尻子玉

 

佐々木 眞

 
 

極楽の昼下がり、お釈迦様は長い、長いお昼寝から覚めて、遥か下方の地上を眺めていると、おりしもハロウィンで賑わう、渋谷のスクランブル交差点が見えました。

と、ふとあることを思いついたお釈迦様は、女郎蜘蛛の杜子春を呼びました。

「これ杜子春や、あのスクランブル交差点全体を覆うような、大きな、大きな巣をかけなさい」

「はい」

と答えた杜子春が、お釈迦様の仰せの通りに、天上から大きな、大きな蜘蛛の巣をふんわりと投げかけましたが、せわしなく交差点を行き来する人々の目には、もちろん見えません。

さうして、この見えない蜘蛛の巣のベールの下を通る人は、男も、女も、男でも女でもない人たちも、大人も、子供も、みんな揃って尻子玉を引っこ抜かれてしまいました。

とさ。

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その71

 

佐々木 眞

 
 

 

2024年5月

モノレール、ジエットコースターみたいですよ。
そうですか。
そうですよ。

お父さん、黒柳徹子と石原さとみの番組、録ってくれた?
撮りましたよ。帰ってきたら一緒に観ようね。

ボク、クレソン大好きですお。
お母さんもよ。こんど買いましょうね。

感謝って、ありがとうのことでしょう?
そうだよ。

コウ君、来週図書館お休みだってよ。
なんでお休み?
特別整理期間だって。
なんでお休み?

ボク、ペヤングのソースヤキソバ、大好きですよ。
そうなんだ。

ハイハイ、お父さんですよ。
お母さん、出してください。
お父さんじゃダメ? お母さんは今忙しいからお父さんが出たの。
お母さんがいいよ。

感じるって、思うこと?
そうだね。

お父さん、ショードクって、英語でなんていうの?
ショードクねえ。分かりません。今度調べとくわ。
お母さん、ホケンのタカギ先生、「手をショードクしときなさい」ていったお。
いつ?
小学2年生のとき。

戦うラーメンマン、おもしろかったですおお。
そうなんだ。

一度きりって、なに?
一回だけ、よ。

生糸、オカイコのこと?
まあそうだね。

お母さん、あした東急行きます。
はい、分かりました。
お母さん、あした図書館とたらば書房、行きます。
はい、分かりました。

 

2024年6月

ぼく、ヨシタカユリコとお父さん、好きですお。
そうなんだ。コウ君、ありがとう。

ボク、オマツリ好きですお。
そうなんだ。

 

2024年7月

お父さん、田中みな実が出る「ギークス」録画してくれた?
しましたよ。
した?
したよ。

さまざまな、ってなに?
いろいろな、よ。

吉高さんに子どもが出来たんでしょ?
そうね、でもドラマの中でよ。

お父さん、田中みな実が出る「ネプリーグ」みますお。
いつ?
今ですお。
そう、みてね。

 

 

 

静かなる休火山

――目黒実氏に
 

佐々木 眞

 
 

小学生の頃、火山には、活火山と休火山と死火山がある、と聞かされていた。

それで僕は、山を人世に譬えて、山頂から激しく火をふいいて地下からのマグマを天に向かって吹き上げる活火山は、青少年期。

その勢いがだんだん収まって、
時々爆発するオヤジのように丸くなる休火山が成熟期。

そして思い出だけを懐かしむ老人期が、
死火山に似ていると思ったものだ。

それから半世紀の歳月が流れ流れて、
僕は今まで見たこともない秀麗な休火山と巡りあった。

花と嵐のこの世を渡り、酸いも甘いもかみ分けたお洒落な伯父さん、目黒実。
それはいつも静かなる頬笑みを湛えた休火山。

その山頂には、来る朝毎に昇る太陽にキラキラと輝く透明なカルデラ湖を湛え、その下にはいつでも爆発せんばかりの、ふつふつと情熱をみなぎらせたマグマが赤黒く滾っている。

この山は、もしかすると、この国でいちばん美しい休火山かも知れない。

しかしある朝、それが静かなる休火山であることをやめ、
その端正な面立ちを崩して、天空に向かって地下から激しくマグマをまき散らすだろう。

その時こそこの山は、世界でいちばん美しい山になるだろうことを、僕は確信している。

 

 

 

「夢は第2の人世である」第106回

 

佐々木 眞

 
 

 

2024年5月

ラジオ体操とメンデルスゾーンの「言葉なき歌」に、なんか文句をつけようと必死になるが、なかなかうまくいかないのだ。5/1

名工タキガワが、「今回は妻のマケカリの助太刀も得て、意欲作に挑戦したい」というので、商品部長を呼んで意向をきいてみたが、大量の在庫処分に追われてまるで馬耳東風なので、さすがのおらっちも匙を投げたよ。5/2

長らく小さな箱の中で育てられてきた小人が、ある年限を過ぎると、みるみる大きくなって、それはそれは立派な成人となりおおせるのだった。5/3

同級生たち10人で揃って歯医者に行ったら、虫歯にもなっていない丈夫な犬歯を麻酔なしで引っこ抜かれた友人もいて、いやはや大騒ぎだった。その後娘と坂道を登ってサテンで砂糖をどっさり入れた熱い紅茶を飲んでからバスに乗ったが、行き先を間違えてしまって別のを待ってる。5/4

するとクラタが勃発してきたので、ヤカハシはまた小説を追加したので、また美女が近づいてきたので、これを抱いているうちに、また喉が渇く、その繰り返しだ。5/5

ナンガパルバットの最高峰に挑んでいるおらっちだったが、同行する命綱を付けないことで知られる世界最高級のアルピニストが、突如8千mの高さから墜落してしまったので、呆然としている。5/6

バカダ大学の阿呆莫迦教師、ヒラオカトクの授業中に、とても大事なことを思い出したので、急遽下宿に戻って録画をセットしてから、またバカダ大学に戻ったら、誰も居なかったずら。5/7

彼は、かねての誓約通り、敵の囲みを破って、孤立無援の私を、救い出してくれたのよ。5/8

男性初の弁護士になるため、2つの難関を突破したおらっちは、ついに最後の三次試験の受験日を迎えた。5/9

在庫を一掃するべく、巨大な武器倉庫の武器弾薬をすべて処分したので、1946年11月3日の日本国憲法発布の公布日以来の、さっぱりとした気分になった、のよ。5/10

家の中に転がっている5種類のステレオ装置の5個のアンプと10個のスピーカーを、次々に接続しているうちに、どれがどれだかてんで分からんようになっちまった。5/11

「確かにこの文章にはいくつかの問題がある。しかし最も大きな問題は、私の署名があるこの文章は、私が書いたものではないことだ」と私がいうと、AI野郎がこそこそ逃げ出そうとしたので、私はドンと叩き潰してやった。5/12

小学5年か6年の時「顔洗いひょいと目を上げ四尾山」という川柳みたいな俳句を詠んだ時、弟と妹が「近くの寺山なら見えるかもしれんえど四尾山なんか絶対見えへん」といううたので、母が「別に見えんでもええの。寺山だと字足らずになる」と断じたのでさすがは愛子さんと見直したずら。5/13

クライアントからCⅯ製作を依頼されたので、すぐに夏色コンテを書き、チャイコの劇伴を副えてスタッフに見せたら、カキちゃんとモチ子は「マイマミロケですね」と即答したが、ケヅカ&イシワタ両君は、「スタジオ空舞台でSF合成ですね」というのであった。5/14

明日は戦国時代の最激戦になることが予想されるのに、大勢の戦士たちが、意外とのんびり構えているのは、そんなこととは、てんで知らないからなのだろう。5/15

おらっちの友人の中小企業の社長は、かなりの好条件で帝国一の大企業に引き抜かれようとしていたが、若くて優秀な30人くらいの従業員を思って、言下に断ったようだ。5/16

ゲーム中なので、メシはカレー中心で行こうとする作戦は大失敗。ホームラン賞こそ2回獲得したものの、連日連夜のカレーライス攻勢にすっかり食欲を失った私は、肝心のゲームに集中できず、無残な敗北を喫したのであったあ。5/17

日本竹槍武装党党首のおらっちは、日本会議の女ボスに呼ばれ、ジパング革命党に党名を変えたらあらゆる協力を惜しまないとまで言われたんだが、いろいろ迷った末、断固断ったのよ。5/18

私が定年退職する夜に歌い踊った「おぢやどんぶり」は、後にその会社が倒産してからもユネスコの世界文化遺産に登録され、短かったわが生涯の掉尾を、いと哀しく彩ったのだった。5/19

とてもやさしい料理人で、ランチのお米が切れるとおこわを山盛りにもってくれるので、あのレーニンをはじめ、世界中にファンが多かった。5/20

八百屋で超破格値のイチゴを買ったら、「できるだけ早くお召し上がりください」と言われたので、忘れないように部屋のあちことにイチゴインテリアとして置き捲ったのよ。5/21

永福寺の傍の竹林に、ちょうど手頃な大きさの筍が捨ててあったので、持って帰ろうとしたが、生憎布製の袋をどこか途中で無くしてしまったので、涙を呑んで諦めた。5/22

5枚組、6枚組、7枚組のおんなじブランドのパンを、何故かおんなじ値段で売っているのだが、あまりにもいろんなことを考えすぎて、どれを選んでいいか分からなくなってしまったのよ。5/23

「狙え!打てえ!ズドーン!」 恩知らずの僕は、身代わりになってくれた親友の心臓に、サンパチ銃の鉛を撃ち込んだ。5/24

隣を歩いていたオバハンが、「この近くにトウジョウ外科はありますか?」と訊ねるので、「すぐ近くだよ」と答えると、「そこで自分を殺してもらえますか」とまた訊ねるので「病院はガザのように人を殺す所ではなく、人を救う処だよ」と諭してやった。5/25

単なるピッチャーゴロというが、ピッチャーが取って一塁に駆け込んだんかいな?いやピーゴロやと思う。試合を終えて、そのままここへきてもうたんや。なら、それセーフやろ。ヒットやないか?なんで勝手に試合を終えてここでカレーライス食べとるんや? 5/26

ウンノ家を護っていた生き神様が、大火事で焼けてしまったので、ウンノ家は、運が尽きたようだ。5/27

有名デザイナーの工場に招かれて、服や雑貨や靴を見学していたら、そのデザイナーが「何でも原価でお頒けしますよ」と囁いたので、みんな競うように大量の買い物をしてしまうのだが、それって新手の商売ではないのだろうか?5/28

図書館では何冊でも本を貸してくれるので、どんどん借りるのだが、2週間はすぐに経ってしまうので、殆ど読まないままで借り直しになるから、図書館へ行くたびに持っていく本がどんどん増えてしまうので大変だ。5/29

私は、とうとう人を殺してしまったようだが、その時のことを、あまり思い出したくないので、わざとのように曖昧なまま放置して、時の流れに押し流されるよう願っているのだが、はてさてうまくいくかどうか。5/30

どういう風の吹き回しか、みんなで芝居をやることになった。まずは場慣れたタコ八郎、続いてドシロウトの私とゼンタロウ、それから駄犬のムクだが、こんな4人でもなんとかなるのだろうか?5/31

 

2024年6月

おらっちしかいない職場に知らない男がやってきて、「お前んとこの課長が帰ってきたらすぐに連絡せよ」と命令するとすぐ立ち去ったが、おらっちそいつが誰だか分からないので課長が戻っても放置しておいたずら。6/1

私は花園中学の女子中学生と手に手を取って、朝のラッシュで大混雑している京都駅に到着したが、それからどうしていいのか分からんかった。6/2

短文をつくったあとで、この文章にはどんなハッシュタグをつけるべきか大いに迷って、とうとう朝を迎えてしまったよ。6/3

友人から挨拶を頼まれたので、おらっちは昔書いた「なんでも挨拶事典」を引っ張り出して、よさそうなクダリをそのまま引用したかったのだが、んなもん皆無だったずら。6/4

若い2人のために別荘を建ててやったというのに、さして感謝も感動もしていないのは、なぜだろう? もしかしてワシの建築センスがダサイのではないのだろうか?と思うと、気が気ではなかった。6/5

商品を1個づつ手に取って、大勢の写真が販売に出る効率の悪さが、堂々とまかり通っている不思議さよ! これで人並み以上の給料が出ているのだが、ますます不思議だ。6/6

はじめは北に向かって歩きだしたのだが、思い直して、今度は南に向かって歩き続け、とうとうナニワエに着いたのよ。6/7

結果的には、予がその殺人事件の判事を担当することが分かっていたので、犯行以前の彼の動向を探ってみたのだが、どう考えても、あんな残酷な人殺しを実行するような人物とは思えなかった。6/8

容疑者を取り調べながら、「これが重要なんだよ、重要」と偉そうにいいながら黒板に「重要」と書いた重の字が間違っていることに気づいて、おらっち大層恥ずかしかったのよ。6/9

A君は秒速18km、B君は15kmの目にもとまらぬ超快速剣で、群がる兵士を切り捨てていたが、最終的に最も多くの敵兵を退治したのは、ほかならぬ秒速3kmの吾輩だった。6/10

草笛城の外観は、城壁が抉れて物凄い様相を呈していたが、世界中のアナキストたちが、八方破れのそのアナーキーな状態を讃美してやまなかったので、お隣の若月城も城壁の一部をわざと崩したりしていた。6/11

工業団地の土地を一応確保したコウドウカンは、自社の4区画を、それぞれトヨタ、NTT、ソフトバンク、大洋漁業などに提供してやったので、ひどく感謝されたのよ。6/12

健康診断を受けていると、市役所の職員が大事にしているという写真をこっそり見せてくれたのだが、その写真が、あっという間に脱走して、一人で遠くの方へ行ってしまったのよ。6/13

宮沢賢治記念館の公演の最後に登壇した花巻青年団の若者たちの風貌が、揃いも揃ってミヤザワケンジに生き写しだったので、とても驚いたが、よく考えると、あれもこれも当地によくある顔なのだった。6/14

予の豪邸が、時ならぬ大火で焼け落ちたので、町内の貧民どもが、なにか金目のものがないかと大挙してやって来たので、ドタマにくるぜよ。6/15

サキちゃんに誘われて京都に出て、そこから左京を歩き始めたら、汚い東屋にコ汚いおばはんがいて、それがサキちゃんの母親だったので驚く。それからさらに歩いて、西部講堂でマルセルメイエのパントマイムを見物したのよ。6/16

世界最高級のヴァイオリニストとして内外の尊崇を浴びている彼だったが、いくつかの有名曲を絶対に手掛けないのは、それを弾くと、おのれが死んでしまうと知っているからだった。6/17

ここイランでは、ウイルスのワクチンの入手が困難なので、罹患しないよう、毎日アラーの神に祈っている次第だ。6/18

長針が12時にやって来た時に、しっかりつかまえたので、時計は無事に元に戻った。6/19

あまりにも地味な身なりの男なので、誰一人注目しなかったが、あにはからんや彼こそ真の予言者なのだった。6/20

家族全員が出かけて私しかいなかったとき、もう若くないピンクのラバースーツを纏った女がやってきて、「もうすぐ地球に大洪水が起こるから、これを買っといた方がいいですよ」と勧めたが、「わしはまたノのアの箱舟に乗るからいいや」と断った。6/21

わが社は、書体づくりをしている社員5名の超小企業だが、このたび明朝の新書体づくりの社内コンペを行ったところ、新入社員のモリサワ君が最高級の成績だった。6/22

マイナカードによるAI検索で、リベラルないしは反権力派と見做されると、直ちに警察の特殊部隊が派遣され、有無を言わさず検挙され、徹底的に拷問された挙句に抹殺されるのだった。6/23

獣皮のテントで開かれたバッロック音楽の演奏会に退屈したので、おらっちは一人で夜のジャングルの中に入っていったのよ。6/24

お母さんとセイユーで買い物している間、コウ君はお昼のお弁当を選んだり、アイスクリームを買ったり、トイレに入ったり、週刊誌を立ち読みしたりするので、けっこう忙しいのだ。6/25

泌尿器科の医師であるおらっちは、若い時から年が年中クラシック音楽、わけてもモザールをまるでBGⅯのように流し続けていたので、たまにコンサートで聞いても生々しいBGMとしか思えないのだった。6/26

もはや余命半年の旧態以前たる百貨店に勤めているおらっちだったが、そこは腐っても鯛、毎週のように立ち上げられる「なんたらフェア」や「きゃんたらセール」に忙殺される毎日だった。6/29

そろそろ実家暮らしをやめて町に戻ろうかと思いつつ、息子の姿を求めて2階を覗いてみたら、なんとなんとどの部屋にも彼の友人たちがグースカ、グースカと高らかに鼾をかきながら眠っているのだった。6/30

 

2024年7月

3時28分にケイタイがぶるぶる震えたが非通知だった。それから彼女と手をつないで夜の小道を歩き出したのだが、どんどん道が悪くなって道そのものが無くなってしまったのだが、それでも無理矢理歩き続けていると、突然死んだふりをした中年女が寄りかかるので一喝した。7/1

もしかすると、この中年女も、手をつないでいる若い女も、そしておらっち自身も、この世の人間ではなく、冥界の人なのかもしれないが、そんなことを考えても仕方がないので、なおも道なき道を突き進んでいったのよ。7/2

部落代表同士で争論しているんだが、おらっちは、今争っている前の段階で、より重要な論点があったことに気づいて、えらく焦っているところ。7/3

帰路駅馬車に乗った私は、モーレツな勢いで急坂を駆け降りる最中に岩にぶつかって空高く飛び跳ねる馬車に驚いて、降りるべき駅で降りられず、取引先に契約違反で訴えられたりしたのだが、それどころではない、命あっての物種だったのだ。7/4

一死一塁でおらっちに打順が回ってきたのだが、おらっちはジャッジや大谷ではないので長打狙いを捨てて、あわよくば自分も生きられる犠打的な単打狙いに切り替えた。7/5

フロイトか誰か精神分析の専門家が、入門書の中でインタビューに答えながら、「無意識」についてとてもいいことを語っていたのを思い出して、その本を探しているのだが、どこにも見当たらない。7/6

長い欧州旅行を終えてしばらく経った頃、ヴェネチア書房という本屋から、手数料を払えという督促と請求書がきたが、なんのことやらさっぱり分からないので、ほったらかしにしている。7/7

わがホテルの従業員たちは、ホテル内に1つの組合本部と、1つの空き部屋を労働組合の権利として確保していたのだが、思うことあって組合の書記を辞めた私は、もう宿泊施設として利用できなくなってしまった。7/8 

あらゆる映画のエンドシーンを作り直すことになったので、製作会社はてんやわんやの大騒ぎだ。7/9

前歯の犬歯がひどく痛むので、朝一番でキシモト歯科に電話しなくちゃと思っていたが、不思議なことにいつのまにか痛みが去ってしまったのよ。7/10

全国136か所の貿易港にミサイルが撃ち込まれるのを、あんぐり口をあけて鑑賞していたが、いきなり自分の背中で爆発したのには驚いた。7/11

夕方夫と共に公園を散歩していた妾は、突如見知らぬ暴漢数名の襲撃を受け、夫婦で防戦したものの2人共大怪我をしてしまった。いったい彼らは何者だろう?7/12

それが景物であろうが、動植物であろうが、私が丁寧にスケッチすると、その図絵が、たちまち「そのもの」になるのでした。7/13

おらっちが、なぜか世界的に権威がある「日本賞」を受賞したので、建築界は大喜びだった。7/14

純白のドレスを纏ったブロンズ新社のワカツキさんが、南青山の洒落たお菓子屋さんの庭で、一心不乱に読みふけっていた。昔ながらのオカッパ頭で。7/15

烈女の誘いに乗るとか、いっちゃん洒落たレストランの料理を口にするとか、おいしそうな夢の中に入っていくと、碌な結果にならないことが、よーく分かったずら。7/16

エレベーターとは何をする機械か、てんで分からなくなった老人たちは、思い思いに大小便をしたり、告解したりしている。7/18

我は凸凹中学校の代用教員だったが、教頭の不祥事で修学旅行が中止になる噂を耳にしたので、勝手に子供らを引率して、日本全国遊覧の旅に出たのであった。7/19

革マルのナリオカが、いうに事欠いて、偉そうに「お前たちはインポだ」と決めつけのだが、おらっちは、そういう夫子自身が間違いなくインポなのだと思うに至った。7/20

明日の本番を前にして、主役のオセロが降板することになったので、みんなで少しずつ分担することにしたが、本来の役との区別を付けられないので、観客は大いに戸惑ったようだったが、そのうちに斬新でシュールな演出だと思ってだんだん納得してくれたようだった。7/21

報国寺の裏道を歩いていたら、川原という表札が出ている寂しそうな家があったので、カワハラアキコさんのお宅ではないのかと思ったが、もうこの世の人ではなさそうなので、諦めて通り過ぎた。7/22

馬鹿殿のドラ息子であるおらっちは、酒煙草ヤク女遊び革命ゴッコまで、ありとあらゆる悪さをやりまくったのだが、世話係のジイだけはいつもやさしく見守ってくれたのよ。7/23

学校の試験問題は、決められた時間内に、決められた形式で回答しなければならなかったが、それからおよそ50年後に正しく答えられた問題もあった。7/24

町内会から推薦されたウザッタイ元悪童が、あれよあれよという間に保守党と右翼の大物にのし上がって、夜郎自大な専制政治を独裁している。7/25

「水爆実験で繰り返し爆破されながら、残骸を悉く集積しましてね、こいつを再利用して何とからなんかいなと思っていたら、さる奇特な方が現れて、これで素敵な別荘を造ってくれませんかと仰るんですよ。」7/26

そとほり姫を、決して陸地にあげないよう、あらかじめ取り決めてあったのが、幸いした。7/27

わが市では、戦後70年間イスラエルと友好都市条約を結んでいたが、この夏市長と全議員の勇断の元、そいつを一方的に破棄してガザ市とのそれに切り替えたのよ。7/28

南に急行すれば、船が壊れて破滅する、という長老の予言を退け、わいらあゆっくりと帆先を南に向けた。7/29

ここ沖縄のナンタラ記念館で、おらっちは、日本人のお面を引っ剥がされて、醜いヤマトンチュの顔貌と向き合う羽目に陥ったのよ。7/30

打ち上げ失敗が相次ぎ、仕方なくおらっちは愛する虎の子の女性宇宙飛行士を最後の有人ロケットに搭乗させる羽目になったので、管制塔の秒読みが気になって気になって仕方がないのです。7/31

 

2024年8月

既に世界中が戦争状態なので、戦争から目を背ける映画が世界中で大ヒットしている。8/1

小二郎がもっと声を大にして仲間たちを説得すれば、近藤選手を死なせなくとも良かったはずなのに、しばらくすると彼の身代わりみたく組織を抜け出して外国に留学したのは、いったいどおゆう風の吹き回しだったんだろう。8/2

「お父さん録画した?」という息子の問いかけが絶え間ないので、それが実際の声なのか、電話の声なのかもわからずに、いまも続いている。「お父さん、録画した?」8/3

私の目の前で一人の知人が斬り殺されたので、何故だと訊ねたら、「こいつはお尋ね者の敵の内通者なんだ」というのだが、そいつをどれくらい信用したらいいのかが分からない。8/4

日曜日が来るたびに、僕らはいやいやながら、教会へ行かされた。僕らはやけくそになって、「ニチヨオサンビテエー、ニチヨオサンビテエー」と怒鳴りながら、仕方なく教会へ行ったんだ。8/5

世界中でどんどん人が死んでいくが、おそらくこの国では、おらっちだけがいつまでも死なないで生き残るだろうという噂が一部で流れていたようだったが、意外にもあっさり死んぢまったようだった。8/6

うちの町内会長はすぐに酔っぱらうのだが、酔っぱらうと、すぐに巨大なマサカリを振りかざして町内の家々に乱入するので、住民は怖れ慄いていたのだ。8/7

なんでこんな悲惨な事件が起こったのか、てんで分からないのだが、ともかくまたしても関東大震災が起こってしまったので、おらっちと次男は、車で大和の施設にいる長男の救出に向かい、妻は一人で自宅を守ることにしたのよ。8/8

長男を無事に助け出すことが出来たので、これ幸いと3人で車に乗って自宅まで帰ってきたら、ライフル銃で武装した正体不明の怪しい男が玄関口にいたので、急いで車から降りたおらっちは、コルト1発で彼奴を仕留めたのよ。8/9

コウ君が「タナカミナミのビデオ録ってくださあい!」と絶叫するので、急いで録ったのだが、60分の正規版ではなく、5分間の短縮版だったので、こはいかに!?と頭を抱え込んでいるところ。8/10

われは国内ではそれなりのレベルの選手であるし、われの唯一無二の必殺技が評価されて、今回の五輪に出場したのだが、いざ初戦で相手と対戦したものの、われはわれの必殺技をど忘れしてしまい、予選で敗退の憂き目にあったのよ。8/11

モモとマツヤマのコンビが、初めて映画で主演したので、その記者会見が開かれることになったのだが、彼らのテーノーぶりを熟知しているジャーマネのおらっちは、ハラハラドキドキしながら見守っているとこ。8/12

2つの連続ドラマの放映中に、同時多発的に爆発シーンが起こったので、上を下への大騒ぎとなった。8/13

極右の富士テレビで「ガチャンピン、ムック、ひらけポンキッキ!」と歌いながら踊っていたら、社員全員からシカトされたので、おらっちは彼奴ファシストどもから嫌われているのだと分かった。8/14

バスに乗り遅れるなとばかり、みんなも行く戦争に行ってみたが、いいことは何一つなく、おらっちの歩兵大隊のうちで、無事帰国できたのは1%だけだった。8/15

パクられた有名芸能人の牢屋情報をネットで無料公開しているそうだ。が、おらっちは絶対に見ないだろうな。8/16

社長の私が留守中に、私のダミーのAIの評判を聞いたら、当の私よりも高く評価されていたので、「だからAIなんてゼッタイ信用できないんだ!」と確信した私は、ダミーの首根っこを引っこ抜いて、滑川に投げ捨ててしまった。8/17

サンフランシスコで買ったお気に入りの腕時計を修理に出したのだが、いつまで経っても返ってこないので、「まだかいな」と問い合わせたら、さる大金持ちの外国人が「いくらでも買うから」と言って、大枚はたいて持って行ったというので、おらっちは激怒したよ。8/18

トミタ課長の格調高い演説を、わいらあ革命3兄弟が嘲笑ったので、動揺した課長は、わが軍のミサイルの矛先を全部クの字に折り曲げてしまったので、せっかくの台湾有事にはさっぱり役立たなかった。8/19

ド・クインシー公爵は、昔白いドレスの若い娘の後ろ姿をみて突如ムラムラし、背後から抱きすくめて、まるでさかりのついた雌雄の犬のように交尾したのだったが、20年後に自分の隣に優美に微笑んでいる公爵夫人が、その娘だったとは、我ながら信じられなかったよおだ。8/20

金ヶ崎で朝井軍に敗れ、信長から殿軍を命じられた秀吉は、「ここでなんとか生き永らえたら、甘い汁も吸えるだろう」と考えることもできたが、俺たち下っ端には、まるで救いのない、地獄のような後退戦が続くのだった。8/21

聞こえず喋れない少女の世話をしていた知り合いの官女が、娘の財産を蕩尽したというので、2年後に北町奉行に検挙され、酷い拷問を受けているそうだ。8/22

巴里の3つ星レストランへ行ったら、爺のくせに若者の顔をしたアラン・ドロンが、レストランじゅうにつるしたイカめがけてライフル銃を撃ちまくっているのだが、こいつが百発百中なので、店長もボーイも「イカス、イカス、イカス、セ・レ・レガンス・ド・ロム・モデルヌゥ」とフランス国歌のように歌いながら拍手喝采している。8/23

閉会式で演奏された曲は、親会社の重役でさえ聞いたこともなく、誰一人理解できなかったが、そこがまたこよなく佳いのだった。8/24

100m短距離走で優勝したのは、アパッカで覆われたフローライン人間だったが、ダントツでゴールインしてからも、スピードを少しも落とさずに、遥か彼方までぐんぐん走っていくのだった。8/25

タクちゃんヒーちゃんとおらっちは、電気的に繋がっているので、双方の様子を瞬時に伝達したり、共同でモノを作り上げることもできるのだった。8/26

余りにもたくさんのロケットなので、場内管理者は適当な感覚をおいて「出発」と書かれた旗を振ると、待機していた大中小のロケットが、その都度焔を吹いて打ち上げられるのだった。8/27

視聴率が取れるテレビの新番組の企画を頼まれて、いろいろ考えてみたが、結局お涙頂戴の母ものくらいしか頭の中に浮かんでこないので、我ながら嫌になってしまったずら。8/28

番ったのか、まだ番わないのか、知らないが、昨日と同じ雌雄のキチョウは、庭のシュウカイドウの上で、いつまでも戯れている。8/29

谷間に聳え立つこの古い尖塔には、東西南北に無数の小さなスタジオ兼用の部屋があり、そこでは複雑怪奇にしてデリケートな写真が撮れるので、世界中のキャメラマンの憧れの的になっているそうだ。8/30

世のテレビが、ことごとく阿呆莫迦番組なので、それとは正反対の、真摯な超優良番組を作ったのだが、残念ながら視聴率ゼロだった。8/31

 

 

 

西暦2024年8月18日の夜から19日の朝にみた夢

 

佐々木 眞

 
 

巴里の3つ星レストランへ行ったら、爺のくせに若者の顔をしたアラン・ドロンが、レストランじゅうにつるしたイカめがけてライフル銃を撃ちまくっているのだが、こいつが百発百中なので、店長もボーイも「イカス、イカス、イカス、セ・レ・レガンス・ド・ロム・モデルヌゥ」とフランス国歌のように歌いながら拍手喝采している。

 

 

 

17年蝉

 

佐々木 眞

 
 

吾輩は、蝉である。

 

蝉なんだけど、この国のニイニンとか、アブラとか、カナカナとかミンミンのような、しけた蝉ではない。

 

17年に一度地上に出てくる17年蝉なのよ。
おらっちはいよいよ来年の夏に晴れて地上に出てくることになって、その最後の準備をしているところだ。
 

準備とは何か?

君らは知らんだろうが、蝉の生涯の大半は地下における幼虫時における宇宙的、哲学的思惟に費やされる。

 

17年蝉のおらっちが、17年間考え続けていたこと。

それは君たち人間と同じで、悪い奴と戦争をしてもいいか、絶対にダメなのかという大問題なんだ。

 

戦争反対を唱えたり、叫んだりするのは、簡単だ。誰にもできる。

でも実際にアメリカ兵とか、中国兵とか北朝鮮兵とか、ロシア兵とか、あるいは他ならぬわが国の自衛隊員が、われらに向かってワラワラ突撃してきたら、どうしたらいいのだろう?

 

ある人は、逃げろ、逃げろ、どんどん逃げろ、と勧める。

またある人は、自分で自分の身を守れ、と説く。

 

しかしどんどん逃げろといったって、貯えもないのに、いったいどこへいけばいいのか。身を守れといわれても、一人ならともかく、家族もいるのだから大変だ。

 

さいわいおらっちは蝉だから、戦争が終わるまでずっとこのくらい穴倉に閉じこもっていればOKだが、君たち人間はそうもいかんだろう。

 

敵が襲ってきたら、とるものもとりあえず、台所にある包丁を振り回して抵抗するだろうが、いずれは多勢に無勢で、捕まるか、殺されるだろう。

 

はなから無抵抗で両手を上げて降参すれば、場合によっては助けてくれるだろうが、その場で、家族ともども、皆殺しの悲惨な目に遇うかもしれない。

 

それに、幸か不幸か健常蝉であるおらっちは、逃げるにせよ、戦うにせよ、無抵抗で殺されるにせよ、いくつかの選択肢があるけれど、息子のような障害蝉にはそんな贅沢はない。

よしんば戦おうと思っても、戦うことすらできずに、赤子蝉のように殺されてしまうだろう。

 

「先天的に戦わない、戦えないことしか、武器にならない」、そういう存在が障害者だとしたら、おらっち健常者も、にわかに後天的な障害者になって、「戦わない、戦えないことを武器に戦いに臨む」ことが出来るかも知れないな。

 

食うか食われるか、のるかそるかのAI殺人兵器大戦争の最前線に、まるで時代遅れのガンジーか、山背大兄王のようなゾンビたちが、西馬音内盆踊りやブレイキンなぞを踊りながら、ふらふら迷い出てきたら、どうなるんだろうな。

 

 

 

<ササキマコト>の主題に拠る48の変奏曲~第4篇 第31変奏曲から第48変奏曲まで

 

佐々木 眞

 
 

第31変奏曲

世界最高級のヴァイオリニストとして、内外の尊崇を浴びている彼だったが、いくつかの有名曲を絶対に手掛けないのは、それを弾くと、おのれがただちに死んでしまうと知っているからだった。

 

第32変奏曲

長針が12時にやって来た時に、おらっちがしっかりつかまえたので、時計は無事に元に戻ったのよ。

 

第33変奏曲

家族全員が出かけて私しかいなかったとき、もう若くないピンクのラバースーツを纏った女がやってきて、「もうすぐ地球に大洪水が起こるから、これを買っといた方がいいですよ」と勧めたが、「わしはまたノのアの箱舟に乗るからいいや」と断った。

 

第34変奏曲

マイナカードによるAI検索で、リベラルないしは反権力派と見做されると、ただちに警察の特殊部隊が派遣され、有無を言わさず検挙され、徹底的に拷問された挙句に抹殺されるのだった。

 

第35変奏曲

報国寺の裏道を歩いていたら、川原という表札が出ている寂しそうな家があったので、カワハラアキコさんのお宅ではないのかと思ったが、もうこの世の人ではなさそうなので、諦めて通り過ぎた。

 

第36変奏曲

そとほり姫を決して陸地にあげないよう、あらかじめ取り決めてあったのが、幸いしたようだった。

 

第37変奏曲

ノーマ・カマリの超ミニスカートが超セクスィーなので、あれを履いてみせてよと頼んだのだが、言下に断られたので諦めていたら、ある日それを履いて会社にやってきたYOKOが地下鉄の上のモンローのやうにしゃがんだので、クラクラしたのよ。

 

第38変奏曲

打ち上げ失敗が相次ぎ、仕方なくおらっちは愛する虎の子の女性宇宙飛行士を最後の有人ロケットに搭乗させる羽目になったので、管制塔の秒読みが気になって気になって仕方がないのです。

 

第39変奏曲

日曜日が来るたびに、僕らはいやいやながら、教会へ行かされた。僕らはやけくそになって、「ニチヨオサンビテエー、ニチヨオサンビテエー」と怒鳴りながら、仕方なく教会へ行ったんだ。

 

第40変奏曲

社長の私が留守中に、私のダミーのAIの評判を聞いたら、当の私よりも高く評価されていたので、だからAIなんて信用できないんだと確信した私は、彼奴の首を引っこ抜いて滑川に投げ捨ててしまった。

 

第41変奏曲

うちの町内会長はすぐに酔っぱらうのだが、酔っぱらうと、すぐに巨大なマサカリを振りかざして町内の家々に乱入するので、住民は怖れ慄いていたのよ。

 

第42変奏曲

ド・クインシー公爵は、昔白いドレスの若い娘の後ろ姿をみて突如ムラムラし、背後から抱きすくめてまるでさかりのついた雌雄の犬のように交尾したのだったが、20年後に自分の隣に優美に微笑んでいる公爵夫人が、その娘だったとは我ながら信じられなかった。

 

第43変奏曲

頭の中では何でも考えていいけれど、それをなんでもかんでも書いてはいけない。

 

第44変奏曲

ウンノ家を護っていた生き神様が、大火事で焼けてしまったので、ウンノ家は、運が尽きたようだ。

 

第45変奏曲

私が自閉症の長男と共にゆったりと暮らしている限り、たとえ全世界が崩壊しようとも、浮世離れしたかけがえのないしあわせを享受することが出来る、と思うのである。

 

第46変奏曲

戦争で殺されることのない日常を、サンアドの葛西薫氏の表現を勝手にお借りして表現すれば、「一日一日が、大切で宝石のよう」に感じるのみなのだ。

 

第47変奏曲

世界中でどんどん人が死んでいくが、おそらくこの国ではおらっちだけがいつまでも死なないで生き残るだろうという噂が一部で流れていたようだったが、意外にもあっさり死んじまったようだった。

 

第48変奏曲

今日は朝から快晴で、死ぬのにもってこいの日だ。

 

 

 

<ササキマコト>の主題に拠る48の変奏曲~第3篇 第21変奏曲から第30変奏曲

 

佐々木 眞

 
 

第21変奏曲

バカダ大学の阿呆莫迦教師、ヒラオカトクの授業中に、とても大事なことを思い出したので、急遽下宿に戻って録画をセットしてから、またバカダ大学に戻ったら、誰も居なかったずら。

 

第22変奏曲

町内会から推薦されたウザッタイ元悪童が、あれよあれよという間に保守党と右翼の大物にのし上がって、夜郎自大な専制政治を独裁している。

 

第23変奏曲

水爆実験で繰り返し爆破されながら残骸を悉く集積しましてね、こいつを再利用して何とからなんかいなと思っていたら、さる奇特な方が現れて、これで素敵な別荘を造ってくれませんかと仰るんですよ。

 

第24変奏曲

純白のドレスを纏ったブロンズ新社のワカツキさんが、南青山の洒落たお菓子屋さんの庭で、一心不乱に読みふけっていた。昔ながらのオカッパ頭で。

 

第25変奏曲

小学5年か6年の時「顔洗いひょいと目を上げ四尾山」という川柳みたいな俳句を詠んだ時、弟と妹が「近くの寺山なら見えるかもしれんえど四尾山なんか絶対見えへん」といううたので、母が「別に見えんでもええの。寺山だと字足らずになる」と断じたのでさすがは愛子さんと見直したずら。

 

第26変奏曲

烈女の誘いに乗るとか、いっちゃん洒落たレストランの料理を口にするとか、おいしそうな夢の中に入っていくと、碌な結果にならないことがよーく分かったずら。

 

第27変奏曲

エレベーターとは何をする機械か分からなくなった老人たちは、思い思いに大小便をしたり、告解したりしている。

 

第28変奏曲

お父さん、台風の英語は?
タイフーンだよ。
お父さん、台風の英語は?
だから、タイフーンだよ。
お父さん、台風の英語は?
だからあ、タイフーンだよ。

 

第29変奏曲

ノブイッちゃんは思う。
惑星が地球に衝突する前に、死ねた。
ヒトハルちゃんは思う。
関東大震災がまたやって来る前に、死ねた。
ボクちゃんは思う。
第3次世界大戦が始まる前に死ねた。

 

第30変奏曲

どういう風の吹き回しか、みんなで芝居をやることになった。まずは場慣れたタコ八郎、続いてドシロウトの私とゼンタロウ、それから愛犬のムクだが、こんな4人でもなんとかなるのだろうか?

 

 

 

<ササキマコト>の主題に拠る48の変奏曲~第2篇 第11変奏曲から第20変奏曲

 

佐々木 眞

 
 

第11変奏曲

全身に見慣れないと突起物が総立ちになって、「見てよ、見て見て、こっち見て」と大騒ぎなので、よく見るとさぶいぼたった

 

第12変奏曲

ピーターは、なんで自分がこんな田舎の支局に飛ばされたのか、さっぱり分からず、元の上司に何度も電話してそのわけを聞こうとしていたが果たせず、何年間も腐っていたが、ある日おらっちが上司の上司からそのわけを尋ねると「実は別の奴を飛ばせと指示したのに、人事が間違ってピーターを飛ばしたんだ」というのだった。

 

第13変奏曲

浅いが綺麗な海の中で、小さな魚や海藻がゆらゆら揺れるのを見ていると、時が経つのも忘れてしまう。ふと気が付くと、私は水の中でも呼吸が出来るようになっていた。3/31

 

第14変奏曲

エレベーターとは何をする機械か分からなくなった老人たちは、思い思いに大小便をしたり、告解したりしている。

 

第15変奏曲

明日の本番を前にして、主役のオセロが降板することになったので、みんなで少しずつ分担することにしたが、本来の役との区別を付けられないので観客は大いに戸惑ったようだったが、そのうちに斬新でシュールな演出だと思ってだんだん納得してくれたようだった。

 

第16変奏曲

会期が迫ったパリコレに出す服のデザインを必死で考えているおらっち。そのコンセプトのひとつは「踊る服」で、もう一つは「考える服」だったが、そもそもおらっちは、物を考えたことなど皆無なので、後の作品はてんで出来ないのだった。
 

第17変奏曲

朝、咽喉がムズムズするので、ケタクソ悪いなあと思っていたら、突然見慣れない小人が飛び上がって、まるで誕生したばかりのお釈迦様のように、両手を高く掲げてテーブルの上に着地したので、えらく驚いたよ。

 

第18変奏曲

死地に乗り入る十八騎

ああ、あれは確か鳥羽殿じゃ

死ぬも生きるも、この時ぞ

死地に乗りいる十八騎
いきつくとこまで
ずんずん乗り入る十八騎
生きるも死ぬも、この時ぞ、 この時ぞ

 

第19変奏曲

報国寺の裏道を歩いていたら川原という表札が出ている寂しそうな家があったので、カワハラアキコさんのお宅ではないのか、と思ったが、もうこの世の人ではなさそうなので、諦めて通り過ぎた。

 

第20変奏曲

学校の試験問題は、決められた時間内に、決められた形式で回答しなければならなかったが、それからおよそ50年後に正しく答えられた問題もあった。

 

 

 

人間の澱

 

佐々木 眞

 
 

毎晩風呂に入るので、毎朝風呂を洗っている。

たいていの汚れは落ちるが、擦っても擦っても落ちないのが、いつの間にか風呂の内側の壁面についた茶色い滲みだ。

それは、長年にわたって俺と妻と息子が、代わる代わるこの狭いプラスティックの箱の中に入って、擦りつけた薄茶色の澱だ。

それは、人間の澱。動物の澱。動物の体内からにじみ出る分泌物。
どういう成分だか分からないが、ともかく有機物の澱だ。

この薄茶色の澱をじっと見つめていると、なぜだか昔のいろいろを思う。

なぜ青山で一人暮らしをしていたトップモデルは、ぐらぐら煮えたぎる熱湯の中でまっ白な骨になってしまったのか?

なぜサカイくんは、深夜の浴槽で不慮の死を遂げたのか?

なぜユダヤ人たちは、アウシュビッツで殺され、なぜ私は、ぬくぬくと生き延びてあたたかなこの湯の中でひと時のしあわせを享受しているのか?

いつか私も、父母のように突然心臓まひや脳卒中に襲われ、それがこの薄茶色の澱のついた浴槽で、声なき助けを呼びながら、ひとり真夜中に息絶えるのかもしれない。