金魚

 

塔島ひろみ

 
 

日の当たらないアパートの6畳間で細面の女が内職をしている
白い管の両端をジャキン、ジャキンと小さなハサミで切りおとし
次々水槽に放り込む
不良品を作る仕事
だと女は言った
水槽で不良品たちは不格好に丸まって
金魚になった

その空地は
誰のものでもなく家と家、高い塀に囲まれて道から見えない
雑草が生い茂る地面がこんもり塚状になっているのは
その下に不良品がどっさり埋まっているからで彼らは誰にも見つからず掘り返されることもなく
その暗く湿った空地で生き延び密かにに交配を重ねながら土地に根付き
竹になった
周囲をツユクサやマメ科の雑草がおおい彼らを守った

時が経って人は死んだ
壊すため、滅びるために人が作ったさまざまなモノの残骸があちこちに残り
もうそれを片づける人はいない
化学物質、放射能、かつて人が「奥戸」と呼んだ一帯は水に浸かり
カラスもテントウムシもいなくなったが
竹が
所有され損なった空地で育った不良品の末裔が
黒い水面から顔を出し 風に揺れる
誰にも見られず 役に立たないまま
風に揺れる
そのそばで白い金魚がにょろにょろ動いた

 
 

(4月某日、奥戸3丁目「塚」前で)