墓参から帰った

 

さとう三千魚

 
 

昨日の
夜の

新幹線の
最終のひとつ前のひかりで帰ってきた

鮭のおにぎりと
ピーナッツバターと

ビールを飲んで帰ってきた

志郎康さんの墓参だった
ユアンドアイの会の皆さんとの墓参だった

“ユアンドアイ”は
志郎康さんが名付けてくれた

“あなたとわたし”

墓石には「遊極私」と志郎康さんの書が彫られていた

私を極めて遊ぶと読むのか
極私は私のずっと先にあるのか
極私は私の先の私が無くなるところにあるのか

墓参から帰った

今朝は
女の従姉妹の

いくえちゃんにわたしが作ったカレーを届けた

いくえちゃんは
10月から台湾に住むのだという

カレーを届け
海を見に行ってきた

海には白子漁の船がたくさん浮かんでいた

九月の晴れた空に

あなたとわたしいた
夏の雲がたっていた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

ブドウひとつメールひとつ

 

一条美由紀

 
 


落ちていく
螺旋を描いて誰も追いつけない深淵へ
流れていく
身体をうねらせて
生命の源に
溶けてゆく

 


不安は忍び寄る
囁く声は優しいのに
目の奥に淡く光る真実はなんの味かわからない
安心して暮らせる世界はないと神は言う

喘ぐ彼女の願いは傲慢と欲にまみれ
振り返る彼の目的は溶けて流れてしまった

小さな幸せがあれば満足だと思った時を
思い出せなくなってる

 


上目遣いでニャーとなく子猫のように
素直なわがまま娘に戻れたらいいな
青空にボールを追って遊び疲れてしまう
赤ん坊のような男の子に変われたらいいな

 

 

 

<ササキマコト>の主題に拠る48の変奏曲~第3篇 第21変奏曲から第30変奏曲

 

佐々木 眞

 
 

第21変奏曲

バカダ大学の阿呆莫迦教師、ヒラオカトクの授業中に、とても大事なことを思い出したので、急遽下宿に戻って録画をセットしてから、またバカダ大学に戻ったら、誰も居なかったずら。

 

第22変奏曲

町内会から推薦されたウザッタイ元悪童が、あれよあれよという間に保守党と右翼の大物にのし上がって、夜郎自大な専制政治を独裁している。

 

第23変奏曲

水爆実験で繰り返し爆破されながら残骸を悉く集積しましてね、こいつを再利用して何とからなんかいなと思っていたら、さる奇特な方が現れて、これで素敵な別荘を造ってくれませんかと仰るんですよ。

 

第24変奏曲

純白のドレスを纏ったブロンズ新社のワカツキさんが、南青山の洒落たお菓子屋さんの庭で、一心不乱に読みふけっていた。昔ながらのオカッパ頭で。

 

第25変奏曲

小学5年か6年の時「顔洗いひょいと目を上げ四尾山」という川柳みたいな俳句を詠んだ時、弟と妹が「近くの寺山なら見えるかもしれんえど四尾山なんか絶対見えへん」といううたので、母が「別に見えんでもええの。寺山だと字足らずになる」と断じたのでさすがは愛子さんと見直したずら。

 

第26変奏曲

烈女の誘いに乗るとか、いっちゃん洒落たレストランの料理を口にするとか、おいしそうな夢の中に入っていくと、碌な結果にならないことがよーく分かったずら。

 

第27変奏曲

エレベーターとは何をする機械か分からなくなった老人たちは、思い思いに大小便をしたり、告解したりしている。

 

第28変奏曲

お父さん、台風の英語は?
タイフーンだよ。
お父さん、台風の英語は?
だから、タイフーンだよ。
お父さん、台風の英語は?
だからあ、タイフーンだよ。

 

第29変奏曲

ノブイッちゃんは思う。
惑星が地球に衝突する前に、死ねた。
ヒトハルちゃんは思う。
関東大震災がまたやって来る前に、死ねた。
ボクちゃんは思う。
第3次世界大戦が始まる前に死ねた。

 

第30変奏曲

どういう風の吹き回しか、みんなで芝居をやることになった。まずは場慣れたタコ八郎、続いてドシロウトの私とゼンタロウ、それから愛犬のムクだが、こんな4人でもなんとかなるのだろうか?

 

 

 

<ササキマコト>の主題に拠る48の変奏曲~第2篇 第11変奏曲から第20変奏曲

 

佐々木 眞

 
 

第11変奏曲

全身に見慣れないと突起物が総立ちになって、「見てよ、見て見て、こっち見て」と大騒ぎなので、よく見るとさぶいぼたった

 

第12変奏曲

ピーターは、なんで自分がこんな田舎の支局に飛ばされたのか、さっぱり分からず、元の上司に何度も電話してそのわけを聞こうとしていたが果たせず、何年間も腐っていたが、ある日おらっちが上司の上司からそのわけを尋ねると「実は別の奴を飛ばせと指示したのに、人事が間違ってピーターを飛ばしたんだ」というのだった。

 

第13変奏曲

浅いが綺麗な海の中で、小さな魚や海藻がゆらゆら揺れるのを見ていると、時が経つのも忘れてしまう。ふと気が付くと、私は水の中でも呼吸が出来るようになっていた。3/31

 

第14変奏曲

エレベーターとは何をする機械か分からなくなった老人たちは、思い思いに大小便をしたり、告解したりしている。

 

第15変奏曲

明日の本番を前にして、主役のオセロが降板することになったので、みんなで少しずつ分担することにしたが、本来の役との区別を付けられないので観客は大いに戸惑ったようだったが、そのうちに斬新でシュールな演出だと思ってだんだん納得してくれたようだった。

 

第16変奏曲

会期が迫ったパリコレに出す服のデザインを必死で考えているおらっち。そのコンセプトのひとつは「踊る服」で、もう一つは「考える服」だったが、そもそもおらっちは、物を考えたことなど皆無なので、後の作品はてんで出来ないのだった。
 

第17変奏曲

朝、咽喉がムズムズするので、ケタクソ悪いなあと思っていたら、突然見慣れない小人が飛び上がって、まるで誕生したばかりのお釈迦様のように、両手を高く掲げてテーブルの上に着地したので、えらく驚いたよ。

 

第18変奏曲

死地に乗り入る十八騎

ああ、あれは確か鳥羽殿じゃ

死ぬも生きるも、この時ぞ

死地に乗りいる十八騎
いきつくとこまで
ずんずん乗り入る十八騎
生きるも死ぬも、この時ぞ、 この時ぞ

 

第19変奏曲

報国寺の裏道を歩いていたら川原という表札が出ている寂しそうな家があったので、カワハラアキコさんのお宅ではないのか、と思ったが、もうこの世の人ではなさそうなので、諦めて通り過ぎた。

 

第20変奏曲

学校の試験問題は、決められた時間内に、決められた形式で回答しなければならなかったが、それからおよそ50年後に正しく答えられた問題もあった。

 

 

 

名を呼ぶ

 

さとう三千魚

 
 

昼過ぎには
“Metamorphosis”を聴いていた

フィリップ・グラスの
“Metamorphosis”は

新丸子に居た頃
ひとりで風呂に浸かりながら聴いた

何度も
聴いた

いまは
もう

夕方を過ぎて

外は
暗い

暗くなって
高橋悠治のピアノで “「1886年の3つの歌」より「エレジー」” を聴いている

「エレジー」は
日本語で

挽歌という

いつだったか
竹田賢一さんの大正琴を聴いて挽歌だと思ったことがあった

午後に
モコの墓に行ってきた

女と行った

モコの月命日だった
9ヶ月が過ぎた

女は
線香を焚いて

モコ
モコ

名を呼んでいた

もう外は
暗い

高橋悠治のピアノでエレジーを聴いている

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

 

廿楽順治

 
 

おかあさんは わらっていますが
なあに空虚です

あるとき
血が下からたいへんにでましたが

それはあなたがたです
死んでいくのは だってあなたがた

おかあさんはね
この世界にはずっといませんでしたよ

せんたくものも
昨晩のおかずも ずっとそのままです

おかあさんは
戦争のある世界にはいないので

(やっぱりね)
ちっともひとの「死」でふとっていません

 

 

 

社長椅子に座るこかずとん

 

辻 和人

 
 

もう横じゃあない
時代は縦
縦抱き抱っこでなくちゃ満足できないんだ
コの字型授乳クッションも使い方が変わったよ
横に寝たカッコでミルクを飲むのはもうおしまい
クッション床に置いて
開いている側が足
頭をフカフカもたれかけて
お手手は左右にバランスよく置いて
深々コの字に納まったこかずとん
えっと、ただ納まってるだけじゃないよ
首は縦
お腹は縦
重力に逆らって縦
2つの目はまん丸で
ぼくが手にする哺乳瓶の揺れを追って

重力に逆らう
哺乳瓶の先端を含ませた途端
頬っぺむぎゅむぎゅ夢中で動かした
視線は縦
「あー、飲んでる飲んでる。まるで社長さんの椅子に座ってるみたいね」
横からミヤミヤが言うけれど
ふんぞり返ってはいない
背は縦
シュッと伸びて
この姿は雇われじゃない、創業社長だな
何を創業したかわからないけど
重力に逆らって
生後4ヵ月後の未来を見据えている
縦、縦
時代はもう横じゃあない

 

 

 

期日を定めて箍の外れた

 

工藤冬里

 
 

期日を定めて箍の外れた樽のように
亀の子たちの咥えられてくるソファの
そろそろ冷房もきつくなって
扇風機を消そうにも夢は更に小鳥二羽を運び
身体は箍が外れていて
九月までは
九月になれば
それまでは

箍の外れた樽のように

 

 

#poetry #rock musician

猫を待つ

 

さとう三千魚

 
 

窓辺に
小鳥が来る

いつか
山鳩が来たこともあった

息をころして
見ている

餌を
啄んでいる

下の道を

隣家の
猫が通る音がする

黒猫は
首に鈴をつけている

 

・・・

 

この詩は、
2024年8月23日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第8回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life