり立てて下さいね」
スタッフさんがにっこにっこしながら言う
空中蹴る足躱しながらお尻きれいきれい
新しいオムツでお股をしっかり包んで
ギャザギャザギャザっと
はい、おしまい
うぎゃーうぎゃー
沸き立っていた声がだんだん沈んで
ベッドではうっすら目に涙を浮かべたこかずとんが再び眠りに落ちるところだった

ウンチっていうのは嫌われもんになりがちだけど
ここではさ
すっごく価値あるものとして扱われるんだ
「さっきいっぱいウンチ出ましたよ」
「いい色のウンチでしたよ」
「柔らかすぎず固すぎずの立派なウンチでしたよ」
明るい声が
ウンチの上で飛び交ってる
若いスタッフさんもベテランのスタッフさんも
みんなウンチが大好き
存在を全肯定して張りのある声で抱き締める
食べ物から栄養を吸収して要らないものを出す
腸がきゅっきゅ動いてる証拠だ
命がきゅっきゅ動いてる証拠だ
出てる
出たぞ
期待に応えたなあ
いいウンチしたこかずとん
新しいオムツの舟に乗って
すーやすや
次の交換の岸辺に流れ着くまで

 

 

 

山道に咲く花

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 03     kokoro様へ

さとう三千魚

 
 

木漏れ日の

下を
歩いて

いった
みどりの

台座のうえに
首を長くして

きみは
いたね

オオイヌノ
フグリ

きみの
青い色の瞳は深かった

 

 

memo.

2022年5月28日(土)、静岡市の水曜文庫という書店で行ったひとりイベント、
「無一物野郎の詩、乃至 無詩!」で作ったみっつめの詩です。

お客さまにお名前とタイトル、好きな花の名前を伺い、その場で詩を体現しプリント、押印し、捧げました。

タイトル ”山道に咲く花”
花の名前 ”オオイヌノフグリ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

オートバイ

 

塔島ひろみ

 
 

わたしの朝でない朝がきた
だからまた目を閉じる
わたしはオートバイではない

陽が照らすわたしをオートバイと人は呼ぶ
どしんとまたがってエンジンをかける
まっぴらなのに
走るなんてできない これっぽっちもしたくないのに
親でも恋人でもないヒトをのせてわたしの道でもない道を走る
だからそれは わたしではない
わたしはオートバイではない

チャイムが鳴った
わたしは草の布団に包まれ 目を閉じている
ピンポンピンポン鳴りつづける
わたしはオートバイじゃない
だから 学校になんか行かないよ
いくら呼んだって 起きないよ

土手に引きずっていかれ写真を撮られた
川が見えた 発泡トレイが浮いていた
それから蹴飛ばされ 転がり落ちて
発泡トレイが見えなくなった

黒い鉄の柵の内側に
こわれたオートバイたちがぞんざいに置かれ足から錆び 腐っていく
もうそれらは走れない 歩けもしない
だからもうオートバイとは呼ばれないで
ごみと呼ばれる
雨が続き雑草がぐんぐんのびピンク色の花が咲いた
子どもたちが列になって黄色い帽子をかぶって電車みたいにつながって
歩いていく 黄色い旗を持ったおじさんがその先で待っている
「おはよう」「おはよう」と声がする
あちこちから似たような黄色い集団が現われて
1か所に収れんされていく
わたしはオートバイじゃないから
そこには行かない

手はなかった
鼻は半分潰れ 下半身はメチャメチャだった
黄色い旗のおじさんは子どもたちを見送ると
その石の塊の前で手を合わせる
子どもたちが無事でありますように
正しく成長しますように
だけど
わたしは地蔵じゃないから
祈られたってどうすることもできないよ
地蔵と呼ばれる塊は ニヤリと笑ってウインクをした

ウインクを返す
夢がむくむくと広がっていた
心はいっぱいで はじけそうだ
雲がわきたち
わたしをオートバイに見せる太陽が隠れていく
わたしはオートバイじゃない
だから どこまでも自由だ

 
 

(奥戸6丁目、産業廃棄物置き場のそばで)