家族の肖像~親子の対話 その59

 

佐々木 眞

 
 

 

お母さんがいま死んだら、コウ君をどうしたらいいの?全部教えておいてもらわないと。
ケンちゃん、何も心配しなくてもいいの。コウ君は黙って受け入れて前に進んで行く人だから。

今後って、なに?
これから、よ。

ぼく、コマキさん、好きになりましたよ。
そう、よかったね。

お母さん、ぼくキシモト先生にサヨナラすればいいですお。
そうなの?

おばさん、「キャンディ、キャンディ」見た?
まだ見たことないから、今から見るよ。

おじさん、注意してないと。
そう注意してないとね。

コウちゃん、痛いですか?
痛くないですお。

お父さん、ビデオ終わりましたよ。
分かりました。
ぼく、言いましたよ。

ぼく、ケンけんちゃんにブドウ持って行きますお。
そうか。よろしくね!

お母さん、常識って、なに?
当たり前のことよ。

ヤベエ。
なに?
ヤベエ。

お父さん、草刈の英語は?
うーん、草刈ねえ。調べとくよ。
草刈、草刈。

せっかく、は?
いいチャンスだから、かな。

にんまり、なに?
ニタアと、わらうことよ。

疑うって、なに?
そうかなあ、って思うことよ。

お父さん、今日ヒガさんの最終回のビデオ撮ってね。
分かりました。
DVDにしてね。
分かりましたあ。
お母さん、お父さんに言ったよ。
良かったね。

なんでイトウさん、雪ノ下へ引っ越したの?
独りになったからよ。

お父さん、お母さんは?
当ててごらん。
おばあちゃんチ。
ピンポン!

大きいおばあちゃん、園部で生まれたの?
そうだよ。
ソノベ、ソノべ、ソノベ。

転院て、なに?
病院を変わることよ。

半、30分のことでしょう?
そうだね。

僕、緒方拳好きだお。
お父さんも。
お母さん、緒方拳が好きだな。

さいたま新都心って、新しい駅ですお。知ってた?
知ってたよ。

お父さん、おばあちゃん、まえ寝られなかったんですお。
そうだったんだあ。

お詫びって、なに?
ごめんなさい、よ。

本日限りって、なに?
今日だけ、よ。

大家さんて、なに?
借りたい人に、おうちを貸してあげるひとよ。

新横浜、新しい横浜でしょ?
そうだね。

ぼく、クロサカ先生とカケガワ先生、両方好きだお。
お父さんも。

日暮里・シャジンライナー好きですお。
シャジン、シャジン? コウ君それは舎人と読むんだよ。
トネリライナー、トネリライナー。

お父さん、「頭使え」と怒られたんですよ。
誰に?
ヤマダ先生に。
そうか、お父さんがそのヤマダをやっつけてやる!

お母さんは?
いま外でお掃除。お父さんじゃ駄目なの?
駄目ですお。
じゃあちょっと待ってね。電話切るなよ。
分かりましたあ。

大きいおばあちゃん、園部で生まれたの?
そうだよ。
ソノベ、ソノべ、ソノベ。

お父さん、リコちゃんのビデオ観たいですお。
よーし、いまセットするね。

ぼく、緒方拳と竹中直人好きですお。
お父さんも。
お母さんは、緒方拳が好き。

ぼく、トシヒコ君だお。
こんにちは、トシヒコ君。

十二所神社、オクラあったよ。
いつ?
昔。
どこに?
畑に。

コウ君、お父さんと一緒にゆっくり死んでいこうね。
分かりましたあ。

お父さん、腰痛かったら?
コウ君、腰痛いの?
痛くないお。腰痛かったらサロンパスですお。
そうだね。

お母さん、ヒコクニンって、なに?
悪いことをしたかも、っていう人よ。
ヒコクニン、ヒコクニン、ヒコクニン

お父さん、お母さん、どこ?
おばあちゃんチだよ。

お父さん。
なに?
大好きですよ。
コウ君、なにか悪いことした?
しませんお。

お葬式、拍手しちゃだめ?
駄目だよ
お葬式、静かにしようね。
そうだね。

お母さん、なんでリコちゃん泣いたの?
きっと悲しかったからよ。

ぼく、コンピューターおばちゃん、好きだお。
そうなんだ。

お母さん、証明は、はっきりさせる、でしょ?
そうね。

お父さん、注意したお。
注意しないよ。いっただけだよ。

社会構造って、なに?
え? そうねえ、まあ、世の中の仕組みのことだよ。

お母さん、「気持ちが悪くなったら教えてね」って、言ってくれたよ。
誰が?
ナカムラさんが。
良かったね。

お父さん、戦争の英語は?
ウオーだよ。
ウオー、ウオー、ウオー

コウ君、今日の午後の予定は?
お昼寝しますお。
そうですか。

お父さん、ビデオ録ってください。
分かりましたあ。
お父さん、そう言ってるよ。
良かったね。

お母さん、大町通ってくださいね。
大町、こないだ大火事になったから驚かないでね。
分かりましたあ。

お父さん、地震の英語は?
アースクエイク。
お父さん、地震の英語は?
アースクエイクだよ。

私はゴエモンです。
こんにちはゴエモンさん。

お父さん、アホ笑いしたらイシハラサトミは?
「コウさん、アホ笑いはやめちいよ」っていうよ。
ぼく、アホ笑いしませんお。
しないでね。

コウ君、レンブツさんとリコちゃんと、どっちが好き?
両方好きですお。

おばあちゃん、泣いた?
泣いたよ。
おじいちゃんが亡くなったから?
そうだよ。

花ざかりって、なに?
お花がいっぱい咲いてることよ。

「来たまえ」って、なに?
「来なさいよ」、のことよ。

到着までしばらくお待ちください、って、なあに?
到着までちょっと待ってくださいね、よ。

神様ってなに?
遠いところから、みんなのことを守ってくれる人よ。

お父さん、蓮佛さん、今晩録画してね?
分かったよ、コウ君。
そう言っってくれたよ、お母さん。
良かったね。

ぼく、バクダン嫌ですお。
お母さんもよ。

感じる、思うことでしょ?
そうだね。

ぼく、ヒトミさんですお。
こんにちは、ヒトミさん。

コウ君、ここにあったお菓子、どうしたの?
食べましたよ。
へええ、あんなにあったのに。
全部食べましたよーだ。
あらまっちゃん。

お母さん、ジャンパー変えたいですお。
そうなの。
これにしたいですお。
分かった。すごく暖かいと思うわ。
変えたいですお。

お父さん、「消えた初恋」、DVDにしてください。
分かりましたあ。

冷蔵庫、どこで買うの?
東急のノジマよ。
冷蔵庫、いつ来るの?
火曜日よ。

やりたい放題って、なに?
好きなことばっかりしてることよ。

お母さん、マシって、なに?
その方がいいよ、ってことよ。
マシ、マシ、マシ。

お母さん、笑って。
お母さん、笑ってますよ。

お母さん、いまどこ?
お父さんと病院よ。

コウ君、洗濯物もう取り入れたの? 乾いたの?
乾きましたお。
そう?

ぼく、お正月好きですお。
そう。

 

 

 

今日のナゾメキ Ⅲ

 

南 椌椌

 
 

まだ仄暗いなか散歩した
坂を下りて踏切渡って
武蔵関公園に入った
ゴイサギのギー君
いるのかいないのか
空気の居場所が定まらない
早朝気分の不安数値が
厭戦的に漂っている

靄にかすむ池をまわると
渡るひともない中橋のたもとに
見慣れぬやぐらがたっている
高飛び込み競技のやぐら
危うげなはしごが誘っている
いぶかしいではないか

木組みゆれる十二段昇って
飛び込み用の跳ね板の先端に立った
当然逡巡したわけだ
高さ五Mくらいでも充分に怖い
だれがこんなもの作ったのか
飛び込み台に立った選手は
飛び込まなければならない
それが暗黙のルールというものだ
ふくらはぎが微妙に痙攣してきた

飛び込みたいわけではないが
ルール上棄権は許されない
おかえりただいま
相米慎二の台風クラブを思い出す
池の対岸では採点ボードを持ち
ハンチングを目深にかぶった
スラブ系と思しき男がひとり
鋭くも遠い視線を
こちらに向けている
だから飛び込んだ勇気出して
池の中アタマからまっすぐ
水しぶき小さく着水
高得点は間違いないだろう

採点ボードを持った
遠い視線のスラブ系ハンチングは
「採点不能」の表示を出して
なぜか夢のように薄い笑いを浮かべ
闘いは終わったと暗号を打ってきた
なんてことだ台風クラブ
つまりぼくは今日
水底で見たことを書いておきたい

水底に散らばっているのは
不揃いの小石に刻まれた名前
切なく胸に来る友人たちだ
この十年くらいに旅立った友人たち

名前が刻まれた小石をつかって
ふたりの子どもがチェスをしている
禁じられた遊びが聞こえる
友人たちの名前を読みながら
こみ上げる懐かしさに慄えた

なんでこんな池のなかで
チェスの駒になってるんだ
ギー君のような黒騎士Kに聞くと
なじみの蕎麦屋を出たところで
巨体にいつもの麻シャツまとった
黒ビショップAに誘われたからだという
酒を飲まないのっぽの白騎士Mは
タリーズの珈琲飲んでたら
白ビショップDに誘われたという
Dに聞くと会社から銭湯に寄り
天使の餌を探しあるいてるうちに
気がつくとここにいたという

ぼくはチェスを知らないけど
親しかった友人たちが
楽しい来世を送っているのが嬉しい

池から出てまた歩いた
なつかしい百済の市がたっている
白衣のオモニたちが騒々しく
大きな茶色のたらいに
泥のついた野菜や薬草を
山盛りにして売っている
忘れん坊に効くという薬草
それはぜひともお願いしたい
噛んでみると苦味の境地も
まんざらでもなく
手にそっと吐いて揉みしだき
また噛んでみるとすでに発酵して
やけに甘いのだいいじゃないか

かすかな酔いに染まって
白木蓮が咲いている
この世の証のようであり
あの世の証のようでもあり
モクレン ノハナ
ナハノン レクモ
それが夢かうつつか
さっぱりわからない
すでに夕暮れだよ影が長い
なぞめいた気分で家に帰ると

庭の縁台に見たことのない
青い亀が首を長くしていた

 


© kuukuu

 

 

 

追いかける

 

辻 和人

 
 

口に近づける
まだ閉じてる
ちょんっちょんっ、開いたぞ
「お父さん、ではミルクをあげてもらいます。
 首をしっかり支えておいて下さいね」
哺乳瓶の先は微かに震えながら開いた口の中へ
目閉じたままの小さな小さなこかずとんの小さな口
瓶の先舌の上に乗せてっと
奥へ奥へ含ませてっと
ぎゅきゅゅっ!
突然手応えあり
ぎゅきゅゅっ、ぎゅきゅゅっ
小さな頬が膨らんだつぼんだ膨らんだつぼんだ
白い命の素を
その小さな口が吸い込んでいく吸い込んでいく
目は閉じたまま、だけど真剣な面持ちで
哺乳瓶と口と胴体が
ぎゅきゅゅっと一つになった
真剣
すっごい真剣な顔だ
吸いながら「えうっえうっ」と自分を励ますように声をあげる
ひと休みする時は「ぁはぁぁはぁ」と肩で息する
栄養を摂れ、という使命を全力で果たそうとしてるんだ

とは言えこかずとんまだ生後3日
最後の5分の1くらいで飲み疲れて
うとうと、そして熟睡してしまう
哺乳瓶の先で唇を突いてもピクリともしない
どうしたらいいですかね?
「お父さん、ちょっと私に代わってもらっていいですか?
 今の時期、この分量は飲んでおいた方がいいので」
目がクリクリッとした若いスタッフさん
ぱかっと足を開いて踏ん張り
こかずとんを膝の上に乗せて哺乳瓶の突起を口に含ませた
くいっと奥に入れたかと思うと
くっと引く
ぴくっと頬が動いたかと思うと
吸い込んでいく吸い込んでいく
ぎゅきゅゅっ、ぎゅきゅゅっ
リズムが戻って完食だ
お見事!
「哺乳瓶を遠ざける動作をすると
 逃げられたら困るという意識が働くのか、また飲み始めることがあるんですよ」
そおかあ
逃げていくから追いかける
追いかけるという本能
こかずとん、まだこんなに小さいのにちゃんと持ってた
追いかければ追いかける程
逃げていくものは輝きを増す
飲み終わって「ぁはぁぁはぁ」息するこかずとん
こんなに小さいのに
ちゃんと知ってた

 

 

 

石化2022

 

工藤冬里

 
 

May 9
評判のサメ映画no sharkをアマプラで観た。アメリカを食い殺すのはロシアではなくアメリカ合衆国自身である。
Saldrá furioso a aniquilar y destruir a muchos
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8:29 AM · May 10, 2022·Twitter for iPhone
ベルセバ新譜は引き潮で顕になったレフトのしがみつく唱歌の岩礁のようだ
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10:00 AM · May 10, 2022·Twitter for iPhone
君を忘れない
まがリープクネヒトった道を行く
天皇クネ仁と波は黄色く盛り上がる
三度目は戦争と呼ばなかった
グリズリーの短い日きっと想
像した以上に騒がしい未来が朴を待ってらいし

テールの若葉だけで通用
食うなレール木が下よ笹
塚な綻びをツブ貝舗道に唾棄指名手配
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7:37 AM · May 11, 2022·Twitter for iPhone
ベリーズのクレオール語は最高だ
ラリーズのクレイヨラがエチオピアだ
タリーズなら愛大病院にある
久万に喰われて死にたいとシアトルの本店に伝えたが
今日は曇りなのでその日ではない
河岸を変えよか、と吉原潤はよく言っていた
吐くなよ、とも。
別のインベーダーゲーム機の店へ行くだけだったが!
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7:55 AM · May 11, 2022·Twitter for iPhone
寒ければ着ればいいのよ秋までは水は冷たいままなんだから
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8:30 AM · May 11, 2022·Twitter for iPhone
人が死ぬ首を吊ったり転んだり癌になったり滅ぼされたり
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8:32 AM · May 11, 2022·Twitter for iPhone
一号螢出ました
もう、だめです
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9:03 PM · May 11, 2022·Twitter for iPhone
うっすらと化石燃料の筋膜が黄色の側頭回合野を覆う
生活は
出来なくなるだろう
料理をしないまま電池を買いに行く些事だけになる
崩れかけた煉瓦の演出と石油由来の壁面は断罪される
仕舞いには泣く力も失くなった
食事を作る気力も失ない、胡桃の脳は石化したのだ
寒い夏の木に負けて家の水圧が低い
植物たちと戦後教育が話し合っている

かっこいい病気 脚気(かっけー)
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9:49 AM · May 13, 2022·Twitter Web App
El que muere queda absuelto de su pecado
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8:14 AM · May 14, 2022·Twitter for iPhone

耳のある人は見ず
目のある人は聞かなかった
左に、と言われたら右と思い
昼に、と言われたら夜か、と考えた
Joey Ramoneの前屈姿勢で祈ったが知らないと言われる
白化した背景の上で定規を動かし
目と口に見える化石を探す
聞くだけの骨になってしまったので筋膜ごと石化したのだ
眼鏡ケースか筆箱か、アイヌ紋様の布製で、
左ハンドルのダッシュボードにはミイラの粉が積もっている
注射場に停めるわたくし
ブランケットを分かち合い
新しい人格はパーツで切り離して考えるものではないと教えられる
首を傾けて喋る癖を無くさないと耳が聞こえなくなる
更地にして大樹を生やすわたしの権力も
落下する車から飛び出した
磁界も電界もこの谷底の白化の上で定規を動かして

 

 

 

#poetry #rock musician