「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第95回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2021年葉月蝶人酔生夢死幾百夜

 

常に狭斜に往来していたおらっちだったが、世紀末ウイーンを訪ねた折には、高級車に2人の美女を侍らせ、颯爽とモザール邸に乗り入れたのよ。8/1

昔々京急の株を超安値で買ったのが、今や数百倍の値がついてぼろもうけしているはずなんだが、いくら探しても肝心の株券がないのら。8/2

息子がようやっとコロナワクチン接種の申し込みができるようになったというので、朝イチで代理で申し込んでやろうと徹夜で待機していたら、朝が過ぎ去ったようだ。8/3

最新型コロナとの戦いの最前線に立っているのは、またしてもホッテントットの女王だった。8/4

いくら優れたデザイナーの服でも、それを着こなす人のセンスが悪ければたちまちゴミのような代物になるのは、そのデザインの中には良い、悪い、普通の3種の要素が含まれているからだと、良い子、悪い子、普通の子の3人が、声を揃えて教えて呉れた。8/5

いよいよ地球脱出の時が迫って来たというのに、この国は、頭の先から尻尾のヘリまで腐りきっていたので、もろもろの準備がてんで出来ていないのだった。8/6

軽自動車で撥ねられた時の撥ねられ具合は、ガツーンだったか、ゴツーンだったか、ガーンだったかと、色々追体験しているのよ。8/7

敵の偵察に出ていたら、とっつかまってしまった。敵軍の頭は「罰としてお前の片腕をちょん斬ることにするが、どっちかを選べ」というので、たまたま腱板損傷で痛くてたまらない右腕を切断してもらったら、さっぱりした。8/8

仏蘭西語が分からない伊太利人のために、最後の御奉公として棺桶に片足を突っ込んだアラン・ドロンがやってきたのだが、「セレレ、セレレ」としか発語できなかったので、みな落胆した。8/9

カス内閣のデジタル庁があまりにも不人気なので、誰か知恵者が入り知恵して看板をレンタル庁に付け替え、いずれも無職の若い男子には若い女子、若い女子には若い男子を夜な夜な税金負担でデリバリーすることに決めたら、たちまち支持率が急上昇しました、とさ。8/10

我々はみな鋭い剣がついた軍帽をかぶっていたが、これを敵に向けての熾烈な穴あけ競争が始まった。8/11

私はルーミスシシジミだが、口からあふれ出る蜜が若い娘たちの人気なので、周囲には遠方から駆けつけてきた多くの美女たちが、三密、四密、五密状態だった。8/12

シゲハラ印刷のタナカ君が、7時にいなくなると同時に、おらっちの課は無人になった。おらっち抜きで、どこかでパーテイーでもやっているのではないかと激しく疑ったが、あいにく誰もいない。8/13

誰かが露台で、洗濯物を物干し竿に吊るしたまま、そいつを上下左右に振り回して、サーカスの練習をやっている。8/14

みんなでモロッコに試合に出かけたのだが、あっさり負けてしまった。あんなやり方では負けるのは当たり前。みな大反省せよ!8/15

私はライフルを握り締めて、2,3回引き金を引いた。敵の姿は見えないけれど、誰かが斃れたたようだ。ともかく息子の一世一代の個展を邪魔立てしようとするやつは、こういう目に遭うのだ。8/16

久しぶりにNYにやって来て、前から持っていた小銭を払おうとしたら、「それはもう通用しません」と言われて、頭の中が真っ白になってしまったよ。8/17

いつの間にやらおらっちは、K団連の重要メンバーに成り上がって、毎日テレビで記者会見に出るようになったしまったので、「もしかして俺は海道一のエラモンさんになったのではないか」と、毎日鏡の中の顔とにらめっこしていたのよ。8/18

オグロ選手とその仲間たちが、年に一度の慰労パーティを開くと言うので、私は老いたる父母を連れて上京したのだが、ふと気がつくと2人とも姿を消してしまったので、焦りまくっている。8/19

ようやく父母を見つけたのでイカスミで口を黒くしたりしていると、誰かが「こちらササキマコトはんの特製スパゲッテイ・ブースどっせえ」と叫んでいるのでそこへ近づいていく。もうひとりササキマコトがいるのだろうか?8/20

かつて人気を博した国際政治テレビ番組が惜しまれつつ終了したが、脇役スタッフの私にも80万円のラスト・ボーナスが出たので、私は仲良しの女忍者スタッフと一緒にプロデューサーがいる最上階に行くエレベーターに乗ったのだが、まだ懐の80万円が信じられないでいる。8/21

テイコウ映画祭の会場では、バルタン星人が、「今日は、朝から晩まで、全部の映画を見るぞ!」と張り切っていたずら。8/22

神宮前の事務所に、東急エージェンシーのナカムラさんを訪ねたら、別の先客がいた。ナカムラさんが「3人で中華を食おう、僕は後から行く」というので、2人で先に行って待っていたがなかなか来ない。そのうち先客は、料理を勝手に注文し始めたので、焦っている私。8/23

その時だった。私は見た。黒い目出し帽をかぶった息子が、普段は見たこともない狡猾な類人猿のような表情で、そっと誰かに近づいていく恐ろしい姿を。8/24

山村工作隊時代の共産党員がまだ生き残っていて、「あの時代に火炎瓶を投げた連中が、その後歌声喫茶で「若者よ体を鍛えておけ!」などと歌っている姿を見ると、とても同じ人間とは思えないよ」と語るのを聞いて、おらっちは深く頷いた。8/25

両辺を両の手で持って、そのランプを、そろそろ運んだのだが、地面に下ろしたときの、ふとした衝撃で、大爆発が起こって、ランプも我らもみな吹き飛んでしまった。8/26

海岸通りを走るバスに乗って、私たちはその貴族の別荘に向かった。海も空も青い夏の日の午後だった。8/27

さなきだに苦労山積の駐韓大使の私を、官邸に忖度し捲りの猿面患者のような部下どもは、てんで仕事などせず、私の足を引っ張るようなことばかりするのだった。8/28

ぞの公凶放送のアナウンサーが、毎日マスクをしろとか外出や会食するなとか、まるで子供に箸の上げ下ろしを注意するような教訓を垂れるので、どたまに来たおらっちは、そ奴を画面から引きずり出して、血祭りにあげてやったのよ。8/29

今から30年前、この見知らぬ町に初めてやって来た私は、最初に口をきいた少年のお陰で幸運に恵まれ、とんとん拍子に出世して、町一番の分限者になり上がったのだったなあ、と、感慨深く振り返ったのだった。8/30

おらっちが指揮するハイドンのオラトリオ「天地創造」の演奏中に、おらっちの恋人のソプラノが急死してしまったので、曲目を急遽モザールの「レクイエム」に切り替えた。8/31

 

 

 

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第94回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2021年文月蝶人酔生夢死幾百夜

 

突然右の耳が痛くなってきたので、どうしようかと迷ったが、「そうだ、おらっちはいまさっきイモカワ耳鼻科から出てきたばっかりだった」と思い出したので、急遽引き返そうとしたが、「まてよ、この痛みは夢の中の痛みで、本物ではないのではないか」と疑って立ち止まっている。7/1

ビデオ屋の訳知り爺さんは、ポルノビデオを買ったお客にすかさず、「お客さんは、次はO嬢の最新作が「ええですぜ」などと、余計なおせっかいメールを入れるので、悪評嘖々だ。7/2

8代目スカスカ男は、メキシカン名ではハント君だったが、そのハント君から、「新メキシコ語でハイビスカスの名前を新たにつけてくれ」と頼まれたので、張り切っているところだ。7/2

そいろく60歳また会いに正男かお金の小色2の中へ入っていった。7/3

久しぶりに職場を訪ねた私だったが、そこはもはや、昔日の面影は微塵もなく、見知らぬ若者たちが、無言で出入りする、荒涼たる空間と化していた。7/4

目の前に両端が少しけぶった空気の塊がある。いつも気になっていたので、ある日思い切って、それをクリちゃんに電送したら、なんと妙なる音楽が鳴り響いたので驚いた。7/5

それは「電気オルゴール」だったのだ。私が音楽家ならそのメロディを音符に書きつけて、マリアカラスか、美空ひばりに歌ってもらって再現だできるのだが、残念なことだ。7/6

その寺の住職には、有力者の後ろ盾があったので、自分がどうにも気に入らない、ホシナ的、或いはトヨヒラ的な檀家を、次第に排除することに成功した。7/7

夜中に布団の中を見ると、白いパジャマを着た黒目が輝く、娘がいた。いつの間に潜り込んでいたのだろう。でもこんな可愛いらしい娘がいたら、きっとウレピーだろうと思ったが、私には息子はいても、娘なんかいない。この子は誰?7/8

牧場には、たくさんのヒツジがいたが、その中に、ひときわ巨大な黒いヒツジがいたので、牧場主に「あれはなんだい?」と尋ねると「あれが噂の悪魔ヒツジでさ」と答えたのよ。7/9

おらっちは、久方ぶりに古里の村に帰省したんやが、まっすぐに我が家の露台に上ると、そこから天空の道を目指して飛び出した。7/10

さる将棋の名人が、指名手配の犯人を、将棋盤から叩き出したのよ。7/11

「GAFAの時代が終わったら、群雄割拠の戦国時代になり、わが社の天下もあるのではないか」と、マウスコンピューターという会社の社長が独語した。7/12

私ら同郷の者は、はじめのうちは味方同士だったが、途中から敵味方に別れても、けっしてお互いに殺し合うほどには追い詰めず、同じ釜の飯を食った生温かい紐帯で結ばれていた。7/13

大谷翔平選手の、風船玉のようにささやかな野望が、巨大なアメリカン・ドリームの胎内に呑み込まれてゆく姿が、見えた。7/14

離反した子分たちが、次々に立ち上がって、親分の横暴を批判していく。次はおらっちの番だが、おらっちたちの団結は、きわめて脆いことが分かっているので、ここで下手なことを云うと、親分の大反撃があった折に、半殺しの目に遭うかもしれないと、小心者のおらっちの心は揺れ動いた。7/15

「大谷選手が出てくると、世界中の耳目がそっちに行ってしまうから、おらっっちがいくら活躍しても、誰も褒めてくんない」と、ウチの小谷がこぼした。7/16

青白赤の三色旗を作って、全学共闘会議が結成された夜のキャンパスに登場したおらっちは、たちまちマスコミのフラッシュを浴び、学生叛乱の時代の寵児となった。7/17

ショー開幕30分前に、主任デザイナーが、スタイリストと駆け落ちしたので、楽屋は大混乱に陥ったが、臨時プロデューサーの私の奮闘よろしきを得て、なんとかかんとか無事に終わったのよ。7/18

これぞ大阪人ゆう奴を、大阪じゅう駆けずりまわって探したんやが、もおそんな奴は誰一人おらんかった。大阪は、そおゆう奴を、育ててこんかったんやね。7/19

せっかく開戦早々に敵艦を撃沈したというのに、本隊の捜索機も飛ばさず、ひたすら現場から離脱しようと焦るだけなので、「我が国の海軍は、この程度なのか」と、吾輩は絶望したことであった。7/20

最終テストは、2つの額をガンと打ちつけて、どちらかが倒れたら負けになるという古風なやり方なので、「これが2021年現在の最終面接試験なのか?」と、おらっちは、すこぶる驚いた。7/21

大病院の受付で、「おらっちはどこかが狂ってるような気がするのだが、どこかで調べて呉れまへんか?」と頼んだが、「最近はあなたと同じようなことを言って来る患者さんが多いので、とても困ってます。どこか他を当たってみてください」と、追い返されてしまったずら。7/22

有名無名作家の文章を、鋏で切り刻んで、雪のように、机の上に舞い散らせたものを、原稿用紙の上に、丁寧に並べると、前代未聞の名文章が、出来上がっていた。7/23

医者から禁じられているのに、ほんの気まぐれでコロナワクチンを接種してもらったのだが、やはりというか、案の定、それがおらっちのアナフィラショックとなってしまい、急いで手持ちのエピペンを腿に差したものの、間一髪間に合わず、おらっちは御臨終となったのよ。7/24

最初に住所と氏名を書き、次にコロナワクチン接種の希望の有無を書き、最後にこの世に望むものの有無、前者の場合は、その内容を書くと、人々は三々五々帰っていった。7/25

ワーテルローの戦場で、歴史的時間を刻んでいた大時計が、いつのまにか姿を消して、「てらこ履物屋」の女中部屋にあった、独逸製のオルゴール時計に掛け替えられていた。7/26

「いざカマクラの折りには、必ずおいらのとこへ来てくれ、ぜひ頼みたいことがある」とかねてショーグンがいうておったの、偶々そんときにおっとり刀で駆け付けると、「あのなあ、おいらの軍隊を全員武装解除してくれ」というので驚いた。7/27

「よし、明日からおめえさんの支店に出てやるよ」と、その名物バイヤー氏は気安く請けあったが、本当にやって来るのだろうか?7/28

敵地に敵前上陸したおらっちだったが、敵兵の銃剣で、右手の肩、腕、指を刺され、その余りの痛さに呻いたのよ。7/29

新築の家なのに、よく見ると、いたるところに瑕疵があるのは、何故なのだろう?7/30

わいらあ、フィリピンで、おじさんに育てられ、さんざん、人殺しなど、やってきました。7/30

50年代か60年代にかけて、コロンビア・レーベルで活躍したワルターやセルなどが、それぞれのオケを率いて、リクエストに応えて、どんな曲でもいくらでも演奏してくれる。しかも、レコードとは違って360度のステレオなので大迫力だ。7/31

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その57

 

佐々木 眞

 
 

 

ベロ出しちゃ、ダメでしょう?
大丈夫よ。誰に言われたの?
マルヤマさんだお。

「後にしろ!」って、言われちゃったんですお。
誰に?
お父さんに。

コウ君、ヒトのいうことを聞かないんでしょう?
聞きませんお。
それなら、お母さんも、コウ君のいうこと聞かないわよ。
いいですお。
ほんとにいいの?
いやですお。

私は、オオツカ先生です。
こんにちは、オオツカ先生。

湘南台、地下鉄あるでしょ?
あるよ。

「頭使えよ。助けてやんないよ」って言われたよ。
いつ?
昔。

お母さん、大町から行ってください。
まだトトトの信号が怖いの?
少し怖いんですお。
そうなんだ。

特別扱いしちゃ、ダメでしょう?
そうだね。
特別扱いしたの?
しないよ。

お父さん、お財布探してください。
分かりましたあ。

コウ君、ほら、お財布見つかったよ。
良かったです。

病院は、手術とかでしょう?
そうよ。

コウ君て、むかしイエズス会、行ったことある?
あるよ。ぼく、イエズス会好きだよ。
そうなんだ。

コウ君、いまどこ?
江ノ島ですお。

コウ君、今日アオイケさんが来るってよ。
いいですお。

お父さん、今日ヒガさん、録画してくださいね。
分かりましたあ。

お父さんに「ベランダの洗濯ものからにしろ」って、注意されたお。
あれは注意じゃない。ただ言っただけだよ。
注意されたお。

コウ君、PCR検査で陰性だったってよ。良かったね。
良かったですお。

カサタニ先生、コントラバス弾いたお。
そうだったね。

ノブユキさん、病院のお医者さんだったよね。
そうだったね。

お父さん、今日録画してくださいね。
分かりましたあ。
お父さん、言いましたよ、お母さん。
良かったね。

私はフクモトリコです。
こんにちは、フクモトリコちゃん。
ハイ。

お父さん、お風呂洗ってください。
分かりましたあ。

磯子行きだと、大船行かないのよ。
そうなんだあ。

セイザブロウさん、なんのお仕事?
下駄屋さんよ。
ぼく、下駄はきますお。
はいてね。

デザイナーって、なに?
どんなお洋服がいいかな、って考えたりする人よ。

クリバヤシさんのご主人、なにしてるの?
亡くなられたのよ。
なんで?
病気で。

「守ってないじゃないか」って、怒られたのよ。
誰に?
ナカムラさんに。
いつ?
昔。
大丈夫だよ。

ぼく、ヒガさんの録画、みますお。
「推しの王子様」ですか?
そうですお。

口ずさむって、なに?
ラ、ラ、ラとか、よ。

トトトト、やめてほしいですお。
トトトト、怖いの?
怖いんですお。
でも、目の悪い人はトトトで助かってるのよ。

マコトさん、今年ヒガさん泣いちゃったんですお。
そうなんだ。
泣いちゃったんですお。

お母さんが好きなのは?
ぼくですお……、ケン?

お父さん、大好きですお。
お父さんも、コウ君が大好きですよ。

 

 

 

少年少女

 

佐々木 眞

 
 

昔むかしあるところに、少年と少女が住んでいました。
ふたりは近所に住んでいたので、地元の同じ小学校に入りました。

少年は幼稚園時代にあまりいいことがなかったので、「よーし、小学生になったらがんばるぞ!」と、ひそかに心に誓っていました。
少女はいつも引っ込み思案だったので、「小学生になったら、なんとかして、そんな自分を変えたいな」と、願っていました。
ふたりは、たまたま同じクラスに入り、たまたま、隣同士の席で並ぶことになりました。

少女は、隣の少年の顔をそっと見ました。
学校より野山が好きそうな、元気な少年でした。
そこで少女は、今まで生きてきた中で最大の勇気をふるって、おそるおそる少年に語りかけました。

「あのお、わたしとお友達になってくれますか?」
聞こえるか、聞こえないかの、小さな、小さな声でした。
すると少年は、声のする方をじっと見ました。
とても可愛らしい少女でした。
少年は、少女に向かって言いました。
「もうお友達になっているじゃない」

それを聞いた少女は、思わずうれしくなって、にっこり笑いました。
すると少年も、なんだかうれしくなって、にっこり笑いました。

それから、時はずんずん流れ、長い長い月日が経ちました。
ふたりは大人になり、別々の遠い、遠い町に住んで、別々の生活をしていました。
少年は絵描きさんになりましたが、まだ独身で、少女は早くに結婚して主婦となり、三人の子供のお母さんになっていました。

ある日大人になった.少年は、故郷の町の実家で小さな展覧会を開くことを思いつきました。
すると、その話をどこで聞きつけたのか、大人になった少女が展覧会にやって来て、ふたりはおよそ40年ぶりに再会したのでした。

少年の絵をぜんぶ見終ると、少女は少年のところへやって来て、
「あのね、私が小学一年生になって隣の席に座った時、きみになんて言ったか覚えてる?」と尋ねると、
少年は「アハハ、そんな昔のこと覚えてるはずがないじゃないか」と答えました。
じっさい何ひとつ覚えていなかったのです。
「そうだよね。あんなに遠い昔のことだものね」と答えた少女は、何か言いたそうでしたが、それ以上何も言わないで帰っていきました。

その日の午後、古い家の玄関先には、とても良い匂いのする金木犀の花が満開で、いつまでも少女の後ろ姿を見送っていました。

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その56

 

佐々木 眞

 
 

 

お父さん、薬の英語は?
メディシンだよ。

お父さん、鎌倉の信号、怖いんですお。
そうか、怖いんだ。困ったね。

お母さん、新逗子駅、葉山逗子に変わったよね?
そうね、変わったわね。

逗子の信号もツツツツって鳴りますお。
え、そうなの?鎌倉だけじゃないの?
ツツツツツって鳴りますお。
おんなじ音なの?
そうですお。

お母さん、えこひいきって、なに?
その人だけ特別に可愛がることよ。

お母さん、ひょうきんて、なに?
オレたちひょうきん族よ。

様々って?
色々よ。

コウ君、その恰好おかしいわよ。
リコちゃんに嫌われる?
嫌われるわよ。
そうお。

コウ君、今日はどこ行くの?
セイユー行きますお。
他は?
セイユーだけですお。

お父さん、コウ君が一番好き!
ありがとうございました。

お父さん、欠席の英語は?
アブセントだよ。

コウ君、今日は父の日だよ。お父さんに、なんていうの?
ありがとう。
コウ君、ありがとう。

お母さん、薬剤師て、なに?
病気の人のお薬を考えてあげるひとよ。
エイ子さん、薬剤師さん?
そうだよ。
石原さとみとおんなじ?
そうね。テレビのね。

お父さんに「後から片づけなさい」っていわれたお。
コウ君、あれは偽のお父さんだったから、忘れていいよ。

お父さん、大丈夫ですか?
大丈夫だよ。

 

 

 

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第93回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2012年水無月蝶人酔生夢死幾百夜

 

公社の男女の社員がまるで仕事をするように生真面目に乱交している姿を、私は唖然として見つめていた。6/1 

青山トンネルを出ると、星条旗通りだった。夜の底がお星様だらけになった。「ササキさあん!」という呼び声に霊園の方を見ると、ハーレーダヴィットソンに跨って黒革のジャンプスーツを纏った若い女が、赤信号の交差点で対向車に激突し、空中で1回転して、白く柔らかな頬を、鋪道に叩きつけられる姿が見えた。6/2

「もしもあなたが先に亡くなって、もしも私が90歳までも長生きしたら、私は1階のあなたの南向きの書斎のお部屋に、南北の方向にベッドを置いて、毎晩ゆったりと眠ることにするわ」と、彼女が言うので、「いいよ、君の好きなようにしなさい」と、私は答えた。6/3

その外資系ブランドでは、本社と支社との関係が急速に悪化して、支社長は、「今後一切本社の指令を無視せよ」と全員に通達を出したのよ。6/4

D社の企画担当にワタナベという独裁者が就任したので、居たたまれなくなった私は、志願して地下の清掃工場で寝起きするようになったのだが、お陰で私は、ここに並べられている汚れたユニフォームを、一瞬で青い背広に変身させる魔術を習得することができたのさ。6/5

イケダノブオは、ツモリチサトの洋服や雑貨が気に入ったようで、大きく両手を広げて、所謂ひとつのラック買いと称される大人買いを始めたのだが、もしかするとイケダ選手は、むかしツモリ選手のアシスタントをしていたのではなかったか?6/6

「そうか、田舎土産に川魚が欲しいんか。しばらくそこらで待っとれよ」、と叫ぶと、おらっちは、マシラのように深い深い谷底の川に飛び込み、名物の落ち鮎を、両手に握りしめて戻ってきた。6/7

会社が倒産すると分かったと同時に、私がデスクの上に置いていたブルーレイプレーヤーは、誰かによって持ち去られ、その行方は、杳として知れなかった。6/8

横須賀から乗ったペンキ塗りたての船が、どうやら底に穴が開いていたようで、出発3時間後にどんどん沈み始めたので、さてどうしたものか、と腕組みをしているわたし。6/9

この地方の人は、なぜか全員上手なおふらんす語でしゃべっているようだ。私に向かってシッポを振りながら近づいてきたゴールデン・レトリバーに「どこへ行くの?」と尋ねたら、「コンセールへ」と答えたので驚いた。6/10

無茶苦茶に大きなエレベーターに乗って法務室へ入ると、モトムラ氏が大審問官のように居丈高な口調で、「One 40,Oh240を持ってきてくれ」と命じるので、余は「それが何であるかも知らないので出来ない」と断った。6/11

いつものように、飛ぶ教室の絨毯に乗って、サトウさんちへ行き、サトウさんとモコを乗せて、日本海と太平洋と大西洋を越えて巴里へ行ったら、ピカソ美術館が、久しぶりに営業しているというので、今度は飛ぶ教室バスに乗って出かけた。6/12

せっかく異色の新人たちを登用して人気番組に成り上がったのに、それに満足して高慢と自惚れの無眼回路に嵌まり込んだこいつらは、プロデユーサーの私が、いくら次のステップに駆け上るように促しても、一向に目を覚まさない。6/13

思い出多き家なれども、このたびの大震災で、あっという間に倒壊してしまったので、おらっちは、後ろを振り返ることなく、スタスタと歩み去ったのであった。6/14

つまらんロックコンサートが終わって、5人で歩いていたら、拳くらいの大きさの5人の小人が、両手に刀とピストルを持って、「金を出せ」とうるさく付きまとい始めたので、1人1殺で踏み殺してやったずら。6/15

会社がとっくの昔に倒産してしまったというのに、キムラ氏をはじめ、元野球部のメンバーは、まだ残っている食堂に毎日手弁当でやってきて、朝から晩まで、練習することもなく、ただいたずらに通い詰めていた。6/16

他にすることもないので、毎日私の会社にやってきて、デスクワークに夢中で取り組んでいた私が、ふと目をやると、大通りに面したビルの窓の外に、長男のコウ君が、まるで動物園のチンパンジーのようにぶら下って遊んでいるので、吃驚仰天したよ。6/17

31,30,29,28,27,26,25,24,23,22,21,20,19,18,17,16,15,14,13,12,11,10,9,8,7,6,5,4,3,2,1  6/18

マンハッタンの超高層ビルの谷底から、パンツを穿かずに這い上がって窓を拭く青年がいたが、てっぺんに到着していざ拭こうとした途端に、頭をどつかれて叩き落されてしまうのだが、それでもそのノーパン青年は、またしても脚立に乗って、上へ上へと高層ビルを這いあがってくるのだが、またしてもドタマを叩かれ 6/19

おらっちとサカイ君が、レリアンの広告タイアッップの不始末をどうもみ消そうか、とひそひそ話し合っていると、マエ課長が聞き耳を立て始めたので、これはヤバイ、とアオキ嬢をこっそり呼び寄せ、おらっちはとんずらしたのよ。6/20

大学の同級生のニシムラ君とメールを遣り取りしていたら、「君のメールには女の匂いがしないね」と言われたので、念のためにパソコンに鼻を摺り寄せておらっちが書いたメールの匂いを嗅いでみたが、なんの匂いもしなかったずら。6/21

今度のタカハシゲンイチローの講演会では、どんな本にサインしてもらおうかと思って、本箱の中を探したが、ただの1冊も無かったのだった。6/22

昔テレビの料理番組で見たヤキブタセットというのが美味そうだったので、作ってみようと思ったが、材料もレシピもないので、頭の中で想像するだけにした。6/22

おらっちは、「自分で作ったワクチンを、自分で注射したんや」、と自慢そうに喋ったので、どうやら町内から村八分になったようだ。6/23

この教会の執事をしている長老は、街をぶらついている放浪児の私をつかまえて、早くまともな仕事を探して独立するように促すのだが、いううことを聴かない私は、いつまでもそこらをほっつき歩いているのだった。6/24

小さな村の村長になった私だったが、何もしないうちに任期が終わり、すみやかに村人から忘れ去られていった。6/25

ニシムラ君から「君のメールからは女の匂いがしないね」と言われて以来、何でもかんでも匂いを嗅ぐようになってしまった。以来わが国の首相や閣僚が喋っているTVに近寄ると物凄い口臭がするし、プーさんやプーチンが喋っているTVを嗅ぐと、死臭がするようになったずら。6/26

中華街で中国人に雇われて中華料理を作っている私は、シェフからホウヤレホーのクマガイモリイチを持ってこいと命じられたが、てんで意味不明なので、ずっと考え込んでいるばかりだ。6/27

時々売り場には「透明ブランドのキリル」というのが登場するのだが、なんせ服も売り子もデザイナーも姿を見せないので、始末に負えない。6/28

夏の舗道を、女と歩いている。若くて美しい女は、バレリーナが着るチュチュというのか、超ミニのドレスを着ているが、その薄紫色が素敵なので、思わず目がくらくらするのら。6/29