原田淳子
深夜、見切り品を買い物籠に膨らませ
翌日の弁当の惣菜をつくる
なにかの罪ほろぼしのように
なにかの祈りのように
油で揚げれば古くなってもたいてい美味しいのよ
あしたの糧をつくるのよ
腐りかけたそら豆の鞘を剥くと
育ちきれなかった杯がこびりついた
純白の平安があった
やわらかな水の弾力が光る
真綿の繭
このなかに生まれ変わりたい
と、呟いたところで
冷蔵庫のうえに置かれた
砂抜きのアサリが
花柄ボールのなかで
ぷくっと息をした
ぷくっと、息をした
ちぃさな
泡
砂
あぁ きみの息のおおきさと
わたしの呟きはおなじね
生きようと息吹き返したものを
わたしは食べるのだ
砂を被りながら
生きても
生きても
辿りつかない
平安の鞘
わたしは
そこにゆきたいだけなのに
深夜、しがみつく世界
鞘を剥き、
アサリの砂を被る
忘却にはまだ時が足りない