吉増剛造著「怪物君」を読んで

 

佐々木 眞

 
 

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この世に、果てしなく外部へ拡散していく詩と、限りなく内部へと沈潜していく詩と、永久にその場所に佇む詩の三つの詩があるとすれば、吉増選手のこのたびのLineは、1番線からの衝動的発車だろう。

駅には電光表示板に「アリス、アイリス、赤馬、赤城、イシス、イシ、リス、石狩乃香、兎!巨大ナ静カサ、乃、宇!」という行先が電光表示され、怪物君は自家製のドローンかスペースシャトルのようなものに跨って、全世界から全宇宙の隅々までも軽やかに飛翔する。

ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!

怪物君は、怪物くんかもしれないし、最シン・ゴジラかもしれない。
怪物君は、あの手この手の禁じ業、とっておきの奥の手を使って、喚きに喚く。
私たちは、怪物君から放射される無慮無数のLine攻勢を全身に浴びて、至る所で棒立ちになるだろう。

しかし孤独な怪物君は、私たちにいちいち応答を求めているのではない。
虚空に向かって彷徨しながら、ただラアラアと咆哮しているだけなのだ。

ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!

これはいったい何なんだ?
タダのダダの言葉遊びか? 時代遅れのシュルシュルレアリスム?
それとも全地球詩緊急一時回想録?

東北の被災地に生きる人々やその記憶、オリーヴと白桃、阿弥陀仏と孝標女の対話などがアラエッサアサアとばかりに繰りだされてくるが、だからといって怪物君はそこに長く滞在する訳ではない。

ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!

蜜を求めて花から花へと移る気まぐれな蝶のように、あちらこちらにフラフラ立ち寄りながら、限りなく自らを他物と他者に憑依する寄生虫怪物君!

ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!

怪物君は、ひとたびは個我を放棄することによって、世界を無意味に彩る装飾の一部と化し、またしても壁画から飛び出して全世界を遊覧し、随所でコブラがえって痙攣し、股股情動しつつ、スペースシャトルのようにGo!Go!いくたびも発射台に立ち戻る。

「ひーひやら、何ぞ馬鹿囃子!」*
そう、「詩人は考ヘルまへに、歌ッていた」*
これが「おまえの一生ノ音楽だッた」*
それらは全部、詩人の寝息であったのかもしれないネ。

ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!

「手を翳しているだけで、それでよい」*
「手を翳しているだけで、それでよい」*

ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!

 

空白空白空白*は詩集からの引用です。

 

 

 

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