脚 *

 

さとう三千魚

 
 

浜辺で

三菱トラック
CANTERの

荷台に
木造の家屋を乗せた

青年に
会った

自作したのだという

入口が
高いところに

四角く
あった

ボルダリングのホールドが

壁に
あり

それを
登り

入るのだという

部屋は四角い空洞で
高い入口から階段が降りている

空洞には大きな窓がある

住むには
足りるだろう

空洞があり
窓がある
空がある

海がある
山もある

水があれば
水浴びするだろう

脚があれば散歩ができる
細く伸びた脚で歩いていく

 
 

* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”気難しいしゃれ者の三つのお上品なワルツ” より

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

もうすぐ死ぬ男のバラード

 

工藤冬里

 
 

感傷的な詩句のいくつかはあったものの
その散財の形式は水に浮くワルツに似て
しかも四角い便器のギターに乗っており
居酒屋バイトの磊落さで
窶れた髭の笑顔を見せた

覚えなければ歌ってはいけない
そんなことまで指導され
信号待ちするその間にも
親指は休まず韻を打ち込み
茶色い草は澎湃として生え上った

克く我慢したな
と褒めてもらいたくて
商工会議所にも行った
当たり障りのない言葉遣いで
気落ちした胃の形した袋を縛った

さてまたしても夜中だ
焼肉屋は灯りを落とした
痩せた鮒のようにするりと抜け出た路地裏から
煌々としたものが漏れる小路の先にあるのが
726品目の屍であった

井戸から汲む前の
摺り切りの張力が
大理石の上で
均衡を保っていた

 

 

 

#poetry #rock musician

狂気

 

たいい りょう

 
 

無明の空虚を彷徨いながら
澄み切った 湖面を 
盲目の声で 眺めていると

森の中には
年老いた梟が 餌を食んでいて
雨 風 そして 光までをも
呑み込んでいることに 小さな声でつぶやく

小さな水たまりの傍に
古い切り株が 苔むしていて
我は そこに しばし 腰を掛け
肉体から遊離した精神の疲れを癒した

鴉の群が 葉をざわざわ ざわざわと揺らした
その瞬間 一枚の枯葉が 濡れた泥土に舞い落ちて
泥の中に沈んでいった

狂気は 森の静寂と魔性とによって
さらに 内向的になり
我の心を巣食う

終わりの見えない
黒い闇夜の天幕で
我は 一夜を明かすこととした