どんな希望があるか *

 

今朝も

仏壇に
水とお茶とご飯を供えた

花の水をかえた

味噌汁を作った

サラダを
女に持たせた

モコは

女から薄いハムを貰ってた
キャベツの千切りと人参と犬飯を食べた

羽毛ふとんのなかに埋まってモコはねむった

洗濯物を干し
ゴミを出しにいった

さざんかが紅く咲いてた

西の山の上には
雲が

いない

この窓からヒトの姿がみえない

どんな希望があるか *
どんな希望があるか *

地上にはいま77億人のヒトがいるのだという **
2050年には100億人に達するのだともいう **

地上にいて
西の山を見ている

雲が
いない

山の向こうに

いないヒトがいる

 

* 工藤冬里の詩「自販機」からの引用
** 国際連合広報センター「世界人口推計2019年版:要旨 10の主要な調査結果(日本語訳)」を参照
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/33798/

 

 

 

あきれて物も言えない 08

 

ピコ・大東洋ミランドラ

 
 


作画 ピコ・大東洋ミランドラ画伯

 
 

やらなければならないことを置いて

 

ここのところ滅入っている。

そんなことを書くと幸せな方々の気分を悪くさせてしまうようで、
申し訳ない気分です。

どうして気が滅入るのだろう。

人には言えないような理由はいくつかあるのだがこの滅入ってくるという気分は、
わたしの平常心なのかもしれないとも思う。

この男、あまり面白くない奴なんですよね。

一昨日は、
やらなければならない事を置いて犬のモコと海を見にいった。

今日は、
やらなければならない事を置いて、
モコと居間のソファーで横になっている。

洗濯をする。

部屋の掃除をする。

トイレも綺麗する。

草をむしる。

玄関の絵を掛けかえる。

野菜と肉の煮物を作る。

水曜文庫に遊びに行き本を買ってしまう。

モコと散歩する。

そんなことでやらなければならないことから逃避している。

一昨年だったか、
東京からここに引っ越してきたが、
本の山をやっと二階の部屋に押し込んだのが去年だった。

それで下の部屋の襖が開かなくなったと女に小言をもらった。

だいたい、
本というものを売ることも捨てることもできない。

それでも本は買ってきてしまう。

本や詩集を送っていただいても、
なかなか読みすすむことができない。

お礼状も書かなければならないができていないものがたくさんある。
申し訳なく思っている。

だんだんと気が滅入ってきて身動きができなくなってしまう。
やらなけれならないことを置いている。

やらなければならないことは、
誰かと約束したことではないがやらなければならないと自分で自分に約束したことなのだった。

挨拶とか礼とかがある。
やらなけれならないことを置いているとやがて淋しい心細い場所にいることになる。

そんなことを考えているとよけいに気が滅入ってくる。

今朝も、
早く起きて、義母の仏壇に、お水とお茶とご飯をあげて線香をたてた。
それからモコと仏壇に手をあわせた。
義母のこと、母のこと、義兄のこと、
女とモコのこと、子どもたちのこと、秋田の姉と兄のこと、志郎康さんのこと、友人たちのこと、などなど、
みんなのことを祈った。

それから味噌汁を作った。

女の弁当とサラダも作った。
朝ごはんを食べた。
洗濯機を動かした。
洗濯物を干した。
浜風文庫にひさしぶりの志郎康さんの詩をアップした。
それでいまこれを書いている。

いまは、やらなければならないことを置いて、全部、置いて、詩を書きたいですね。
詩といっても詩とは別れて詩ではない詩を書きたいですね。
その後で、モコと浜辺に行きたいな。

あきれて物も言えません。
あきれて物も言えません。

 

作画解説 さとう三千魚

 

 

 

川床の工事 *

 

その女が
忘れられない

だけど

はは

それが誰だか
忘れた

それゆけ、ポエム。 **
それゆけ、ポエム。 **

遠い
遠い

俤の

裸足の

白い
ほそい中指が

綺麗

川床に
ゆらゆら

揺れてた

ゆらゆら
揺れていたな

コントラプンクトゥス

コントラ
プンクトゥス

コントラ
プン

死後 ***
未完のまま ***

出版された ***

川床をユンボで掘る
川床をユンボで掘る
川床をユンボで掘る

石は川岸に積む

その女は原発にやられた
その女は原発にやられた

 
 

* 工藤冬里の詩「森で眠るようになる」からの引用
** 鈴木志郎康の詩「詩」からの引用
***ウィキペディア「フーガの技法」からの引用

 

 

 

きみの夫は下層であった *

 

若かったころ

四谷の

三栄町の
公園の

鳩の

地面のパン屑をついばむのを
みてた

夏の初めの
空の

水いろの

松の葉がさわさわと揺れ
てた

さわさわと
さわさわと

揺れて

いたな
みていたな

若かったころ
きみの夫は下層であった *

鳩たちは

公園の
パン屑を拾って

生きてた

若かったころ
きみの唇は赤く睫毛は長く黒く

きみの夫は
四谷の

教会の鐘の音を聴いてた

若かったころ
若かったころ

知らなかった

ラルゴも
エレジーも

知らなかった

きみの夫は
松の葉がさわさわと揺れてた

きみの夫は下層であった *
きみの夫は下層であった *

いまは
1886年のエレジー **を聴いています

 
 

* 工藤冬里の詩「酢waters」からの引用
** エリック・サティ「1886年の3つの歌」の「エレジー」のこと

 

 

 

白馬に囲まれる *

 

空白から

はじめたのか

なぜ
空白から

はじめたのか

そこに波だつものがいたからか
そこに波だつうなばらの

女がいたからか

そうなのか

はじめたのか
同緯度同縮尺のつもりで *

旅に
でても

空白を連れていく

波だつもの


白馬

そこにわたしだけの白馬が裸足で佇ってる

女だ
白馬だ

白馬に囲まれる *
白馬に囲まれる *

白馬の汚れた長い髪を撫でる
白馬の汚れた長い髪を撫でる

うなばらの
汚れた長い髪の
女の
首の
白馬の

抱きしめている

うなばらに佇つ女の
白馬の

しろい首を抱いている

 
 

* 工藤冬里の詩「大阪で」からの引用

 

 

 

障害があって結婚しない人が忘れられている *

 

いちど
若いとき

百姓だね


言われたことがあった

小沢昭一さんに言われた

若い時から寄席に通う江戸っ子だったから
小沢さんの

百姓だねは

蔑称だと
思った

でも

どうなんだろう

たしかに
この男は百姓の子だった

百姓の子が百姓がやで都会に出てきたのだった
土地から引き剥がされれば

流浪者だけど

百姓の気持ちが残っていて
道端の草の葉を

噛んだり
する

工藤冬里の詩に
障害があって結婚しない人が忘れられている *

という言葉があった

土地から引き剥がされてみて
百姓は

流浪になる

流浪も忘れられている

 
 

* 工藤冬里の詩「興味を失くしたようだ」からの引用

 

 

 

あきれて物も言えない 07

 

ピコ・大東洋ミランドラ

 
 


作画 ピコ・大東洋ミランドラ画伯

 
 

去年の今日、だった

 

義母が入院したのは、去年の今日だった。
もう、一年が過ぎてしまった。

心不全と腎臓の機能低下のため義母の足は象の足のように浮腫んでしまっていた。
それで入院して強い薬を使って浮腫を抑えることになったのだった。
入院してすぐに薬を投入すると浮腫は驚くほど解消されたのだったがあの日、義母の意識は混濁してしまった。

大病院の五階の病室のベッドには虚ろな表情の義母がいた。

それから一ヶ月間、義母は入院した。
毎日、女とわたしは病院に見舞った。
混濁した意識は、まだらに回復して、家に帰りたがる義母を、
担当医に相談して在宅医療の医師、介護施設と連携してから、退院させた。
退院時に担当医から余命は約一ヶ月と言われた。

退院の日、義母を車に乗せて、すぐに家には帰らずに、
病院から出て、港町の風光のなかをドライブして、浜辺まで行き、義母に海を見せた。
最後のドライブだった。

空は、よく晴れていて、海は、キラキラ、光っていた。

退院した義母には、いちごやメロン、マグロ、牛肉や、和菓子など、好きなものを食べさせた。
美味しそうに、義母は、たくさん、食べてくれた。
犬のモコも、義母の帰りを喜んでベッドにあがって義母の顔を舐めていた。

しかし、担当医の言った通り、心臓はもたなかった。
義母は退院して一ヶ月で逝った。
もうすぐ、一年になる。

 

話は変わるが、
悲報だった。

12月4日、
アフガニスタンで活動している中村哲医師が銃撃されたというニュースだった。

翌日の新聞で中村哲医師が亡くなったことを知った。
アフガニスタン東部ジャララバードで12月4日朝、銃撃され、死亡した。

中村哲医師の活動については、かつてNHKのドキュメンタリーを見て知っていた。
ドキュメンタリーでは中村哲医師がアフガニスタンでユンボを運転して現地の人々と灌漑用水路建設に従事している映像を見た。
医師とは思えない姿だった。
映像の中で「100の診療所よりも1本の用水路」ということを語っていた。
現地に居て現地の人々の惨状を知り尽くして語った言葉だろう。
砂漠に水があれば、清潔になり、病気を予防し、食うものも作れるから、
アフガニスタンの人々には何よりも井戸と用水路が必要なのだということだったろう。
畑で食うものさえ作れれば、男たちがタリバーンやイスラム国の傭兵として金を稼がなくて済むということだったろう。

その中村哲医師が、運転手や警備員5人とともに銃撃され殺されてしまった。

タリバーンの幹部は事件後に犯行を否定する声明を出したのだという。
中村哲医師を殺害してアフガニスタンの人々にはどのようなメリットがあるというのだろう。
ジャララバードでは4日夜に中村哲医師の追悼集会が開かれたのだと12月5日朝日新聞の夕刊には書かれている。

「中村さんは懸命に働き、砂漠を天国の庭のように変えてくれた」
「あなたはアフガン人として生き、アフガン人として死んだ」

現地NGOメンバーたちの言葉だ。

人はいつか死ぬだろう。
誰にも平等に死はやってくるだろう。
身近な人々、友人、見知らぬ人、われわれ自身に、死は、訪れるだろう。

アフガニスタンで銃弾に倒れた中村哲医師のような人もいれば、
金髪の米国大統領の傍でニヤニヤしているこの国の首相は、日本ではお仲間を集めてお花見をしているわけなのだ。

この国で、よくも暴動が起こらないものだと思う。
この国の若者たちはおとなしく飼いならされた羊のようだ。
深く深く絶望しているのだろうか?

この世界を分断は覆いつつある。

あきれて物も言えません。
あきれて物も言えません。

 

作画解説 さとう三千魚

 

 

 

死の香り *

 

日曜日の午後に
出かけて

いった

もう
おとといか

ロジャー・ターナーと
高橋悠治の

DUO
“たちあがる音楽” に

いった

青嶋ホールという
コンクリートの打ちっぱなしの音楽堂で聴いた

ロジャー・ターナーのドラムス・パーカッションと
高橋悠治のピアノのDUOだった

ロジャーは
シンバルをフォークで突き刺した

キーキー
引き裂いた

高橋悠治はピアノをピアノで無化していた

そして

無音に
帰る

意味がなかった
無意味とも違う

佇む

ヒトがいた

星空を

過ぎる風が
いた

流れる乳白の星雲がいた

いつまでも
なつかしい死者たちの横にいて沈黙の音を聴いている

女たち
男たち

ヒトの生は死の香りがする

 
 

* 工藤冬里の詩「捕虜となった私」からの引用

 

 

 

浅い墓に埋める *

 

朝から
波多野 睦さんの

歌う

“溺れた少女のバラード” を聴いている

ブレヒトが

右翼に殺されて

運河に投げられた
ローザ・ルクセンブルクを悼み

書いた
詩に

クルト・ヴァイルが曲をつけた

天はオパール色にかがやいた **
神は(ゆっくり)忘れていった **

一昨日
姉と

電話で話した

秋田の西馬音内では
雪がたくさん

降って

朝4時に
起きて

雪かきをしてるといった

雪かきをしていると
姉はいった

去年まで
義兄がしていた

アフガニスタンでは
その医師も

銃撃され死んだ

浅い墓に埋める *
浅い墓に埋める *

そこにいつかはいる
そこにいつかこの男もはいる

今朝
庭のハクモクレンの花芽は雨に濡れて光っていた

いつか浅い墓にはいる

 
 

* 工藤冬里の詩「幻羊/浅い墓」からの引用
** 波多野 睦のCD「猫の歌」所収「溺れた少女のバラード」からの引用

 

 

 

魚群も鳥の群れもクラゲのように窄んで開く *

 

小さな

旅から
帰ってきた

女と犬が迎えてくれた

旅では
生きてるうちに見られなかった夢を **

聴いた

竹田さんが
嗚咽するのをみた

それから
荒井くんと

吾妻橋藪で蕎麦を食べた

夕方
村岡由梨さんのイデアという映画をみた

ひかりがあり
そのひかりを問う映画だった

肉体の
牢獄からひかりをみたのだろう

死のレッスンはまだつづけなければならない

それから
山形訛りの男たちと会った

男は
村では

赤だと言われたのだろう

上原では
詩人たちの詩を聴いた

詩はあなたとわたしの間にある
詩はあなたとわたしの間にある

魚群も鳥の群れもクラゲのように窄んで開く *

窄んで開く *

ことばで
語れないこともある

背黒イワシの群れが
海面を真っ黒に染めるのを小舟から見たことがある

浜辺でカモメたちが空中に浮かんで停止するのを見たことがある

語れない林のなかに
紅い山茶花の花がひらいている

 

* 工藤冬里の詩「海抜ゼロ」からの引用
** A-Musikの曲「生きてるうちに見られなかった夢を」