詩人になりたい!?

 

佐々木 眞

 
 

久しぶりに、息子のケン君が、遠方の下宿から帰宅した。

晩御飯を一緒にした後で、グレープフルーツを食べながら、四方山話をしていると、とつぜん妻君が、「あなた死んだら、何になりたいの?」と尋ねたので、おらっちが即座に、
「生まれ変わって、詩人になりたい」と答えたら、彼女は眼を丸くして私をみた。

まるで、わたしという人物を、生まれて初めて見たような、驚きのまなこで、まじまじとみつめたのである。

「へえー、それで朝から晩までパソコンに向かっているんだあ。なるほど、詩人ねえ。詩人かあ」

息子は、「お父さんみたいな、ちゃらんぽらんな人間が、詩人になれるわけないじゃん。詩は、命がけで書くもんだよ」と嘲笑った。

そうか、命懸けかあ。なら、やっぱし詩人は無理かあ。
そんなら、今度生まれかわったら、蝶になろう。ギフチョウになろう。

春浅い郷里の里山で、食草のカンアオイを求めて、夢のように浮遊する超希少種を脳裏に想い浮かべながら、おらっちは、両の腕を、ゆるやかに羽ばたかせた。