広瀬 勉
#photograph #photographer #concrete block wall
ガラスの破片が散らばって
庭はキラキラ光っていた
花の咲かない庭 乾いた庭
うすっぺらい ちっぽけな死体がひとつ落ちていて
風が吹くと少しだけ揺れる
土の下に種はあるのか
手をつっこまないと わからない
何年も経ってみないと わからない
古い羽根が落ちている 鳥は来ない
窓はこわれ とっても悪いことをした人が
反省もしないで 窓によりかかって外を見ている
庭を見ている 花の咲かない庭を
吹きさらしの廊下に
幽霊のように立って
子どもも 虫も 遊ばない庭
その上に広がる青くない空
ポケットに手を入れて 見ている
斜めに差し込む冷たい光
割れたガラス 割れた土
庭を見ている
花を待って 庭を見ている
ガラスを持っている
ポケットに 尖ったガラスの破片と
夢のかけらを持っている
悪いことをしたくせに
ポケットに夢を持っていた
小さな夢を持っていた
反省もしないで
言えない夢を持っていた
窓によりかかって 黒い炭のような心で
悪いことをした人が
とんでもない人が
キラキラ光った
ガラスが刺さっている
夢を持っている
光っている
誰も見ていない
(3月某日、奥戸4丁目ガラス工場近くで)
街角ピアノの夢を見た
たまたまテレビで何回か見たことがある
駅の構内や公園 それこそ街角に
どなたでもご自由にと置いてあるピアノ
見始めると そこにある小さなドラマ
なかなかいいのです
今日、夢に見た街角ピアノ
違う場所にいくつか 置かれていたが
どれも普通のピアノとは違っていた
だれかの手作りピアノ
工作で作ったような木造りの
黒く塗られた 小さなピアノ
見た目はピアノの形をしていたが
細部はまるでピアノではなく
合板をカットして貼り合わせたようなもの
だれがなんのためにおいたのか
近寄って蓋の部分をあけてみると
なかは空っぽで ただの函
外形は ピアノの形だが なんだろう
蓋に小さく aという文字
サインなのか 商品記号なのか
夢は続いていた
二番目のピアノはもう少し大きめで
細工も丁寧 細部もピアノに近づいているが
やはり工作で作ったような 合板貼り合わせ
都会では珍しい 長い生け垣の曲がり角
そっと置かれていた
蓋をあけると やはりがらんどう
ぽっかり黒い穴
蓋には小さく rai とアルファベット
だれがなんのために
街角ピアノ なぞめいている
三台目は早朝の井の頭公園の野外ステージ
さらに精巧につくられていたが
やはり工作室の作者苦心の作品だろう
不審そうにステージに上って
ピアノにさわる おんなの子とお母さん
鍵盤もなければペダルもない
首をかしげて 去っていった おんなの子とお母さん
蓋には小さく shin とアルファベット
四台目は わりと瀟洒な住宅街
煉瓦と白壁の欧風の家の玄関脇に
一段とクオリティをました
黒い光沢もピアノらしいものが鎮座している
御婦人が玄関をあけて外に出る
「あらこんなところにピアノが!」と
嬉しそうな声をあげ 蓋をあけた
見た目はほぼほぼピアノに近かったが
やはり なかは黒い空洞であり
御婦人は 「あらまっ」とつぶやいて蓋をしめ
なにごともないかのように
ユーミンの「春よ、来い」を歌いながら
出かけてしまった
蓋には ichiとイニシャルのような
アルファベットが 金文字で書かれてあった
夢のなかで 振り返ってみた
ローマ字で置かれた イニシャルを
つなげてみると
a rai shin ichi となった
ア ライ シン イチ って
知り合いにひとり同じ名前の男がいる
彼が?
僕は彼の住んでる浅草の家を
はじめて訪ねてみた
すぐに見つかったarai shinichiの家
思った以上に広いアトリエに住んでいて
床には木の切れ端や 木工の工具や塗料
酒瓶やグラスが 乱雑に広がり
作りかけの 木工のピアノ型のものが
まさにピアノとしか見えない形状に仕上がっていた
僕に気づいたのか 気づかなかったのか
arai shinichiは ピアノの蓋をあけると
そこには鍵盤までついていて
いきなりショパンのワルツを弾き出した
彼のテナーサックスは聴いたことがあるが
ピアノは初めてだった
あまりうまいとは言えないし
音色もホンキートンクだったが
なかなか愛らしいピアノだった
蓋を見ると arashin と金文字のイニシャル
部屋を見渡すと 画集のような書物と
好みで蒐めたような フィギュアのなかに
僕のつくったテラコッタの可愛いのが置かれてあり
一枚、見慣れた写真が貼ってあった
それは 有名なバンクシーのグラフィティ
花を投げる少年のポスターだった
なぜか赤いバッテンがつけられていた
そのあとの委細はわからない
arashin とイニシャルされたピアノは
どこにどうやって運ぶのか
夢から覚めてしまっちゃ わからない
というより ここまで書いて
テレビをつけたら
街角ピアノ京都編がはじまったところ
ピアノを学ぶイケメン青年が
ショパンのノクターンを弾いていた
やってくれるなあ、arashin!
* arashinは、彼が1980年代に「仁王立ち倶楽部」というカルト的ミニコミ誌を編集していた頃からの付き合い。美術家であり、過激なパフォーマンス・アーティストとして国内外で活動する、酒と蕎麦が好きな男。
そこにいた
そこに
いて
しばらく
横に
なっていた
白い脚を伸ばしていた
緑色の
爪が
きれい
一瞬
空の蝶を眼が追っていた
空に雲が流れていた
・・・
** この詩は、
2024年3月27日水曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第3回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。
#poetry #no poetry,no life
沈黙だけがあった
風の音は わたしに
何も語らなかった
物音ひとつ立てずに
目の前を 通り過ぎていった
妖精が放つ光は
役者を盲目にし
孤独を搔き立てた
汗と涙は 観者を発狂させ
沈黙は沈黙を閉じ込めた
すべてが一瞬のうちに
消えてしまった
残像さえも 影となって