辻 和人
何?
イヤ
怖い
ピンポーン、ガチャ
突然おっきなの入ってきた
ミヤミヤの古くからのお友だちMさん
学生時代バスケの選手やってて
今は大学図書館の司書さん
ミヤミヤより頭一つ高く横幅も倍増し
「あらー、はじめましてー。
コミヤミヤちゃんとこかずとんちゃん。
ああ、やっぱりちっちゃくてかわいいね。ウチの子もこんな時あったわ」
天狗のウチワみたいに両手いっぱい広げる
ウチワみたいに振ったもんだから突風が直撃
マットから恐る恐る覗いていたコミヤミヤもこかずとん
ひぃえー、ひぃえー泣き出した
ちょっと前から始まった
人見知り
もう人を見分けられるんだ
知ってる人じゃなかったら泣きわめくんだ
知ってる人ってミヤミヤママとかずとんパパくらいしかいないんだ
家に入ってくる人顔出した人
点検のおじさん、ひぃえー
宅配のおじさん、ひぃえー
そしてMさんにも、ひぃえー
「ああ、驚かせちゃったかなー、ごめんごめーん」
苦笑のMさんとミヤミヤ
Mさん全然悪かないけど
見分けられちゃったんだからしょーがない
久しぶりに会うMさんとミヤミヤはつもる話をいろいろ
「上の子も下の子もそろってアニメに夢中で困っちゃう」
「Yさん台湾の方と結婚して現地で暮らしてるんですって」
注意が向かなくなったことを察したコミヤミヤとこかずとん
コミヤミヤは腕をふんにゃふんにゃハイハイに挑戦
こかずとんは仰向けの姿勢でもぞもそっ宙を蹴る
カップ片手にただただ話に頷くだけのかずとんパパが
ちらっちらっ目で応援してくる
和やかな時間
それがそれが
「そろそろ帰るから。最後にちょっと抱っこさせてもらっていい?」
天狗のウチワみたいな両手迫ってきた
いきなり宙に掬いあげられた
ぼてぼてした巨人に抱きすくめられた
知ってる人じゃない!
ひぃえー、ひぃえー
般若顔真っ赤にして声張り上げるコミヤミヤ
人はみんなおんなじじゃない
知ってる人と知ってない人がいる
知ってない人は怖い
お次はこかずとん、腫らした土偶の目になって
ひぃえー、ひぃえー
「あーら、ごめんねー。
そうだ、忘れてた。アンパンマンのお人形持ってきたから許してね」
突如巨人のウチワのひと振りで出現した
真っ赤な鼻に口がびゅっとU字型にひん曲がったまんまる顔
コミヤミヤもこかずとんも
ひぃえー、ひぃえー
見分けられたから怖いんだ
見て、分ける
今まではただ目に入ってきたものを漠然と「見る」だけだった
「分ける」ことができるようになってきたんだな
Mさん天狗のウチワ振りながらバイバイ
ようやく「怖い」が遠ざかる
コミヤミヤよ、こかずとんよ
見分ける、は、怖い、を連れてくることもあるけど
それでも見分けることはすばらしいことなんだよ
そりゃもう寝返りが成功して
初めて頭を持ち上げて
目の前の風景が一変するのと同じくらいすばらしい
見て
分けて
怖かったり怖くなかったり
繰り返していく、それって
ほんっとすばらしいことなんだよ