廿楽順治
声をだしながら
背後をあるいているひとはこわい
耳だけのものが
足下にいて
聞き取れなかった声を
(うまい、うまい)
と舐めているのかもしれない
声をだしているそのひとは
つまり
遠くにいるべつの「わたし」だ
(そうか)
会話だからこわいのか
「わたし」になれなかった
うしろの生きものが
舐めるように
かかとへ話しかけてくる
声をだしながら
背後をあるいているひとはこわい
耳だけのものが
足下にいて
聞き取れなかった声を
(うまい、うまい)
と舐めているのかもしれない
声をだしているそのひとは
つまり
遠くにいるべつの「わたし」だ
(そうか)
会話だからこわいのか
「わたし」になれなかった
うしろの生きものが
舐めるように
かかとへ話しかけてくる