鳥海山と手帳と

 

さとう三千魚

 
 

帰った

西馬音内から
帰ってきた

秋田では
姉と

鳥海山の鉾立まで登った
鉾立から人びとのいる地上を見た

花巻の賢治記念館では
照井良平先生にお会いした

賢治記念館に手帳の複製はなかった

珈琲の後に
羅須地人協会と

賢治の墓を見せていただいた
照井先生にはやわらかい笑顔があった

西馬音内では盆踊りを見た
西馬音内の盆踊りは亡霊の踊りだろう

笠を被り
頭巾を着け

顔を無くし
亡き者の傍らで踊る

幻影だろう
亡き者たちを抱いている

鳥海山も
手帳も

姉も
義兄も

幻影だろう

母も父も兄も祖父母も
沖縄の戦争で死んだ叔父も

幻影だろう
ウクライナもパレスチナも幻影だろう

奥羽本線で
山形に抜けるとき

電車の中から

やわらかなみどりの山々を見ていた
やわらかな懐かしい山たちを見ていた

畑のなかのトタン板の小屋も見た

山形新幹線は地上を走った
月山と羽黒山を遠く見て走った

埼玉では激しい雨のなかを走った
新幹線は激しい雨のなかを走っていった

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

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