公園

 

塔島ひろみ

 
 

大きいものは大きいものに呑まれたのだ
少しあたたかくて やさしくて
何だがくっついていたかった
ずっとくっついていたかった
安心だった 気持ちよかった
大きいものは調子に乗って 風に乗って
もっと膨らみ大きくなって
ちょっと怖い感じになって
しがみついてついていくけど 精一杯で
手が疲れて 放して
私は落ちた
大きいものは私なんかにおかまいなし
大きくぶわっと広がって
分厚いまま巨大なコンドルのように空をおおった
そして見てたら もっと大きなものが来た
もっと大きいものが来て 大きいものを呑みこんだ
あっという間に呑みこんで
それからそれは空に呑まれた
青空に呑まれた
何もない
手を伸ばしてもさわれない
みんななくなってしまったよ
太陽がまぶしく 肌がかわいて
のどもかわいて
川の方に歩いていく
川の前に公園がある
広い広い公園がある
昔はなかった公園がある
誰もいない公園がある
大きなものがここにあった
今はなくて
ただ 誰もいない公園があった
すべり台とブランコがあった
私は川に向かっている
川に行くと向こう岸が見えるから
私はかつて 
向こう岸に住んでいた
はるか向こう岸に住んでいた
振り落とされてこっちに落ちた
それでこっちに住み もう向こうには戻らない
公園がある
よく見ると 小さな人があちこちにいる
大きなものからこぼれ落ちた 小さなものがあちこちにいて
大きなものをのみこんだ空の下で
大きなすべり台にかけあがって
手をのばして
うわっ 飛び降りたよ 転がって 起き上がって
泥んこまみれで 笑っている
ケタケタ ギタギタ キラキラ クツクツ

 
 

(10月某日、東立石緑地公園付近で)

 

 

 

ノッたもん勝ち

 

辻 和人

 
 

たまーにお願いするんだ
家事育児代行サービス
地域のNPOが運営してて安いお金で引き受けてくれる
コミヤミヤ・こかずとんはかわいいけど
双子育児はどうしても寝不足になるしたまには外でひと息つきたい
今日はミヤミヤが美容院、ぼくはお昼寝
ということで、ピンポーン
やったぁ、Yさんだ
この人何度かお願いしたことあるけどすばらしい
70手前くらいの年齢だけど昔保育園に勤めててね
子供をあやす技術バッチリなんだ
Yさん見ていきなり泣き出すコミヤミヤとこかずとん
「はいはい、元気がいいですね、手を洗わせていただきますよ」
洗面所から出てきたYさんが割烹着型エプロン着ると
ぴたっと泣き止むコミヤミャとこかずとん
この古びたエプロンのぼわぼわ感がいい
太い腕広げて
交互にぼわぼわ包む
包まれた方はほけーっとした顔
「子供たちが落ち着いたらモップで床を掃き掃除していただけますか?
 私、上で休んでますので何かあったら呼びに来て下さい」
目覚ましかけてベッドに倒れ込んだ、さぁ、寝るぞぉ

ふぁー、よく寝た
2時間たって下に降りると
おやおや、2人ともギャン泣きしてる
こいつらもお昼寝から覚めたばっかりで頭が混乱してる
ぼくなら取り乱すところだけどYさんは違う
ガラガラを鳴らしながら太い声で歌いだす
「ぞーおさん、ぞーおさん、おーはながながいのね」
「めーだーかーのがっこうはー、みーずーのーなかー」
「あっめあっめふっれふっれかーさんがー」
大昔の歌ばっか次々と、2人の上で身をかがんで
コミヤミヤが手を振り回して泣いても
こかずとん足バタバタさせて泣いても
動じない、動じない
「そうなのぉ、泣いてるのぉ、泣きたいんだよねぇ。
 じゃあもっと歌ってあげるからねー」
泣いてるから歌ってあげるってどういう論理だ?
しかし、ほれ見よ
コミヤミヤ、泣き止んでYさん見上げてる
こかずとん、泣き止んで微笑んでる
「すごいですね、さっきまであんなに泣いてたのに」
「リズムですよ、幾ら泣いてても騒いでても
 こっちがそれ以上にノッてると子供たちは必ずノッてくるんです。
 こういうのはノッたもん勝ちなんですよ、それにしても2人ともかわいいですねぇ」
皺くちゃの笑顔きらきら

地域の宝だなぁ
このすばらしい仕事に見合うお給料出てるのかなぁ
NPO勤めだもんなぁ
ああ、でももらえるお金少なくても引き受けちゃうんだろうなぁ
子供相手の仕事が
好きで、好きで、好きで
仕方ないんだろうなぁ
ううっ、ぼくはここまで仕事に情熱持てているだろうか
早く休日にならないかとかそんなことばかり考えてた
育休終わったらぼくも
Yさんみたく
ノッて、ノッて、ノッて
仕事して会社の業績に貢献するぞ
ううっ、Yさん、これから暑くなるからとにかく身体に気をつけて下さいね
エプロンみたいな歌声がぼわぼわ2人を包んでいく
「かーらーすー、なぜなくのー、からすはやーまーにー」