広瀬 勉
#photograph #photographer #concrete block wall
骨をも腐らす、ながい雨の時代だった
緑の陰で溺れ、背には甲羅が生えた
もう、三百年生きた
望みという友もいない
亀は海に還るまえに光をみにいくことにした
闇の眼ではなにもみえず、光の匂いを辿った
這いながら泥を舐めた
それは微かにまだ記憶に残る
三百年前の水の味がした
峠を這い、
頂きの朝、
甲羅に全方位に亀裂が走った
未来という頂きに鳥が舞う
眼から落ちた鱗は光の粒
真珠の首飾り
“すべてが美しく、
傷つけるものはなにもなかった”
ヴォネガットの墓に刻まれたその言葉を甲羅に刻んだ
亀は海に還ることにした
石に導かれて、浜を漂い
青く寄せる波に甲羅は溶けた
声の方角に風が吹いた
幻の石がひとつ、浜に遺された
峠の光のいろ
大菩薩峠にきょうもまた陽が昇る
姉が好きといっていた
裏山にも
咲いていた
夏の終わりか
咲いていた
ように思う
桔梗か
帰郷なのか
どちらにも青さがある
痣のよう
内側から
青く
帰郷か
桔梗なのか
青い空に
白い雲が
ひとつ
ぽかんと
浮かんでいた
流れていった
流れていく
山道を歩いていく
傍らに
姉の桔梗は咲いているだろう
前へ
前へ
歩いていく
memo.
2022年10月17日(月)、自宅にて、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」として作った詩です。
お名前とタイトル、好きな花の名前を伺い、その場で詩を体現しプリント、押印し、お送りしました。
タイトル ”前へ”
花の名前 ”桔梗”
#poetry #no poetry,no life