加藤 閑
夏――いくにちか
薔薇の同時代者になる。
リルケ『薔薇』より(高安国世訳)
薔薇族に五月の雨ぞ匂ひたつ
眼球に薔薇の刺青の彫り師かな
新しき血を欲しをり薔薇の棘
俄にはそれとは知れず薔薇の裔
花園に知と愛あふる蝶の群れ
虹失せて叛きの悲歌は限りなし
海亀にボーイソプラノ夢制す
薔薇の精に抱かれ夢む神なき世
銀漢や白き櫂入れ残りの生
薔薇を焚き世界を止める刹那あり
琴鳴らし死者と交はる嵐の夜
鳥の死にソネット響く薔薇の園
薔薇淫ら金泥の文字に封じられ
濡れそぼつ女乞食は薔薇かかへ
堅き実嚙んで少年愛消す晩夏
断末魔薔薇一輪を挿してをり
蜜溢れざらつく舌に虹の痕
霜降りる石棺の蓋に隠さるる
薔薇の刑神は姿を隠しけり
黒点はかつて薔薇の木在りし場所