長尾高弘 詩集「長い夢」を読んで、若い人に会う。

 

さとう三千魚

 

 

長尾高弘さんの詩集「長い夢」を読んでみた。
1995年に出版されているが1983年以前に書かれた長尾さんが18歳から23歳の頃の作品なのだと「あとがき」にある。

わたしにも若い時はあったが、長尾高弘さんにも若い時はあったのだろう。
この詩集の詩は、いま長尾高弘さんが書かれている詩とは違って見えるが通底するところもあるのだろう。

「白いもの」という詩がある。

 

白いもの

私の
ゆらゆら揺れて
崩れて流れそうな風景の虚像は
噛めば噛むほど
白く
ぐにゃぐにゃと粘着してのび
顎骨を抱きこみ締めつけるが
噛むことは決してやめてはならない
それは口からはみ出して
まず両眼をつぶしにかかり
頬にも首にも乳首にもへばりつき
瞬く間に田虫のように全身にひろがって
大きく波うつ
そして白いのっぺらぼうの団子になった
私はじっとしていることは許されず
穴だらけの地面を
頼りなげによろよろ転がり
やがて鈍い音を残して
なくなる

 

世界は「崩れて流れそうな風景の虚像」として見える時があるだろう。
世界は「ぐにゃぐにゃ」に見えることがある。
この「白いもの」とは自己なのだろう。
自己は「大きく波うつ/そして白いのっぺらぼうの団子になった」のだ。

また、ひとつ「満月」という詩を読んでみる。

 

満月

ある日突然
抜け毛が気になり出し
またある日突然
止まった
頭の頂上に
直径5センチの丸い禿ができた
周囲の毛で
一生懸命隠したが
まるで薄野原の月見ね
と女が笑った

 

ここにも長尾高弘さんの自己への眼差しがある。
「まるで薄野原の月見ね」と女に笑わせている。
二十歳前後の若い長尾高弘さんが自己を突き放しつつ自己を肯定している。

最後に「長い夢」という詩を読んでみる。

 

長い夢

瞬きながら
私はそんな重荷に耐えられない
キラキラ光り
あなたの茂みから
あなたの溶岩のように
流れ出ている
あなたのえもいわれぬ匂い
私はその匂いが好きだ
あなたの赤い肌に
うぶ毛がぴったりと
はりついている
あなたの崩れた笑顔が
私の前で動かない
私は殆ど吐き気を感じている
父親の上に胡座をかいて
油を売っているあなた
隠したくなる場所もない
私は危ない道でつんのめった
あなたのたっぷりと余った身体を借りて
私は長い夢を見よう

 

「私」はやがて「あなた」に出会うのだろう。
「あなた」は「溶岩のように/流れ出ている」だろう。

「あなたのえもいわれぬ匂い/私はその匂いが好きだ/あなたの赤い肌に/うぶ毛がぴったりと/はりついている/あなたの崩れた笑顔が/私の前で動かない」

ここで私は他者に出会うのだ。
他者は私を受け止める「たっぷりと余った身体」を持っているのだ。

わたしは長尾高弘さんの詩集「長い夢」を読んで「若い人」に会えたと思えた。
「若い人」に会えて嬉しいと思った。
「若い人」は長尾高弘さんであり、わたしでもあったのだろうと思えた。

「若い人」は自己の先に他者に出会い世界に開かれる萌芽のような存在なのだろう。

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です