日常の些細な綻びから世界は壊れていく

 

村岡由梨

 
 

近頃 私 何かが おかしい
何者かに駆り立てられて
あるはずの階段を踏み外す不穏
ネット上の所謂正論を、
自分のこと言ってるんだって思い込む勝手に落ち込む
世界は正常で、異常なのは私なのだと
常に何かに怯えている
泣きたいとは思わない
死にたいとも思わない
芥川の言う、唯ぼんやりした不安
夕飯の支度が出来ない 何もかも
何から手を付けたらいいのか、わからない
一向に物の減らない部屋
乱雑に積まれた紙の束
生きている人たちがいるから
散らかっている
片付かない
それじゃ部屋が呼吸できない
部屋が死んでしまう
かわいそうだ
部屋に謝れ
結局おかあさんに、だらしないって怒られる
今まで関わった全ての人に恨まれている
いずれ復讐しにやって来る
全て私のせいです
壊れそうだ壊れそうだ壊れそうだ
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
もうすぐ決壊する
自分の手の指の皮を噛み千切って食べたら血が滲んだ
こうして血の味のする日常の些細な綻びから
世界は壊れていく

 

 

 

addict 2

 

工藤冬里

 
 

フェンタニルの中京は見下し合戦のショートムービーの拱手の中で身体性に按手する
切り立った石鎚に黄疸の月は隠れて
体の中に手を入れて隈なく探すメラニンの島
〈瀬戸内海は蟻がたかるくらい溶けていて〉
白い血管に声のデカい揖保乃糸を通して縫ってゆく
国語の問題じゃないんだ涙は
プチプチのADHDじゃないんだ煉瓦汚しは
名前じゃないんだ苗字は
衆院じゃないんだ産院は
遊びなはれ酒も飲みなはれ
しぐれじゃないんだ浪花は
日暮れじゃないんだマジックアワーは
変な雲

 

 

 

#poetry #rock musician

花たちへ

 

さとう三千魚

 
 

ここのところ
夏バテか

走らなかった

検診でバリウムを飲むから
今朝は

なにも
食べなかった

水も
飲まなかった

すこしだけ
身軽になって

河口まで走ってみた
ゆっくり走ってみた

河口には白い雲を被った不二がいた
鮎の稚魚たちか

群れて泳いでいた

燕たちが低い空を餌を求めて飛びまわっていた
子どもたちが待っているだろう

帰りは
歩いてきた

ゆっくり歩いて帰ってきた

義母の仏壇に女は花を供えていた
灯籠の蓮の花の絵がゆっくりまわっていた

庭のカサブランカの花弁の
地に落ちて

残った雌しべの

突きでていた
尖端が濡れて光っていた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

蛇崩れをひだりに

 

道 ケージ

 

折れるといたな
なにやっとるん?
イヤフォンで聞こえないようだ

少し口裂けて
八重歯黄ばみ
頰に金の生毛
目が青い

おーとかやーとか
うわべの呼びかけでは
目を合わせようとしない
爪を噛んでいるのか

見たことはある、当然
何なのかわからない
斜めからの風にやられる

うずくまる
茶器にも似て
肌触りでしかわからない

突然
振り下ろしやがる
顔面擦傷
ゲンタマイシンを処方

慶安丙午の生まれだと
どうも気性が荒い

お前には何がある
早く早くと迫るが
案外うわの空

腫瘍の字が書けない
打ち込めば済む
投げ出して夏

関わらない
知らないふりをすると
付いてくる
邪魔なんだがやはり

 

 

 

addicts

 

工藤冬里

 
 

泰山木の分厚い中生代に夏は
依存のミトコンドリアを配置する
イスラエル産のグレープフルーツは買えないな
漢方にも合わないしね
no heaven
そこにいないというのはさびしいことだ
輪廻とか進化とかグレープフルーツ大のおにぎりにして
馬鹿らしいけど私は店長
ヒジャーブから覗く愛国
1989に壁が崩壊し、そのタイミングで
矢張りというかフェンタニルのゾンビサッカーが白粉の上塗り
そしてすれ違う殆どがスマホに目を落としていてヤバいと思う
たぶんゲームしながら運転してんじゃないかな
きっと酒も飲んでる
大五郎とか
予定説に陥って恨む状態から抜け出るには振り返ることが大事だった
他者としての水戸コンドリア
すこしこらしめてやりなさい!

 

 

 

#poetry #rock musician

花たち

 

さとう三千魚

 
 

女が出かけるのを

見送りに
出て

今朝

ひらいて
いた

薄みどりの花芽の
膨らんで

クリーム色に膨らんで
白い

花は
咲いた

義母が逝って
犬のモコが逝った

鉢から
金木犀の木の下に

カサブランカを移し
植えた

光を求めて茎が横に長く伸びるのを
紙紐で吊り下げて

支えた

カサブランカは
花弁をひらいた

一つだけ花は大きく白くひらいた

花の中に
モコがいる

花の中に義母がいる
たこさんもいる

カサブランカの花の中心には太い雌しべが突き出ている
その周りを紅い花粉にまみれた6本の雄しべたちが取り巻いている

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

半端な永遠

 

工藤冬里

 
 

半端な永遠のお陰で明日が不安で仕方がない
いっときの快楽のために安定性を放棄するのは愚かだ
と言って蒟蒻の中を泳ぐ
成瀬というような苗字の
戸籍をひらひらさせて
泳ぐ泳ぐ案件の中を
Amazonの半端な永遠の中を
もうすぐ死ぬというのに
血判だとか半跪拱手とか
課金するわけないじゃん
柳井から帰る

 

 

 

#poetry #rock musician

壁で壁を乗り越えろ

 

辻 和人

 
 

あれ、できないよ
できなくなった
壁相手に
腕バッタバタ
足パタパッタ
寝返りラクラククルックル
ずり這いジェット噴射ゴーゴー
なのに
あれれ、突然できなくなった

模様替えで1階の大人用の見守りマットを取り払ったんだ
1階は平べったいお昼寝マットだけ
ここで問題発生
コミヤミヤもこかずとんも見守りマットを練習用の壁に見立てて
えいっえいっ体動かしてた
壁がないと反動使えない
平たい面でも寝返りの稽古はできるけど
ダイナミックにクルッというわけにはいかない
何だか物足りない
何だかつまんない
寝返りしてて急に泣いちゃったりとか
ごめんね
かずとんパパ気づかなかったんだよ
何で最近急に不機嫌になるんだろうって

そしたら賢いミヤミヤママ
オムツを入れる箱と洋服入れる箱を並べて
「これを即席の壁にしましょう」
すぐさま始めたよ
コミヤミヤが腕バッタバタして
背中クルックルころっくる
こかずとんが足パタパッタして
ジェット噴射前進ゴーゴー
赤ちゃんってのはこんな練習を重ねて
ハイハイができるようになるんだなあ
ハイハイへの壁は
壁を使って乗り越える
壁で壁を乗り越えろ

 

 

 

消えた **

 

さとう三千魚

 
 

白と黒の
猫は

テーブルにねそべっていた

背中のまるい毛なみの
ねそべっていた

いつかテーブルから降りて襖の向こうへ
消えた

消えて
音がない

 

・・・

 

** この詩は、
2025年6月27日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第18回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life