空の履歴書

 

廿楽順治

 
 

青い履歴書が
空にある

どこにも
うまれなかったと書いてある

雨だから欠勤

夜になってもやってこない
わたしはそういう労働者になりたい

「孤独ってわけね」

休むことなく
光をはこぶ
あのばかもの
(ときには茜色に)

今日もまた
死んだので空は広がっています

 

 

 

ひとに会いにいく

 

さとう三千魚

 
 

昨日は

伊豆稲取の詩野さん* に
会いに

いってきた

片道134kmをクルマで走った

沼津から
天城峠を越えて

うねうねの山道を走った

詩野さんは稲取の丘の上のガソリンスタンドを改装している
無骨な棟梁さんが壁をぶち抜いて窓を作ったのだという

そこから
海が見えた

“bookend “という人が集える場所を作ろうとしている

ひとは何故つどうのか
ひとは何故生きるのか

ひとは何故死ぬのか

詩野さんの笑顔をみた
少女のようだった

しあわせなんだなと思えた
わたしも

いつか
いなくなるが

会えてよかった

 

* 詩野さんは、小鹿社の社長、詩野さんのことです.
 

 

 

#poetry #no poetry,no life

百条

 

工藤冬里

 
 

私とは私の父祖
忘れた忘れたを繰り返し彳む鷺
質問されても価値を見出せない
父祖だけに
暈けた要点が立ち尽す
辿り着け耳鳴りの水源地に

弁当箱の内側に平がる月
カレンダーには散布の予定が青魚のように沈んで
無関係だった鷺だけでやっていこうとして
百条
夜中には人が居なかったが
今はどの顔も斜光の角度が一致して白く光っている

 

 

 

#poetry #rock musician

自分ファースト:人類ファースト:地球ファースト

 

一条美由紀

 
 


やる気だけはあったの
ショウガは萎びて
キュウリは溶けた
本はオブジェとなり
録画はたまる
引き出しの中にねむってるのはパスポート
やる気だけはあったの

 


スズナリの柿に守られし荒屋の
  まとい遊べる生きすだま

 


大きなロゴを身につけて
曖昧な自尊心を身に纏う
社会で生き抜くために ハッタリも必要
でも見えてくる真理に必要なものは
自分の中で芽吹く素朴な喜びだけ

 

 

 

温泉にはいる

 

さとう三千魚

 
 

クルマで
きた

275km
クルマできた

かつて更埴市といった
千曲にやってきた

根石さんと
蕎麦を食べた

きのこ鍋でビールを飲んだ

福寿の温泉にはいる

二本の脚を伸ばす
首まで湯に浸かる

詩は”結果”なのかなあ

湯舟で
根石さん*はいう

“仮定”でしょ
“結果”だとしたら

酷すぎる
湯舟でわたしいう

根石さんの問いには”仮定”があり”過程”がある

深夜に
根石さんとコンビニまで歩く

根石さんはおむすびを買う
わたしは赤いリンゴを買う

 

* 根石さんは、詩人の根石吉久さんのことです.
 

 

 

#poetry #no poetry,no life

反歌

 

工藤冬里

 
 

河南を与える
ひとつ豫州は松山の
二人に子供はいなかった
今では六ヶ月
匂いさえダメだった
二日酔いから推察するしかない
トランスの子らに約束
譲歩せよ
丁髷の額が白い陶器、鷺の白
夫はminer、アメジストを掘り
より貴重でさえあるものとして出てくる
金属団地の移民に天からパンがシラスの白
自分の国民を憎むようにと教えたベレア人会

調和の取れた色彩
農薬塗れの幸福塗れのな
澱粉主体の完全食のな
紛い物と被った法とな
師匠の汚れのな
布を巻いた水鉄砲におんなじ薬剤
転校したら教科書が替わっていて
特攻を待っていたら別の神の風が吹いて
引換券を飛ばした
岩肌に柔らかい部分があると又聞きした宮司
上からの光で瞼と頬骨が白い
声に合わせて身体を密着させる蜈蚣ニンゲン
調和などしていないが種は一致している
目を覚ませ!何故?
脳の指示に応えていないヒトであり続ける

棒状のがしっとした四角い柱が見える
ロ・ルハマとロ・アミがよさこいを踊っている
達しなかった夢が反歌として現れる
要約できない人生は反歌として経験される

 

 

 

#poetry #rock musician

母体決裂

 

道 ケージ

 

母体の骨片が頭蓋の隙間に残るらしくそれが石灰沈着する。隆起した場合は角化。陥没した場合は脳を圧迫。脳溢血を誘発する。胎児の脳視床下部には恐竜期の角の神経系が見て取れるらしいがすぐに消失するので確かめる恩恵に浴したものはまだおらず、それを原発因とする説もあるが疑わしい。午後にツノが生えそうなので女医に相談する。教え子なので気さくに「痛かゆくてなんかある気がする」。なんとも言いようのない笑みで撫で回す。「まぁ一応、CT撮りましょう」。音無しの被爆か。「母体決裂症ですね。病名が定まるとあとは楽です。マニュアルが確立してます。手術もそう難しくはありませんし。ゴミ取るのと同じですから。癒着もないのが普通です。白く輝いているから見つけるのも簡単です。剥がして欲しいというように咲いています」。咲くは変だろう。「“ハナサケ”といいます。胎盤とは違うから」。また激烈な名前をつけたね。「どっちが? 話せば長いですよ。パルシファル建設は知ってますか?」 誰にもあんのかな。「男性に多いという統計はあります。母親と一緒にお風呂に入った人に有意な傾向があるという論文ありますが怪しいもんです」。間男に角が生えるというじゃんか。あれとは?「寝取られた方じゃないですか? コキュといいます。」おぉ、アンダルシアの闘牛。角あるものは殺されろと。「軒端で月を見ていた女が歌を詠みます。それを聞いた男は言いよる秋の萩」。あまりわからない。「芒が鬼の毛であることはご存知?」知らんな。すすきが原しがらみ果つる黒鹿の。数が多いな。「ため息の数です。だから垂れている。母との決裂に鬼が関わっていることは昔から知られています。探しあぐねた母側から見ても別離ですから。桜や梯子に登ります」。手術はいつ? 探しているわけでない。弱虫というより人でなしに角が生えるようです。

 

 

 

尻子玉

 

佐々木 眞

 
 

極楽の昼下がり、お釈迦様は長い、長いお昼寝から覚めて、遥か下方の地上を眺めていると、おりしもハロウィンで賑わう、渋谷のスクランブル交差点が見えました。

と、ふとあることを思いついたお釈迦様は、女郎蜘蛛の杜子春を呼びました。

「これ杜子春や、あのスクランブル交差点全体を覆うような、大きな、大きな巣をかけなさい」

「はい」

と答えた杜子春が、お釈迦様の仰せの通りに、天上から大きな、大きな蜘蛛の巣をふんわりと投げかけましたが、せわしなく交差点を行き来する人々の目には、もちろん見えません。

さうして、この見えない蜘蛛の巣のベールの下を通る人は、男も、女も、男でも女でもない人たちも、大人も、子供も、みんな揃って尻子玉を引っこ抜かれてしまいました。

とさ。

 

 

 

猫と人と **

 

さとう三千魚

 
 

本屋に
猫がいる

猫は
テーブルの下を歩いてきた

白と黒の毛の
猫の

瞳が大きい
集まった人たちはここで詩を書いた

“方代”と
“顕信”と

“星の王子”を連れてきてくれた

 

・・・

 

** この詩は、
2024年11月1日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第10回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life