しっかり臭い

 

辻 和人

 
 

出ない、出ない
こかずとんのウンチが出ない
おととい、出ない
昨日、出ない
今朝も出なかった
前は1日に4、5回はウンチしていたこかずとん
このところ1日に1回ペースだけど
丸2日も出ないとなると
こりゃ便秘かな?
「病院で教えてもらったやり方試してみようか」とミヤミヤ
綿棒にワセリン塗って
「肛門、ここかな? かずとん、足押さえてくれる?」
ぷゆぷゆする丸いお尻に空いた暗いピンクの穴に
ゆっくり綿棒を差し込んで

ぐーりぐりぐり
ぐーりぐりぐり

これで良し
暴れることもなくニコニコ顔のこかずとん
期待に応えてくれるかな?

ところが出ない
次のオムツ替えも出ない
その次のオムツ替えも出ない
出ない、出ない
困ったなあと思ってたら
きゅーっとちっちゃな音
やにわにミヤミヤがこかずとんのオムツに鼻近づけて

くんくん
くんくん

「してるかもしれないよ、かずとん、オムツ見てくれないかな?」
合点だあ
急いでオムツ開くと
出てるぞお
黒味がかった黄緑ウンチ
べたばべたっぷり
病院にいた頃の甘い匂いの黄色いウンチじゃない
しっかり臭い
やったぁ
さっすがミヤミヤ
ウンチの匂いなんて普通嗅ぐものじゃないんだけど
嗅ぐときゃ嗅ぐぞ
ミヤミヤ、やったぁ
かずとん、やったぁ
指しゃぶりながらこかずとんも嬉しそう
お尻ふき何枚も使ってきれいきれいして
さて、新しいオムツ履かせるか

まさにその時
ぶっりゅりゅりゅーっ

かずとんのシャツめがけて第2弾発射
2日と半日分
黄緑の濁流は
かずとんの白いシャツを
べたべたたっぷり染め上げた

「大変大変、洗濯するからすぐ脱いで。
それにしてもこかずとんのウンチ、勢いあってお見事だね」
あはは、見事お見事
ぐーりぐりぐり、が
くんくん、になって
ぶっりゅりゅりゅーっ
見事お見事
しっかり臭い
黄緑ウンチはいい匂い

 

 

 

鬼ごっこ *

 

さとう三千魚

 
 

昨日
帰ってきた

西馬音内では
女たちや

男たちが
編笠や頭巾を被り

かがり火に照らされてお囃子で踊るのを見ていた
みどりの稲穂が平らにひろがり風に揺れるのを見ていた

鬼が

鬼たちが
つかまえられない

母に送った薔薇が姉の庭に深紅に咲いていた
桑原正彦の絵が母の部屋の漆喰の壁に掛かっていた

母も
桑原も

いないが
いつか

また
会おう

 
 

* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”スポーツとあそび” より

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

Canopy

 

工藤冬里

 
 

そういえば水の中でしか花火見てない
どうせ金魚鉢だからドレスひらひらさせてりゃいいよ
池に打ち込むと凄いの知ってる?
昔止められたけど
花火は水の中で見るに限る

星や木や動物や人間
を英訳していて
花火を見逃した
天蓋は非常に小さく
演繹は四方八方に間違った光を放出していた
フグはそれでも
幾何学の中でゴミを片付けた
邪悪が四方八方秋に向けて
海水の温度を上げ始めていた
狂う人は愛によって狂い
狂わぬ人は愛の欠如によって名乗り出なかった

準備が出来ているとは準備出来ていないと思うということであり、その束、束の切れによってばさばさと進んで行くのが俳句における急き立てであり、文体を形作る服ともなっていく。特攻服が腑に落ちないのはそのためだ。アンビバレンツが「整う」ことはないからだ。見切り発車と途中下車を繰り返すのが人生だ。

 

 

 

#poetry #rock musician

東京球場

 

廿楽順治

 
 

その頃
才能というものを思っていた

落ちてくる球の影を
ぼくは
きちんと受けられるだろうか
とか

(ばかだよね)

あのじいさんたちは
捨てられた野手のように構えながら
すでに
腰をあげることができないでいた

落ちきってしまった
子どもらに
どんな
まぶしい地名をつけてやるか

見あげたまま
あやまって
かわいいぼくの目玉を
踏んでしまう

じいさんたちは
おかしいくらい
才能のないひとたちであった