家族の肖像~親子の対話 その60

 

佐々木 眞

 
 

 

「あけましておめでとうございます!」言いましたよ。
おめでとうコウ君。

車体構造って、なに?
社会構造?
車体構造だお。
なんか難しいことを聞くねえ。

目黒駅構内って、なに?
目黒駅の中、のことよ。

いとしいって、なに?
かわいくて心に響くことよ。

なんで泣いてるの?
結婚しようと思ってたら、騙されちゃったんだって。

ぼく、連佛さんの声、好きですお。
お母さんもよ。

お母さん、おみそれって、なに?
おみそれして申し訳ありませんでしたあ。

お母さん、ぼく「新参者」好きですお。
そう、お母さんもよ。

受け止めるって、なに?
それはね、受け止めることよ。

局地的って、なに?
その地方だけ、ってことだよ。

ぼく、ファミリーマートで雨宿りしましたよ。
そうなんだ。良かったね。

マコトさん、のぞみ幼稚園、金曜日までなんですよ。
のぞみ幼稚園って、浦和の?
そうですお。

お母さん、ごはん食べよ。
はい、食べましょうね。

お母さん、エイエイオーは?
頑張ろう、よ。
エイエイオー! エイエイオー! エイエイオー!

お母さん、お茶と緑茶入れてくださいね。
分かりましたあ。

お母さん、大工さんいつ来るの?
金曜日の午前中だって。
分かりましたあ。

ぼく、逗子のau行きますお。
大丈夫? 我慢できる?
できますお!

コウ君、これからどうするの?
ぼく、お昼寝します。

鬼は外おおおお! 福は内いいいい! ぼく、言いましたよ。

速度おとすって、ゆっくり走ることでしょう?
そうだよ。

速度おとそうね。
そうね。
ゆっくり走ろうね。
そうだね。

オオヤさん、辞めるんだって。
ぼく、寂しいけど、頑張りますよ。
頑張ってね。

「お世話になりました」って書いてあったよ。
そう、良かったね。

ぼく、オオヤさんに、お手紙書きますお。
そう、書いてね。

実は、って、なに?
本当は、よ。

非常に、って、なに?
とっても、よ。

お父さん、爆発の英語は?
エクスプロージョンだよ。
なに?
バーン!、だよ。
バーン!!!

お父さん、気をつかう、って、なに?
それはね、つまり、気をつかう、ってことよ。

もしもし、お父さんだよ。
お母さんに代わって。
はいはい。

オオヤさん、新天地に行くんだってよ。新天地って、なに?
そうねえ、きっといいとこよ。

オオヤさん、ぼくは、握手しますお。
そうしてね。

オオヤさん、広末涼子に似てますお。
そうねえ、ちょっと似てるね。

ぼく、オウチ帰ったら、セイユー行きますお。
行こうね。

「お願いします」って、頼むこと?
そうだよ。

無くなるの、廃車?
そだね。

私はブロッケンジュニアなんです。ブロッケンジュニア好きだよ。
そうなんだ。

障害物って、なに?
邪魔なものよ。

ケンちゃん、「エール」みた?
みたと思うよ。

さつまいも、食べるものでしょう?
そうだよ。

極める、って、なに?
最後までいくことよ。

ヒライ先生、死んじゃったね。
そうね。

七面鳥、トリでしょう?
そうだよ。

年格好って、なに?
何歳くらいで、どんな体格をしてるか、だよ。

お母さん、おばあちゃんちで個展作ったでしょう?
そうねえ。

ところがって、なに?
そうだったけれど、よ。

たしなめるって、なに?
そんなことしないのよ、よ。

ミエコさんて、お母さん、ミエコさんでしょ?
そうよ。

ウクライナって、なに?
そういう国の名前よ。いまロシアから戦争を仕掛けられて困ってるのよ。
ぼく、戦争嫌ですお。
お母さんも。

シカゴは外国?
そう、アメリカよ。

お母さん、受け止めるって、なに?
ああそうだねって、認めてあげることよ。

ミーティングって、なに?
話し合いよ。

お母さん、おみそれって、なに?
「あらまあ、びっくり」、よ。

イグサ、「たたみ」でしょ?
そうだね。イグサで出来てるね。

ぼく「みんなの歌」好きですお。
お母さんも。
お父さんもだよ。

めった刺しって、なに?
めちゃくちゃに刺すことだよ。
めった刺し、嫌ですねえ。
嫌だねえ。

ぼく、名越のプール、好きでしたお。
お父さんも。あのプール、良かったね。

またオオヤさんに会える?
きっといつかどこかで会えるよ。

お買い得って、なに?
買って得することよ。

更生のこう、更にの更でしょう?
そうだね。

停電したためって、なに?
停電したから、よ。

ぼく2段ベッド好きですお。
そうなんだ。
上が好き?それとも下?
両方ですお。

とりあえず、「一応」のこと?
そうだね。

果てしなくって、なに?
どこまでもずーっと、よ。

お母さん、特別扱いしちゃだめでしょう?
そうねえ。

あした定期買いに行きますお。
行こうね。

私は壇ふみです。
こんにちは壇ふみさん・

金曜日、お赤飯と豚汁にしてくださいね!
分かりましたあ!

今日コンスープとシャケご飯にしてね、お母さん。
分かりましたあ。

人間同士って、なに?
人間、みんなお友達よ。

 

 

 

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第98回

 

佐々木 眞

 
 

 
 

西暦2022年蝶人酔生夢死幾百夜

西暦2022年弥生蝶人酔生夢死幾百夜

 

ローマの山奥から切り出した大理石に身を包み、長期休暇を取っていた鉄人28号は、飛び立ち、遠路はるばる激戦続くウクライナの先にあるモスククワのクレムリン宮殿でふんぞりかえる怪人プーチンを目指した。3/1

コバヤシ散髪屋の鏡に映っているその顔は、おらっちに非常によく似ていたが、コバヤシさんは、もうとっくの昔にあの世に行ってしまっているおらっちの髪を、懸命に刈りこんでいるのだった。3/2

新幹線の中で、自閉症を持つ母親がいたが、自閉症を持つ母親が育てた子供だから、きっといい子にちがいないと、おらっちは思ったずら。3/3

そのお見合い会社には、元スッチーとか美人の気象予報士などがいっぱいいたけれど、なんせ高嶺の花なので、誰もおいそれとは近づけず、実のところ一番人気は、総務のお茶出しの女の子だった。3/4

地球環境の悪化で、我々が火星に大移動してから数世紀経ったが、そこも居住に堪えられなくなってきたので、今度は、金星に移住する計画が進められているよーだ。3/5

ともかく、これまで死ぬほど長い旅をしてきたので、もはや、いつどこで死んでも構わない、という、悟りのような、諦めの心境に、おらっち到達していたのだった。3/6

最新ナガタ式パターンに拠る秋冬物婦人服のシルエットは、案に相違して非常に評判が悪く、東西営業部からの受注がまったく入らなかったのよ。3/7

1年に3回だけ打ち出の小槌を使って、自分が思う通りの情況に造り直すことが出来るので、本来なら家族の安寧と福祉のために揮うべきものを、3回まとめてプーチンの頭上に振り下ろしたのだが、奴さん、微動だにしなかったずら。3/8

専制君主の圧制に堪りかねて、山奥の地下の洞穴に逃げこんでいる最低人からも税金を取り立てるのが、おらっちの仕事だったが、内心の苦悩を、誰も知ってはくれなかったよ。3/9

息子が「アプリって知ってる?」と聞くので、「サプリの親戚だろう」と答えたら、呆れたボーイズの顔になったので、もしかしておらっちは、間違え小路でさ迷っている老人なのではないか、という気がしてきたずら。3/10

パイロットのおらっちは、羽田発関空行きのヒコーキを、途中の富士山上空でクルリと一回転させたために、地上勤務に降格されたが、その後乗客たちから、大勢の支援者が現れたので、また元の勤務に返り咲いて、毎日クルリ、クルリをやっているのさ。3/11

NYの一流商社には、エリート組と非エリート組があって、前者が退社するのを待って、後者が退けるんだが、おらっちは、いつも後者の先頭を切って退社して、我が家で楽しく団欒していた。3/12

ウクライナの国旗は、青黄の補色の2色からなっていて、青が青空、黄色が麦を象徴していると聞いていたんだがあ、青ではなくて紫がかった蒼でないと正しい補色にならないので、その間隙をプーチンに衝かれたのだろう。3/13

「怪人プーチンのような人物は、悪魔があっという間に悪しき心を植え付けてしまった所産だから、人間にはどうしようもない。ある日ある時、気まぐれな神様が、その悪心を取り除いて呉れる瞬間が訪れるまではね」と、か弱い天使が言うた。3/14

独逸からやって来たある女性と、何回か話しているうちに、そのモリジアニ風の、ちょっと歪な青白い目に、だんだん魅入られてきて、いつしか、忘れがたい人になってしまって、いるのだった。3/15

殆ど暗闇に近いその試写室の入口の廊下に置かれた長いソファーには、かなり大勢の人々が身じろぎひとつしないで座っていたが、その横顔をちらちら盗み見しているうちに、彼らは物故した著名な映画関係者であることが分かってきた。3/16

いくら勘定しても、採算なんか絶対に取れないと決まっているのに、なぜかおらっちは、その乾物屋を出店してしまったのよ。3/17

チーム最高経営会議の議長を務めていたおらっちは、連敗に意気消沈する選手たちを激励しようと、みずからバットを振るって三塁打を放ったが、後続の誰も、おらっちを本塁に迎え入れることは出来なかった。3/18

沢山の馬が馬小屋に繋がれているが、みな立ったままなので、「君たち、立ったままだと疲れるだろう。誰も見ていないから、座りなさい。その方が楽だろう」と言うたのだが、どいつも座ろうとはしなかった。3/19

戦争が終わって、また平和が蘇って来たが、世界観光業で首位を争う2社の競争は、ますます激しくなるばかりだった。3/20

心臓発作でベッドに寝ているタダさんを見舞ったら、「僕は昔から右翼と左翼の両方から付け狙われていたから、いまここで心臓麻痺で死んでも、全然苦にならないよ」と明るく語るのだった。3/21

おらっち、鎌倉時代の鎌倉にいるのだが、零落した御家人の家来たちが、由比ヶ浜の海岸で蓆を敷いて、下人たちが主宰する博打に参加して、たちまちすってんてんになっていく哀れなさまを見物しているところ。3/22

おらっち、「この巨大な鋼鉄マスクをしていれば、コロナどころか、ミサイルだって怖くない」と、思うようになっていたのよ。3/23

私はバーンスタインだが、カーネギーホールでブラームスの第1ピアノ協奏曲をやった時、生意気なグールドが、「うんと遅いテンポでお願いします」というたので、仕方なく聴衆への注釈つきで劇伴したんだが、演奏しているうちに、「なんだ、このテンポでいいじゃないか」と思えてきたのよ。3/24

わいらあ、ウクライナのキエフを脱出して、ポーランドを目指して歩いていたら、耳に繋いだラジオから「本日の鎌倉のコロナ感染者は20名です」という放送が聞こえてきたずら。3/25

イマナカさんが、長らく会社に勤めて地味なリーマン生活を続けながら、出版社を経営し、いろんな趣味の本を世に送って来たとは、夢にも思わなかったので、今夜の夢に、それが出てきたことは、ちょっとした驚きでした。3/26

内戦が激化して、都心部であんのんと暮せなくなった民草らは、爆撃を受けて半ば廃墟と化したこの工業地帯にやってきて、警察の手入れに警戒しながら、思い思いの個室にぐったりと身を委ね、暗欝な気分になると、真ん中の寄り合い所に集まって、平時の折りの四方山話に耽るのだった。3/26

何事も中途半端にしかやってこなかったおらっちなので、いざ戦になると、構えはしたものの、敵兵が突撃してくると、手に持った刀などは明後日の方角に放り投げて、すたこらささと逃げ出したずら。3/27

ヘリから降りたったマリウポリは美しく清潔な街だった。30度の二股に別れた無人の大通りは、白い舗道に紅殻色で統一されたまるで泰西名画のような調和と静謐な美で飾られ、さながら地上の楽園のように思われた。3/28

3人でマリウポリに1泊して翌朝、外に出ようとしたおらっちは、先に大通りに出た同僚の2人が、ロシア人の銃撃で斃れたのをみて、慌てて地下室へ逆戻りした。3/29

おらっちのゼミの最優等生のA子がおらっちの最終授業の後でやって来て、「せんせい、あたしようやく卒業できたから、今度は就職しようと思うんだけど、どこかいい会社をご存知ですか?」と言うので、びっくらこいたよ。

黒鍵を苦手とするそのピアニストは、その苦手を克服するために、あえて演奏会プログラムの冒頭を、ショパンの「黒鍵のエチュード」、アンコールを、「黒猫のタンゴ」にしていた。3/31

 
 

西暦2022年卯月蝶人酔生夢死幾百夜

 

巨大なシンクタンクでは、独創的なクリエーターが自由奔放なアイデアをあたりに撒き散らしていたが、それらをちゃんとビジネスに結びつける仕事は、おらっちにしかできなかったのよ。4/1

「社長繁盛記」の撮影現場に行ったら、予期に反して、役者も、監督も、端倪すべからざる人物ばかりだったので、驚いたずら。4/2

さる有力人物の葬儀に赴いたら、いきなり親族席に案内され、司会者がお城の二の丸とかレナウンの女子寮がとか、気になる挨拶をしているので、「これはどなたの葬式ですか?」と訊ねたら、変な顔をされた。4/3

ヨコタカで3枚の黒のジーンズを買うたのだが、社員寮には白のジーンズしか残っていないので、もしかするとヨコタカでは、黒を2枚、白を1枚買うておったのかもしれないずら。4/4

美学校の隣にある詩学校を窓から覗いてみたら、おらっちの幼年時代の詩「てらこの下駄」を生真面目に朗読していたので、「おいおい、そんな下らない詩を取り上げたら、頭がおかしくなるぞ」と、警告したのよ。4/5

戦場を激しく飛び交う広報部長のヘリに、必死で追いつこうとする広報次長ノエリだったが、地上の兵士が発射した、最新型のミサイルで、両機ともあっさり撃墜されてしまった。4/6

おらっちが社員寮でパンツを紛失したことが、寮長の掲示で全員に知れ渡ったのだが、パンツには、大いなる沁みが付着しているので、おらっちは、そいつが永久に出てこないことを必死で祈った。4/7

社の編集局長の平出が、「シニア向け新文化雑誌の編集長に、ベテランの山田を起用するつもりだが、どうだね?」とおらっちに訊ねたので、「あんな男に何か出来る。他にも人材がいるでしょう」と返答したのだが、案に相違して山田がベストセラーを連発したので、おらっち恥ずかしくなって退社したずら。4/8

身ひとつで悪人どもの巣窟に飛び込んで、海千山千の彼奴等の間を巧みに泳ぎ回る彼を見ていると、おらっちもぐあんばらなくッちゃ、という気持ちになっていくのだった。4/9

久し振りに、郷里の実家に帰って寛いでいると、離れで、きょうだい2人が、ひそひそ話をしているので、耳を澄ませて聞いていると、どうやら、おらっちの噂話をしているようだ。4/10

電通のヨシタケさん似のリーダーが、世間には、「モノを売るビジネス」と、「コトを売るビジネス」に加えて「シアワセを売るという第3のビジネス」があるのです。と言うたので、思わずおらっちは、「おいらは街のシアワセ売りよ」てふ唄を歌ったのよ。4/11

おらっちはずっと家にいて仕事をしていたのだが、いつの間にかケータイが無くなっているので、家じゅう捜索したのだが、やっぱり出てこないので、「きっとあいつは、我が家が嫌になって家出をしたんだろう」と、思ったのだった。4/12

「全日本富士山登山会」が、今年も全国から登山者を募集したのだが、コロナの大流行が仇となって、結局企画自体がポシャッてしまった、と、これはサイトウ会長のお話でした。4/13

当地でも内戦が勃発し、13番線が大混雑なので、急遽14番線からの発着に切り替えることになったので、我々駅員はその準備に大童だった。4/14

おらっちは、ミラノ行きのヒコーキのドアが閉まるのを、片足を入れて引きとめていた。というのも、これに乗り遅れると、今日中にベルギーに入れなくなるからだった。4/15

いよいよ戦争も酣になって来たせいか、タワマン毎に、外装を、自分たちが応援する国の国旗の色に塗り替えて、おのおの政治的なメッセージを発信するようになったみたい。4/16

聖徳太子が7人と話をしていたので、傍で聞いていたが、7人と一度に話をするのではなく、1人ずつの話を、極超高速ミサイルのような猛烈な勢いで片づけていくのだった。4/17

北方領土出身アーチストの彼女の今回の個展のテーマは「色丹島」で、真夏の草原に咲く橙色の、名も知れぬ花々の絵の、105通りのヴァリエーションが展示されていた。4/18

全米1のスケールを誇るニッポン村には、もはや本国では見られなくなった古式豊かな神社仏閣や木造住宅が、整然と立ち並んでいるので、世界中、とりわけ日本からの観光客が、群れをなして押しかけるのだった。4/19

NY帰りのチンケなねえちゃんが、こましゃくれた発言をするので、ぶっとばしてやったずら。4/20

余は、一介の観光客として訪れたその町で、日一日と、単なる路傍の生活者、へと変身していった。これすなわち、乞食になったのであーる。4/21

元のキャンパスがあった交差点に、30年ぶりに同級生が自転車に乗って集まり、再会をともに喜びあったのだが、なんと10人のうち2組の4人が、カップルになっていたので、いささか驚いたずら。4/22

ある学生が企画した「売春買春ツアー」がヒットしているようだ。これはやりたい人、やられたい人、そのどちらでもない人、の3つのグループに属しつつ、いいろいろ楽しんだり、楽しまなかったりする、2泊3日のパックらしい。4/23

見わたす限り地平線の彼方まで広がる草原に、たった一人煙草を吸うているオッサンがおるので、その顔をよーく眺めたら、なんと、カモカのおっちゃんだった。4/24

いよいよ町に敵の武装赤色電車が乗り込んできたのだが、たった2両編成で、誰も乗っていないので、どうしたらよいか、みんな戸惑っている。4/25

六本木の日本フォノグラムで開かれているバザール会場に入ると、ジェームズ・レヴァインのミュンヘン、ボストン時代の録音も含めた膨大な全演奏記録のCDとDVD全集が2万円で販売されていたのだが、1万円しか持ち合せが無く、泣く泣く諦めた。4/26

始発駅から1万5千円を使って特等席に乗ると、隣の座席に、見事な栗が鈴なりの栗の木の枝が置いてあったので、その実を食べながら、おらっちは家に帰ったのよ。4/27

まだ<キャシャレル>というブランドは存続しているんだが、「これまでに企画製造した製品は、ぜんぶ販売し終っているのだ」と、イデっちが言うんだが、それってホントだろうか?4/28

案の定、辞世の句を詠むことになってしまったが、余りにも急すぎるので「どの道も ローマヘ通じる この道を行く」しか頭に浮かばない。季語がないのが気になって仕方が無いが、どうやら時間切れのようだ。4/29

1の兵が最強の兵かと思っていたら、案に相違して鎧袖一触で敵に惨敗してしまった。2の兵、3の兵と次々に敗れ去ってしまったのだが、最後に登場した10の兵が意外にしぶとく、大逆転で敵の侵攻を止めて押し返した。4/30

雨が降ると、おらっちは、いつも大学病院の精神科の地下壕に、自転車を隠しておくように、なっていたのよ。4/30

 
 

西暦2022年皐月蝶人酔生夢死幾百夜

 

いつの間にか我が国も、ロシア並みの専制国家に成り下がっていたので、全国民がどんな書類にでも、「プーチン」とサインするようになってしまった。5/1

「瀕死の詩人たちには、半地下の4畳半に入ってもらうことにする」と、政府が決めたそうだ。5/1

朝から晩まで別の噺をしようと思っていたのだが、ストックがすぐに尽きてしまったので、おなじ噺をちょっとだけ変えて、延々と語る羽目に陥ったが、考えてみれば、これは落語とおんなじだな、と気づいたので、一安心したずら。5/2

モンゴル語学校で最優秀のA君は、確かに語学の天才だったが、余り人望はなく、人々は、成績はナンバー2だが、人間味のあるのB君になついたのよ。5/3

千の天使がバスケットボールをしているので、さっきから呆然と見惚れているのだが、これってもしかすると、中原中也の詩の中の世界ではなかろうか?5/4

暫く前から英国オックスフォード大学に留学していたA君だったが、試験の時にカンニングしたのがばれて、退学処分を受けたのだが、それが本国に伝わらないよう、なんとか内緒にしてくれと頼んで、ようやっと認められたようだ。5/5

朝会社に行くため、かみさんと並んでバスで座っていたら、元パリコレモデルの長身の女が2人の間に割りこんできたので、仕方なく席を立って座らせてやったのだが、朝飯を喰っていなかったので、バス停の前にある一膳飯屋に入って朝定食を頼んだら肉じゃがだったので、それを喰い終わったが、飯もみそ汁も出てこないので、文句を言うたりしている間に、バスは出ていったずら。5/6

「ほなら、これはどうですか?」と言いながら、フルカワが持ち出した不動産は、たった5万円の日比谷公園位の広さの象の親子付きの庭付き10LDK平屋住宅だったが、あいにくケニアの物件だったので、涙を呑んで見送ったのよ。5/7

「諸君、テッテ的に語り合おうじゃないか!」と松田世紀夫クンが言うたが、またか、という顔をしただけで、誰も返事をしなかった。5//8

「月見町で恒例の詩吟会をやるから、一度顔を出しなさい」と言われたのだが、断った。それは第1に、おらっちは詩人ではなく、ただの人だから。第2に、そのテーマが「見渡す限りの春の夜」という奇妙な題名だったからだ。5/9

散歩していたら、俄か雨が降ってきたので、雨宿りしようと思って、急いで分厚い本の中に飛び込んだら、やたら余白が多くて文字数が少ない詩集だったので、だいぶ雨に濡れてしまったのよ。5/10

もののはずみで、人を殺めてしまったおらっちだったが、なんとか無罪放免してもらおうと、家族は町内の人々に嘆願の奉加帳を回覧したそうだが、なんとなんと末の妹が署名していないことが判明したので、おらっちは衝撃を受けた。5/11

パターソンの町をぶらついていたおらっちだったが、「そうだ、今宵のライブに出演する会場の下見をしておこう」と向かったがまだ準備ができていなかったので、さらにあちこちほっつき歩いているうちに小便をしたくなったが、トイレが無いのでさらにさ迷っているうちに迷子になってしまった。5/12

ひともうらやむほどの功なり名を遂げたセイさんが、糟糠の細君と莫大な資産を弊履のように投げ捨てて、無名の乙女と山谷の木賃宿に潜入したとの報に接した時、余は、干天の慈雨を浴びた如き一服の清涼感を覚えたのであった。5/13

「夕方になったら帰ってきてね」と彼女は言うたのだが、いくら街で暇つぶしをしてもカンカン照りで夕暮れにならないので、仕方なくおらっちが家に戻ると、1羽の鶴が機を織っていた。5/14

2022年5月15日、一介のリーマンのおらっちは、往来で1匹のウスバカゲロウを呑みこんでしまったのよ。5/15

おらっちは高嶺の花の彼女を攻略するために、彼女の親友のスタイリストのイヌバシリ嬢を籠絡して、彼女の愛犬のブルドッグが♀なので、それとつがわせる♂を持ちこんで、お見合いさせる機会に、彼女とお近づきになろうと計画したのよ。5/16

おらっち超満員のバスに飛び乗ったんだが、外に押し出されてしまい、かろうじて手すりに捉まったままバスに引きずられるようにして、次のバス停まで走っていったのだが、死ぬかと思ったずら。5/16

本日は午前中に2本の発表を聞かされるのだが、それが嫌で日本橋方面をぶらついているうちに昼になったのでウナギのまむしを喰うたら少し元気になった。午後からはおらっちの発表だから急いで戻ると、おまんた学会は案の定大騒ぎになっていた。5/17

明治時代に来日した御雇外国人の建築家のなかでも、その男はユニークで、建造物の周りを、白い鳥で装飾するという、不思議な白鳥様式を、得意にしていた。5/18

この国に留学生としてやって来て、この牧師館の厄介になっていたおらっちだが、もうひとりの同胞が時々台所から食料を盗んでいることを知って、激しく憎んだ。5/19

「東京大阪名古屋福岡のマンションを比べると、名古屋のそれがいちばん隣の部屋との壁が薄い」という人物がいたが、おらっちは生まれてこのかた、マンションなんかに住んだこともないので、嘘かほんとかてんで分からんずら。5/20

奈翁の末裔だというので、いくたびも彼の容貌やら身体的特徴を精査してみたのだが、結局、その片鱗さえも確認することが出来なかったずら。5/21

その草っぱらで野球をやる時にどうするかと言うと、おもむろに地下からベースが浮上してきて塁を構成し、試合が終わると、元のように沈んでいくのだった。5/22

リーマン時代の会社の仲間から誘われて、場末の居酒屋にやってきたおらっちだったが、大嫌いな煙草の煙がモウモウと漂う汚らわしさに辟易して、すたこらさっさと逃げ出したのよ。5/23

ふと眼を上げるとそこにはヒラツカ氏がいて、「君に初めて会ったのは、確か2008年の4月だったな」と言うたので、ああそうだったのか、でも良く覚えている人だな、とその時思ったのだった。5/24

私の部下たちは、私が指導者としては無能で失格であることを知っていたので、毎朝会社の始業時間の前に運動場を全力で走って気合いを入れていることを知って、もうしわけない思いでいっぱいだった。5/25

米中露朝などの先制攻撃ロボ開発競争にあって、今年の世界ロボット大会の話題をさらったのは、専守防衛機能に特化された我が国の最新型のヒューマンロボコップだった。5/26

久し振りに夜の繁華街に出たら、ホテルでなんたら記念の祝賀会をやっていたので、なんなく紛れ込んで、たらふく飲んだり、ごちそうを頂戴したりしてしまった。5/27

突如ロシアとの戦争が始まったので、環境問題NPOから指名された私は、戦艦に乗って北方領土の自然環境についての、命知らずのリサーチをすることになった。5/28

悪魔島のまわりの海の中には、数多くの潮流が川のように流れているので、その水流の動向を熟知していないと、一人前の漁師にはなれなかった。5/29

あれほど清潔だった工場なのに、稼働して半年も経たないうちに、トイレから流れ出た小便やウンコが、フロア全体に垂れ流しになって、二目と見られぬ醜く臭い光景と化していた。5/30

生まれて初めて仲人を頼まれた私は、山の上ホテルに双方の家族を招いて、会食することにした。定時に全員が集まったので、私は立ち上がって、彼らを紹介しようとしたのだが、なんということか、いくら頭をひねっても、彼らの名前が出てこないので、弁慶のように立ち往生してしまった。5/31

 

 

 

日没閉門

 

佐々木 眞

 
 

青空の 美しさについて 空は 知らない
そこが 空の いいところ

フルムーンの 美しさについて 満月は 知らない
それが 月の いいところ

バラの 美しさについて 薔薇は 知らない
そこが 花の いいところ

ミドリシジミの 美しさについて 緑小灰蝶は 知らない
それが 蝶の いいところ

ところが 自分の 美しさについて 人は よく知っている
(じっさいには それほど 美しくは なくても)
それが 人間の厭らしいところ
(でも それが 人間の 人間らしいところ)

くびら大将 ばざら大将 えきら大将
あんちら大将 あにら大将 さんちら大将*
なんとか なるろう

いずれにしても 人間 多少 厭らしくても
ヘレネーも クレオパトラも 楊貴妃も 小野小町も 生きていく
「鏡よ 鏡 世界でいちばんは 誰?」
と 毎朝 鏡に 尋ねながら

ランボーも チェ・ゲバラも 在原業平も 中原中也も 生きていく
「鏡よ 鏡 世界でいちばんは 誰?」
と 毎朝 剃刃に 尋ねながら

いんだら大将 はいら大将 まこら大将
しんだら大将 しょうとら大将 びがら大将*
なんとか なるろう

「世界でいちばんすんごいのはあなたです」と 鏡が 答えて くれなくても
それが どうした なんとか なるろう なんとか なるろう
みんな 図太く 生きていく
清く 正しく 生きていく

 

 「なんとかなるろう」その一言を胸に懐き道なき道を辿りゆくなり 蝶人

 
 

  *薬師如来の大願に応じて、煩悩多き我々を守ってくれる十二神将。

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その59

 

佐々木 眞

 
 

 

お母さんがいま死んだら、コウ君をどうしたらいいの?全部教えておいてもらわないと。
ケンちゃん、何も心配しなくてもいいの。コウ君は黙って受け入れて前に進んで行く人だから。

今後って、なに?
これから、よ。

ぼく、コマキさん、好きになりましたよ。
そう、よかったね。

お母さん、ぼくキシモト先生にサヨナラすればいいですお。
そうなの?

おばさん、「キャンディ、キャンディ」見た?
まだ見たことないから、今から見るよ。

おじさん、注意してないと。
そう注意してないとね。

コウちゃん、痛いですか?
痛くないですお。

お父さん、ビデオ終わりましたよ。
分かりました。
ぼく、言いましたよ。

ぼく、ケンけんちゃんにブドウ持って行きますお。
そうか。よろしくね!

お母さん、常識って、なに?
当たり前のことよ。

ヤベエ。
なに?
ヤベエ。

お父さん、草刈の英語は?
うーん、草刈ねえ。調べとくよ。
草刈、草刈。

せっかく、は?
いいチャンスだから、かな。

にんまり、なに?
ニタアと、わらうことよ。

疑うって、なに?
そうかなあ、って思うことよ。

お父さん、今日ヒガさんの最終回のビデオ撮ってね。
分かりました。
DVDにしてね。
分かりましたあ。
お母さん、お父さんに言ったよ。
良かったね。

なんでイトウさん、雪ノ下へ引っ越したの?
独りになったからよ。

お父さん、お母さんは?
当ててごらん。
おばあちゃんチ。
ピンポン!

大きいおばあちゃん、園部で生まれたの?
そうだよ。
ソノベ、ソノべ、ソノベ。

転院て、なに?
病院を変わることよ。

半、30分のことでしょう?
そうだね。

僕、緒方拳好きだお。
お父さんも。
お母さん、緒方拳が好きだな。

さいたま新都心って、新しい駅ですお。知ってた?
知ってたよ。

お父さん、おばあちゃん、まえ寝られなかったんですお。
そうだったんだあ。

お詫びって、なに?
ごめんなさい、よ。

本日限りって、なに?
今日だけ、よ。

大家さんて、なに?
借りたい人に、おうちを貸してあげるひとよ。

新横浜、新しい横浜でしょ?
そうだね。

ぼく、クロサカ先生とカケガワ先生、両方好きだお。
お父さんも。

日暮里・シャジンライナー好きですお。
シャジン、シャジン? コウ君それは舎人と読むんだよ。
トネリライナー、トネリライナー。

お父さん、「頭使え」と怒られたんですよ。
誰に?
ヤマダ先生に。
そうか、お父さんがそのヤマダをやっつけてやる!

お母さんは?
いま外でお掃除。お父さんじゃ駄目なの?
駄目ですお。
じゃあちょっと待ってね。電話切るなよ。
分かりましたあ。

大きいおばあちゃん、園部で生まれたの?
そうだよ。
ソノベ、ソノべ、ソノベ。

お父さん、リコちゃんのビデオ観たいですお。
よーし、いまセットするね。

ぼく、緒方拳と竹中直人好きですお。
お父さんも。
お母さんは、緒方拳が好き。

ぼく、トシヒコ君だお。
こんにちは、トシヒコ君。

十二所神社、オクラあったよ。
いつ?
昔。
どこに?
畑に。

コウ君、お父さんと一緒にゆっくり死んでいこうね。
分かりましたあ。

お父さん、腰痛かったら?
コウ君、腰痛いの?
痛くないお。腰痛かったらサロンパスですお。
そうだね。

お母さん、ヒコクニンって、なに?
悪いことをしたかも、っていう人よ。
ヒコクニン、ヒコクニン、ヒコクニン

お父さん、お母さん、どこ?
おばあちゃんチだよ。

お父さん。
なに?
大好きですよ。
コウ君、なにか悪いことした?
しませんお。

お葬式、拍手しちゃだめ?
駄目だよ
お葬式、静かにしようね。
そうだね。

お母さん、なんでリコちゃん泣いたの?
きっと悲しかったからよ。

ぼく、コンピューターおばちゃん、好きだお。
そうなんだ。

お母さん、証明は、はっきりさせる、でしょ?
そうね。

お父さん、注意したお。
注意しないよ。いっただけだよ。

社会構造って、なに?
え? そうねえ、まあ、世の中の仕組みのことだよ。

お母さん、「気持ちが悪くなったら教えてね」って、言ってくれたよ。
誰が?
ナカムラさんが。
良かったね。

お父さん、戦争の英語は?
ウオーだよ。
ウオー、ウオー、ウオー

コウ君、今日の午後の予定は?
お昼寝しますお。
そうですか。

お父さん、ビデオ録ってください。
分かりましたあ。
お父さん、そう言ってるよ。
良かったね。

お母さん、大町通ってくださいね。
大町、こないだ大火事になったから驚かないでね。
分かりましたあ。

お父さん、地震の英語は?
アースクエイク。
お父さん、地震の英語は?
アースクエイクだよ。

私はゴエモンです。
こんにちはゴエモンさん。

お父さん、アホ笑いしたらイシハラサトミは?
「コウさん、アホ笑いはやめちいよ」っていうよ。
ぼく、アホ笑いしませんお。
しないでね。

コウ君、レンブツさんとリコちゃんと、どっちが好き?
両方好きですお。

おばあちゃん、泣いた?
泣いたよ。
おじいちゃんが亡くなったから?
そうだよ。

花ざかりって、なに?
お花がいっぱい咲いてることよ。

「来たまえ」って、なに?
「来なさいよ」、のことよ。

到着までしばらくお待ちください、って、なあに?
到着までちょっと待ってくださいね、よ。

神様ってなに?
遠いところから、みんなのことを守ってくれる人よ。

お父さん、蓮佛さん、今晩録画してね?
分かったよ、コウ君。
そう言っってくれたよ、お母さん。
良かったね。

ぼく、バクダン嫌ですお。
お母さんもよ。

感じる、思うことでしょ?
そうだね。

ぼく、ヒトミさんですお。
こんにちは、ヒトミさん。

コウ君、ここにあったお菓子、どうしたの?
食べましたよ。
へええ、あんなにあったのに。
全部食べましたよーだ。
あらまっちゃん。

お母さん、ジャンパー変えたいですお。
そうなの。
これにしたいですお。
分かった。すごく暖かいと思うわ。
変えたいですお。

お父さん、「消えた初恋」、DVDにしてください。
分かりましたあ。

冷蔵庫、どこで買うの?
東急のノジマよ。
冷蔵庫、いつ来るの?
火曜日よ。

やりたい放題って、なに?
好きなことばっかりしてることよ。

お母さん、マシって、なに?
その方がいいよ、ってことよ。
マシ、マシ、マシ。

お母さん、笑って。
お母さん、笑ってますよ。

お母さん、いまどこ?
お父さんと病院よ。

コウ君、洗濯物もう取り入れたの? 乾いたの?
乾きましたお。
そう?

ぼく、お正月好きですお。
そう。

 

 

 

レッツ・エンジョイ・輪廻転生!

 

佐々木 眞

 
 

お久しぶり、おらっちコロンボ。

 

うちのカミさんとテレビを見ていたら、ニッポン国の首相と並んで若いモデルが立っていたので、誰だろうと画面を見直したら、ぬァんとまあ、2022年5月11日の今日、来日したばかりの、フィンランドの美貌の首相、花も恥じらう37歳のサンナ・マリンさんではないですか。

 

容姿端麗が歩いている! 才色兼備がほほ笑んでいる!

 

ロシアのウクライナ侵攻を目の当たりにして、従来の中立政策を放棄し、NATO加盟を即決した、決断と実行の政治家として、世界的に注目されているようだが、んなこたァ、どうでもよろし。

 

容姿端麗が歩いている! 才色兼備がほほ笑んでいる!

 

テレビをつければ戦争、自殺、沈没、行方不明と陰惨な悲劇ばかりだが、そんな中でも時々マリンさんのような目の覚めるような容姿端麗、才色兼備が登場して、文字通り瞼が垂れ下がり、棺桶に両足を突っ込みかけた老人の、目覚まし草になってくれる。

 

容姿端麗が歩いている! 才色兼備がほほ笑んでいる!

 

ニュージーランドの首相ジャシンダ・アーダーン、デンマーク首相メッテ・フレデリクセン、モルドバ大統領マイア・サンドゥ、

 

世界は、美人すぎる政治家で溢れている。

 

容姿端麗が歩いている! 才色兼備がほほ笑んでいる!

 

ニッポン国にも容姿端麗な美人政治家がいることはいて、例えば自民党の三原じゅん子参院議員なんかは、文字通りその最右翼だろうが、惜しいことには、おむつの中身が八紘一宇で満杯で、こればっかりはどうしようもない。(きっと金八先生の教育が間違っていたんだろう。)

 

容姿端麗が歩いている! 才色兼備がほほ笑んでいる!

 

「若いのに宰相兼備。世の中にはこういう政治家もいるのねえ。生まれ変わったら、こういう政治家もいいわねえ。ところで、あなたはどういう人に生まれ変わりたいの?」

と、カミさんが尋ねるので、こう答えてやった。

 

「おらっちは、もう人間様にはこりごりだ。すぐにお互いにいがみ合って喧嘩して、喧嘩だけならいいけど、それがあっという間に無辜の民草を巻き込む戦争沙汰になってしまう人間社会なんかに、もう生まれ変わりたくはない。次は、鳥ならホトトギス、蝶ならギフチョウ、魚ならメダカ、花ならスミレにしよう、と、こないだ交通事故で死にかけて以来、心に決めているんだ」

 

「あらまあ、あーた、人間は、死んだら人間に生まれ変わるのよ。蝶よ、花よ、は反則よ」

「反則なんか知るもんか。昔から父母未生以前の存在は、人間を含めて地獄、餓鬼、畜生、修羅、天上の六道を行ったり来たり輪廻転生していて、草木国土悉皆成仏、かの梅原猛選手が唱えたように、人間は花鳥風月から修羅、犬畜生まで、なんにでもなって、何千何万回となく生まれ変わるのさ。げんに我が家のコウ君なんか、お釈迦様がお座りになっていたハスの葉っぱの生まれ変わりじゃないか」

「コウ君はそうかもしれないけど、私はずーっといろんな人間に生まれ変わっていくのよ」

「へえ、そうかい。おらっちは、随分長い間生き続けていて、もはや見るべきほどのものは見たずら。人間なんかもうたくさんだ。とりあえず次の世では、かの藤原定家が、夜も寝ないでその一声を待ち望んでいた、ホトトギスの♂なんかになりたいな」

「じゃあ私♀とは、もうすぐ永遠のお別れという訳ね」

「いや、永訣ではない。長い目で見れば一瞬の、ほんの束の間の別れだ。しばらくはお別れして、別々の人世、いや別々のライフ・ステージを、楽しもうではないか! 永久に不死身の輪廻転生を、テッテ的にエンジョイしようではないか!!」

「変なの」

「変でも構わない。それが人世さ。いや、もとい、僕たち、生きとし生けるものの、永遠の相なのさ」

「そうなの?」

「そうさ、レッツ・エンジョイ・輪廻転生!」

(2人声を合わせて)「レッツ・エンジョイ・輪廻転生!!」

 

 

 

木村屋總本店特製ドラ焼き

 

佐々木 眞

 
 

こないだおらっちが、セイユーで買ってきた大好物のドラ焼きを食べようと、冷蔵庫を開いたら、影も形も無かった。

きっと、コウ君に、食べられてしまったんだろう。

ドラ焼きは、木村屋總本店の特製で、「蜂蜜入りのしっとり生地」が特徴だ。
税抜き価格68円と安価で、「つぶあん」と「さつまいもあん」の2種類があるが、おらっちは、どちらかといえば、シンプルな前者を好む。

しばらくして、冷蔵庫を開けた妻のミエコさんが、「きゃああ、私が大事に取っておいたチョコレートがない!」と叫んでいる。

これもきっと、コウ君に、食べられてしまったんだろう。

コウ君ときたら、まるで欠食児童、みたいだ。

施設のご飯の分量が少ないうえに、食後におやつもデザートも出ないから、金曜日の午後に帰宅したコウ君は、“100年前から飢え続けの狼”のように、なんでもかんでも、がつがつ食い荒すんだ。

いいよ、コウ君。なんでも食べな。
お前さんの好きなものを、いくらでも食べな。

まもなく私たちが居なくなって、ホームが家の代わりになったら、ドラ焼きも、チョコレートも、あんパンも、アイスクリームも、自分勝手に食べるわけにはいかなくなるだろう。

だから、いまのうちに食べておきな。
ドラ焼きも、チョコレートも、あんパンも、アイスクリームも、
なんでも、かんでも、君が好きなだけ、食べていいよ。

いまのうちに、どんどん、じゃんじゃん、一生分を食べておくんだよ。

 

 

 

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第97回

 

佐々木 眞

 
 

 
 

西暦2021年師走蝶人酔生夢死幾百夜

 

名物カメラマンの写真の撮り方は、まず顔から始まって、次にボディ、次に全身、最後にまた顔のアップに戻る、というものだった。12/1

展覧会その1では1000円の入場料を取り、その2では無料どころか茶菓までサービスしていたので、10年も経つと両者の経営には大きな格差が生じたようだった。12/2

おらっちはひそかにA子を贔屓にしているのだが、それを他人には知られず、当の本人だけに分かるように伝えるにはどうすればよいか、あれこれ迷っていた。12/4

おらっちは源氏の末裔なので、もしも敵に襲われて捕虜になっても恥ずかしくないような由緒ある衣装を身に纏っていなければならないと思うのだが、それがどういう格好なのかさっぱり分からないのよ。12/6

「酒を飲めないこの子たちは、アッパークラスのバーで修行させたらええ酒飲みになると思うがな」と、さる酔っ払いがいうたずら。12/7

死にかけの痩身の老人の分際で、まだ名前もついていない難病中の難病を、3つも抱えこんでしまったもんだから、湘南鎌倉病院に行っても医者が喜ぶばかりで、いっこうに治してくれないので、雨の水曜日を自宅で静養することに決めた。12/8

私は、東西南北を行き来しながら、すべての営為の虚しさを、嫌というほど思い知らされていた。12/9

バーンスタインの私は、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の劇伴だけをつとめて、ニールセンの交響曲なんかは、三流指揮者の棒に任せて帰宅した。12/10

整形外科の先生が「その後どうですか?」と聞くので、「相変わらず痛いです」と答えると、「じゃあ注射でもしてみますか」と言うので、「痛いのは嫌ですよ」と言うと、「ちょっとピリッとするだけですよ」と言うので、「ではお願いします」と言うて、注射してもらったら、やっぱり痛いのだった。12/11

その夫婦の生甲斐といえば、毎月1度だけ、それなりのレストランで、ランチを楽しむこと、だけだった。12/12

敵は、額に黒いサングラスをかけているので、それが、太陽光線で光る瞬間に射撃すれば、射斃せることが、分かった。12/13

今月のおすすめふぁつちょんは、レディスの白に対して、メンズはグレイだったが、その理由については、カラリストのイチカワさんにしか分からなかった。12/14

おらっちは、さっきまで、楽しく酔いしれていた、壮大な夢の尻尾が、大魚の尻尾のように、ゆらゆら、消え去っていくのを、呆然と眺めていた。12/15

その有名な素材講座では、2人の講師がかわるがわる教壇に立つのだが、今回の講師をよく見ると、あまりにも昔の恋人に似ていたので、ちと驚いた。12/16

長い間コロナや交通事故のせいで外出を避けてきたのだが、気がつけばぶらりと電車に乗って京都みたいな町にやって来て、あちこちをほっつき歩いているのだが、誰一人いない。12/17

最後に登場したのは不思議な荷物で、こいつに呪文を唱えると、たちまち容量3倍の大きさの3Dメデイアに膨れ上がり、わいらあ4人組は、その巨大な段ボールに、なんもかんも詰め込んで、上京したのよ。12/18

この白いアフリカの地で、褐色の少年たちにとり囲まれたおらっちだったが、ナイフを握った彼らの右手を掴み、次々に左手のナイフで彼奴らの腋の下を刺していったので、おらっちの周りは、死体がゴロゴロだった。12/19

下半身に茶色い液体が入った、無数の小さいビニール袋がぶら下がっていて、おらっちは、そいつを、2時間おきトイレに捨てに行かねばならんかったのよ。12/20

東京発の最終の新幹線こだまの窓枠にぶら下がって、食堂車にいる知り合いと談笑していたら、いつのまにか発車してしまっった。「さあ大変、どうしよう?」と思うのだが、こうしていても振り落とされはしないので、このままで続けることにしたのら。12/21

3匹の仔豚が行方不明になったので、FM横浜のアオキアナウンサーが心配して、何度も何度も放送で呼び掛けているが、まだ見つからないようだ。12/22

「おめえ、たまにはジョークの一つも言うてみろよ」、と強要されたので、必死に考えた末に「殿下の電話」と言うたのだが、誰も笑ってくれなかったずら。12/23

真夜中に誰かが家族で寝ている4畳半に忍び込んできて、幼い息子をさらっていこうとするので、必死に阻止しているおらっちなのであったあ。12/24

その病院では最強コロナで殆どの患者が死亡してしまい、金子院長は、唯一生存しているリヨ子に望みを託していたのだが、リヨ子は「わたし、一人は堪えられませんので」と言うて、勝手に退院してしもうたずら。12/25

これは昇進を続ける2人のエリート・ゴルファーの内緒の話だが、乳首島の5万羽の貴重種が、いつのまにやら全滅していたそうだ。12/26

腱板損傷で「痛い、痛い」と喚いていたら、「おらっち理学部の学生ずら」と自称する若者が、アルツ25mgを注射して痛みを鎮めてくれたのよ。12/27

今まで通っていた2つの病院に信を置けなくなったので、おらっちは急遽第3の病院を捜し始めたが、選ぶ基準が揺らいできたので、大層難しい作業になってきた。12/28

超多忙で超売れっ子のバリトン歌手のおらっちは、モザールのオペラのアリアなんか全部頭に入っているので、全然練習なんかしないで本番に臨んだのだが、いざ伴奏が始まると、どこから入っていいのか分からず、赤っ恥をかいてしまった。12/29

あの有名なタナカ一家が、展覧会の会場にやってきたので、主催者である息子は、少しばかり緊張しているようだった。12/30

 
 

西暦2022年睦月蝶人酔生夢死幾百夜

 

おらっちはパーティで与太話をしていた貴族から、その街を発展させる計画についての感想と協力を求められたので、すぐさま断ったのだが、それは、そんな難しいことなんか、自分で出来っこないと分かっていたからだった。1/1

私は大阪城を大掃除していたおばはんの実態が、掃除婦ではなく、腕利きの印刷屋であると知ったので、新しい1万円札が出回る前に、偽札作りに協力してほいいと頼んだが、あっさり断られてしまったのよ。1/2

歯が痛い、歯が痛いと七転八倒する息子を見ていると、可哀想になって来て、そうだ日々を無為に過ごしている父親の自分が替わってやろう、と思いついたのだが、どうすれば入れ替わることが出来るのか分からなくて、往生している。1/3

正月になっても、朝から晩まで町内をほっつきまわっている夫婦がいるので、「どうしたの?」と訊ねると「暮れからうちの愛猫が行方不明なので、正月どころではないんです」と答えてから、またあちこち探し続けるのだった。1/4

犬派と猫派のふた手に別れて新春大討論会が開かれたのだが、両者相譲らず、まるで革マルと中核派のように武装して、時ならぬ大ゲバルト大会が始まった。1/5

「雨が降っても、雪が降っても、槍が降っても、おらっちは断固として前進するぞ!」と息巻いていたら、本当に雨と雪と槍が降ってきたので、ちと驚いている。1/6

若輩ながら販売チーフに抜擢されたおらっちは、年長の先輩たちに天文学的な売り上げノルマを課したので、たちまち総スカンを喰らい、その会社から追放されちまった。1/7

ここは陸軍の散髪屋なのだが、軍隊刈りのショートカットにあこがれる大勢の市民が、門前市をなして詰めかけている。1/8

明日からダム工事が始まって、村は湖底に沈められてしまうので、おらっちたちは、三々五々涙をぬぐって、住み慣れた襤褸家を後にした。1/9

生来おっちょこちょいのおらっちは、よせばいいのに両組の出入りの最先端に飛び出したので、あっというまに全身をなますのように切り刻まれて、儚いいのちを散らせてしまった。1/10

「「フィガロの結婚」を聴く前に、お互いの言い分を言いあって手打ちにしようぜ」と、敵の親分が提案したのだが、その時遅く、かの時早く、オペラの序曲が始まってしまった。1/11

その戦士は、女子供には傷一つつけないで、敵の男どもを皆殺しにしていくのだった。1/12

横浜市では毎年スポーツ大会を開いているので、それをそのまま毎年五輪に昇格することにしたそうだ。1/13

リュウホウ部長が、「企画のヒサミツ課長と相談して、新ブランドのPR案を考えてくれ」というので、おらっちは急遽、中目黒に出向いたのよ。1/14

木造の古いモナコホテルには、無数の貧民たちが住んでいるのだが、ここに30年以上住み続けると、その部屋を無料で払い下げてくれるので、とても人気があった。1/15

われひとは、何故か人世に失敗したのではないか、という疑いにとらわれて、城門の傍らで長く立ちずさんでいた。1/16

街中を歩いていたら「相撲取りになりませんか?」と勧誘されたのだが、人から勧誘されたのは生まれて初めてなので、「相撲取りになってみようか? どうしよう?」と、ずっと悩んでいるのよ。1/17

ゲーム カナリチ エニンシア カーターなどになって叩く僕。1/18

ボク、紅衛兵用の新品マスクを付けて「気をつけー!」で 「エライ、エライ」と、誉めてもらった。1/19

おらっちは新入社員なので、先輩たちに「おはようございます」と挨拶すると、「おい、そういう月並みの挨拶をしていると、すぐに社長から首にされるぞ」と警告された。1/20

八幡様の二ノ鳥居の傍で休んでいると、左側に自転車に跨ったセイさん、右側には仲間と連れだって歩いているセイさんがやってきたので、おらっちはどっちに声を掛けようかとしばらく考え込んでいた。1/21

そのマラソンレースは、ちと風変わりで、走者は、1キロ走る毎にシェークスピアの芝居のせりふ、例えば「生きるべきか、死ぬべきか」を喋らなければならないのだった。1/22

毎年大学を留年ばかりしているので、今年こそは卒業するぞ、と心に誓って久しぶりに登校したが、自分に必要な単位と講座がさっぱり分からないので、ただただキャンパスの中をうろうろしているのよ。1/23

新しいCMの製作を依頼されて、まずその企画内容の予告編を作らなければならないのだが、じつはおらっちビデオの撮影はやれても編集作業なんてやったこともないので、ひどく消耗しているとこ。1/24

どういう風の吹き回しか、おらっちはリーマンになっている。総務から机と椅子や文房具一式が届けられたので、とりあえず座ってあたりを見回してみると、なんだか嬉しくてたまらぬ。こんなに仕事がしたくなったのは、じつに生まれて初めてのことである。1/25

しかしここはどういう組織で、どういう仕事をすればいいのだろう。そもそもこの会社の名前はなにで、どういう職種に属するのだろう?誰かに聞いてみようと思うのだが、みな忙しそうに立ち働いているので聞けない。そうこうするうちにお昼になったので、弁当を使ってお茶を飲んだ。1/26

眠くなったので昼寝をしようかと思ったのだが、ふと午後いちで試写会があったことを思い出し、急いで会社を出てから地下鉄に乗って銀座で降りて試写会場に入ったら、顔馴染みのキサラギさんがいたので、ちょっと会釈して安楽椅子に座って映画鑑賞しているうちに眠ってしまった。1/27

しまった、これは申し訳ないことをしてしまった。試写会で見る映画は9割がたは詰まらない映画なのだが、今日のはそれほど酷い映画ではないので、ちゃんと終わりまでみようと思っていたのに、寝てしまった。これで感想文を頼まれても書けない。困った、困った。1/28

どうしたものかと考えてみたら、さいわいまだ試写は数回あるので、また来ればいいやと思いついて外に出たら、もう誰もいない。みんな3時半からの試写に行ってしまったのだ。おらっちも負けてなるものか、と銀座の別会場の試写会に駆けつけて、今度は居眠りしないで最後までしっかり見届けた。1/29

終って外に出たらもう5時半だ。これで会社に戻っても仕方がない。6時からはクロコダイルでロック、渋公でパンク、武道館では松田聖子のコンサートがあるので、急がなくっ茶。明日から午前中に会社の仕事をして、午後からは映画とお音楽にしようと決めた。1/30

ふぁっちょんライターのおらっちが久しぶりに巴里に行ったら、今年の秋冬のトレンドガ「ステルス・ろまんちっく」から「極超レアル」に180度大転換している、という話だったので、こないだアンアンに書いたお洒落速報を書き直そうと連絡したのだが、もうデリバリー済だった。1/31

 
 

西暦2022年如月蝶人酔生夢死幾百夜

 

三連沼に棲むオオウナギが、村人たちを襲ったので、おらっちは、長靴で沼の中に入っていって、オオウナギの大きな顔を、ズタズタに引き裂いたので、彼奴は、村役場のビルのエスカレーターに乗って、逃亡したようだ。2/1

オルハインと少年は、昨夜から一緒に過ごしていたんだが、面倒くさいので、昼間も一緒に過ごすことになってしまった。2/2

久し振りに銀座電通主催の新年会に出たのだが、相変わらず専務のフルカワちゃんが三色ホースを持ち出して、「鼠退治だあ!」と喚きながら、3色の汚水を撒き散らすので、フロアはたちまち水浸しになってしまった。2/2

昔むかし、田舎の森の中の巨大な岩壁の下に、広大な空間が発見されたが、そこは、とても音響効果が優れていることが、分かった。2/3

そして今、そこは町内で唯一、というか全国随一のコンサートホールとして生まれ変わり、第一発見者であるおらっちは、そのホールの支配人に選ばれたので、ブレンデルとマリナー指揮アカデミ―室内管を呼んで、モザールの協奏曲全集を再録音したのよ。2/4

コンミューン最後の日に、同志たちが一人また一人と墓地で処刑される姿を悲涙を呑みつつ胸に畳んでから、半年間寝床を共にした男女(♂♀)と別れ、深い森の中を一晩中歩き続けて露でぐっしょり濡れた体で村に入ると、村人たちが朝餉を準備する物音に交じってヤマガラの囀りが聞こえてきたので、なにやら生きる力が湧いてきたようだった。2/5

若い頃、戯れに天井からぶら下った巨大な三角形を燃やして、危うく、大火事にしてしまうところだったずら。2/6

どこかで鳴くアブラゼミの声が響き渡る両国駅。そこからは、遠く白い三角形をした富士山の山頂が望まれたが、おらっちは、その長い長いプラットフォームの反対側のその先を、どんどんどんどん進んで行った。2/7

おらっちはなぜだかお大尽だったので、立派な神輿のような乗り物にのせられ、4人の苦力に担がれて急な坂を登り、カブトムシやクワガタが群がっている栗林を過ぎて、高い高い山の中に入っていく。

おらっちは病気なのか、それともどこかを怪我しているのか? 胸に手を当てて考えてみたがさっぱり分からない。山のてっぺんを過ぎた神輿は、今度は急なヒヨドリ坂をいっさんに下っていくようだ。

山の麓には小さな村があり、村の真ん中の道に沿って一軒の古本屋があり、物珍しいので神輿から降りて中に這入ってみると、中世の古文書と江戸時代の黄表紙ばかりが整然と並んでいるので、店主に挨拶もしないで飛び出すと、完全武装した数人の米軍の兵士がぶらぶら歩いていた。2/7

眼前に宇宙戦争が迫ってきた。宇宙人の地球攻撃には各家庭で対応して下さいと阿呆莫迦政府がいう。「地下に潜ったら」と町内会長がいうので、おらっちはトラクター借りてきて、地面に防空壕を掘り、一家でその中に閉じこもることにしたのよ。2/8

教会が作っているカボチャやキュウリやナス、トマトを提供することになり、牧師夫人が「どうご自由にお持ちください」というた時には、モジモジしていた貧民たちだったが、彼女が姿を消すや否や、我勝ちに獲物に殺到し、獰猛な男どもは、女子供が持つ野菜を無理矢理ひったくるのだった。2/9

おらっち、殺人公社の専属スナイパーなんやけど、「殺傷対象が反社会的存在なら、勝手に判断して殺してもよろしい」と上司がいうんやけど、「自由に殺してもええ」と言われれば言われるほど、引き金を引けんようになっていくんや。2/10

北欧某国のデザイナーⅩ氏は、デザイン後進国のこの国で、ふぁっちょんから車、文房具、ビルジングまで、デザインと名のつくもののすべてを、超高値で引きうけて、荒稼ぎして来たのだが、最近ようやくメッキと化けの皮が、剥がれてきたようだ。2/11

韓国の山奥の珍しい景色をビシバシ写真に撮っていると、突然画面の右から左に、長い葬列が延びてきた。きっと、どこかの貴人の葬式なのだろう。2/12

キタカマのケンチョウジの北側は低山なのだが、なぜだか池の向こうが砂浜になり、そこからいきなり海になっている。おらっちはその海を見渡す厳島神社もどきの「立って半畳み、寝て1畳」の陋屋に住んでいたのだが、いつのまにか男好きのする女が棲みついてしまった。2/13

よく見ればまだ若い女なので、さぞや夜には、性欲的オーラを寝屋に発散しているのだろうが、なんせこちとらは、生まれながらのインポテンツなので、彼女がおらっちに跨って挑発しても、隆起の兆しはなかったのだが、最近は「もしかすると」という感じになってきたかも。2/13

会社の新しい上司が、社長のドラ息子になったのだが、こいつが嫌な野郎で、もうイヤデイヤデ仕方がない。出来るだけ話をしないよう、顔も見ないようにしているのだがあ。2/14

椿姫が亡くなったので、おらっちは彼女の遺言どおり、広大な庭の真ん中に本の紅白の椿の木を植えたのだが、今ではそれが亭々と茂る大樹となって、大空に聳え立っている。2/15

イシガキ医師は余の主治医であり、なおかつガンで余命半年の宣告を自らに下しながらも、10時間に及んだ余の右肩ガン手術を成功させ、予言どおり半年後に命終された。216

映画のラストで、主人公を海底深く沈めてしまうか否かについて激しく迷った監督のおらっちだったが、ここで美貌のヒロインを殺してしまえば、本作の印象は強化されても、続編の依頼が来なくなってしまうことを懼れて、やっぱ生かすことにしちゃったのよ。2/17

おらっちはケータイで、その都度「しんたんソフト」を駆使して、要所要所を微分積分したが、しばらくすると、その後にはなんにも残っていなかった。2/18

ここは大英博物館の地下だと思うのだが、なんとだだっ広い墓場に似たうすら寒い空間なんだろう。おらっちの仕事は、ここをなんとか無理やりにでも「活性化」させることなんだけど、ちょっと難しいなあ。2/19

わいらあワイラー監督の戦争映画を手伝っているのだが、彼は連合軍内部の因果応報を描くシーンを、みなカットしてしまったので、ついつい疑惑の暗雲が湧いてきたのよ。2/20

夜中にずきずき頭が痛むのだが、これが一体夢の中の頭痛なのか、それとも実際の頭痛なのかが分からず、朝になれば分かるだろう、と思っていたのだが、起きてみると頭痛はなかったずら。2/21

由緒ある大寺の床下で古布団にくるまって寝ていたら、真夜中に住職がやって来て「何か困っていることがあるのか?」と聞くので、「最近前向きに生きられないのです」と答えると、「そういう時には家ごと歩けばいいのじゃ」という。気がつけばおらっちは、大寺の地面毎前進していた。2/22

おらっちは新聞社に入って、あこがれの記者になったのだが、上司がいう公正公平な記事というやつが、何年経っても書けないので、擱筆、退職して郷里に帰ったのよ。2/23

最難関の洋裁学校を首席で卒業するために、私は毎朝早起きして、イの一番にミシンを磨き、イの一番に仕立てに必要な着分の生地を、全生徒の机の上に並べたのだった。2/24

「でもあんた、怪我はしたけど、死ななくてほんとに良かった。持って生まれた強運の星のお陰よ。ノーブルなサラブレッドはいつまでも走り続けるのよ」、とか言われると、おらっちも、だんだんその気になってくるのだった。2/24

あったかい宮殿でふんぞり返って「キエフを目指せ!ゼレンスキーの首を獲れ!」、などど矢継ぎ早に命令を下されたロシア軍兵士たちは、極寒の地で阿呆らしくなり、全員が戦車や戦闘機から降りて、投降したのよ。2/24

コロナ患者対応で、きりきり舞い。疲労困憊して、、金欠病の町医者たちに、おらっちが、金の延棒を呉れてやると、彼らは、たちまち、らんらんと目を輝かせ、勇気百倍、燃える闘魂、元気溌剌、になるのだった。2/25

そこであたいがしゃしゃり出て、「さあさ修学旅行帰りの皆さん、長旅でさぞやお疲れでしょう。でもこの我が家の特製麦茶を一口飲めば、ああら不思議、疲れなんてどっかに吹き飛んでしまう。さあ、1口いかが?」と2/26

知恩院前のバスに向かって呼びかけると、超ミニスカートの女生徒が、「あたしの目尻の皺を見て、まるで郷里のお母さんだと思って、一斉に駆け寄って来て、原価ほとんど無料の番茶が、バンバン売れちゃうの」と、商売の秘訣を語ってくれたずら。2/27

とうとう戦争になった。時代物の旧型長谷川戦車を駆使したおらっちは、3台の敵戦車を破壊したけれど、あっと言う間に殲滅されちゃったずら。2/28

 

 

 

最後から2番目の思想

 

佐々木 眞

 
 

プーチンの不条理な命令で、ウクライナに侵攻し、軍民はもちろん、民草まで根こそぎ殺戮する、無慈悲な戦争犯罪の映像を見せつけられながら、考える。

もしおらっちが、第3国の日本人ではなく、ウクライナ人のまだ若い成人男子なら、どうするだろうか?

もとより、ロシアがすべて悪で、ウクライナがすべて善、という訳ではないが、今回のこのケースでは、非がプーチン率いるロシア軍にあることは、自明の理だ。

おらっちは、戦争に大反対だし、こよなく平和を愛する者だが、今回の侵略戦争に限って言うなら、それを是として、黙って見ているわけにはいかないだろう。
これはあえていうなら“正義の自衛戦争”だ。

では、軍隊に入り、武器を取って戦うか?
 
もし戦えば、おらっちは、敵の兵士を殺めたり、傷つけたりするかも知れないし、自分が殺されたり、傷ついたりするかも知れない。

どっちも嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。

しかし、もしも武器を取って戦わなければ、おらっちは、まわりから卑怯者と罵られ、徴兵を拒否した罪で、牢屋に入れられるだろう。

どっちも嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。

それでは、敵の兵士を殺めたり、傷つけたり、自分が殺されたり、傷ついたりするのと、まわりから卑怯者と罵られ、徴兵を拒否した罪で、牢屋に入れられるのとでは、どっちの方がより嫌か?

嫌だ、嫌だ、どっちも嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。

すると、どこかで、誰かの声がした。

「お前さんは、愛する家族を、敵から守ろうとは、これっぽっちも思わないのかね? 攻め込んできた敵が、お前さんの愛する家族を、傷つけたり、殺しても平気なのかい?」

するとそのとき、おらっちは、自分の奥底に、またしても「嫌だ、嫌だ。嫌だ」、とは、どうしても言えない、もう一人の自分がいることを、初めて知ったのだった。

もしおらっちが、武器を取って敵と戦ったとしても、敵が愛する家族を傷つけたり、殺したりするかも知れないけれど、それでもなお、ここはやっぱりあえて戦場へ赴いて、なんとまあ!おらっちとしたことが、「一人でも多くの敵を倒さなければなるまい」と、思ったのだった。

―Q.E.D証明終り。

かねてから、あらゆる戦争を悪と断じ、たとえ武装した無法者の敵が侵略してきたとしても、抵抗せずにいさぎよく降伏し、最悪は、捨身飼虎の薩埵太子や聖徳太子の子の山背大兄王のように、家族もろとも皆殺しにされても構わない、と密かに考えていた筋金入りの“非武装絶対平和主義者”が、いともたやすく“積極果敢な殺戮主義者”に転向した瞬間なのだった。

しゃあけんど、頭の中ではすでに解決済みの問題だったはずなのに、身体の方では、まだそれをいさぎよく受け入れることが出来ず、相も変わらず胸の奥の方で、ぶつぶつぶつぶつ言うておる、そんなおらっちなのだった。

どっちも嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。
どっちも嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。
どっちも嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 

 

*魔訶羅陀王の第3王子、薩埵太子は、飢えた虎の親子のために自らの肉体を「布施」したという伝説があり、聖徳太子の子、山背大兄王とその一族は、643年11月1日に蘇我入鹿に襲われ、「わが身一つを入鹿に賜う」の言葉を遺し、滅亡したと伝わる。

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その58

 

佐々木 眞

 
 

 

コウ君、今日アオイケさんが来るってよ。
いいですお。

お父さん、今日ヒガさん、録画してくださいね。
分かりましたあ。

お父さんに「ベランダの洗濯ものからにしろ」って、注意されたお。
あれは注意じゃない。ただ言っただけだよ。
注意されたお。

コウ君、PCR検査で陰性だったってよ。良かったね。
良かったですお。

カサタニ先生、コントラバス弾いたお。
そうだったね。

ノブユキさん、病院のお医者さんだったよね。
そうだったね。

お父さん、今日録画してくださいね。
分かりましたあ。
お父さん、言いましたよ、お母さん。
良かったね。

私はフクモトリコです。
こんにちは、フクモトリコちゃん。
ハイ。

お父さん、お風呂洗ってください。
分かりましたあ。

磯子行きだと、大船行かないのよ。
そうなんだあ。

セイザブロウさん、なんのお仕事?
下駄屋さんよ。
ぼく、下駄はきますお。
はいてね。

デザイナーって、なに?
どんなお洋服がいいかな、って考えたりする人よ。

クリバヤシさんのご主人、なにしてるの?
亡くなられたのよ。
なんで?
病気で。

「守ってないじゃないか」って、怒られたのよ。
誰に?
ナカムラさんに。
いつ?
昔。
大丈夫だよ。

ぼく、ヒガさんの録画、みますお。
「推しの王子様」ですか?
そうですお。

口ずさむって、なに?
ラ、ラ、ラとか、よ。

トトトト、やめてほしいですお。
トトトト、怖いの?
怖いんですお。
でも、目の悪い人はトトトで助かってるのよ。

マコトさん、今年ヒガさん泣いちゃったんですお。
そうなんだ。
泣いちゃったんですお。

お母さんが好きなのは?
ぼくですお……、ケン?

お父さん、大好きですお。
お父さんも、コウ君が大好きですよ。

 

 

 

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第96回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2021年長月・神無月・霜月・蝶人酔生夢死幾百夜

 

状況は瞬時に変化してしまうので、わたしらはいつでもいい意味でのダブルスタンダードを心がけていなければ、世の中から取り残されてしまう、と力説したのだが、タナカ氏はついに首を縦に振ろうとはしなかった。9/1

ぼくはひさしぶりにアマカワくんにあって、そのやさしさにかんどうしたんだが、「ぼく、あしたきみに、なにかかみさまのことばをいわなければならないんだ」というと、アマカワくんは「ああそうなの、まあよろしくね」というたのよ。9/2

銀座の旧電通ビルの試写室でルックのテレビCMを見ていたら、普段は温和なヨシムラ氏が突如血相を変えて立ちあがって、「このCMに、なんで盲人が出て来るんだ。障害者を冒涜うるな!」と叫んで、そのカットをカットさせたので、おらっち「こいつは偉い奴だ!」と、秘かに舌を巻いた。9/3

更地というより、荒地になってしまった会社の跡地を、元写真たちが、なにか思い出の品でも落ちていないかと、目を凝らしながら探している。9/4

「現代音楽のレコードは、一回こなごなに割ってから、アロンアルファでくっつけて聴くと、とても味わい深いんだ」と、大学時代の友人が教えてくれたのだが、なかなか実行できないでいる。9/5

出しものによって大好評の月もあれば、その反対に大不評の月もあり、それがみな売り上げに直結するので、映画館主のおらっちは。、大好きな「ローマの休日」だけを上映することにした。9/6

この史上未曽有の大飢饉時代を、我らヒニタタ一族は、身をひとつに寄せ合うようにして、爪を噛み噛み、たった一人の餓死者を出すこともなく、なんとか乗り切った。9/7

新型コロナを巡る世界的なパンデミックは、いっこうに収まらず、ますます熾烈を極めていたので、超強力な最新型ワクチンを搭載している我われの戦車は、敵軍の熾烈な集中砲火に晒されていた。9/8

政府主催の壮行会では、最初にビールなしのおつまみ、最後にスイトンしか出なかったので、頭に来た若い兵士たちは、次々に退場してタリバンの宴会場に向かった。9/9

東京の超僻地に引っ越した我ら夫婦は、近隣の住民のライフスタイルに違和感を覚えながら、自分たちの暮らしを細々と続けていたのよ。9/10

この国では、権力者にはむかった者たちは、金魚鉢を象った巨大な水槽に投げ込まれるので、泳げないものは、すぐに死んでしまうし、泳ぎの達者なものが、いくらあがいても、絶対に外には出られないのだ。9/11

コロナ最終戦争の段階で、ある希少ワクチンを接種した人だけが生き残れる、ことが分かったので、血を血で洗う物凄い争奪戦が起こっているようだが、おらっちのような下層階級には、てんで関係のない噺だ。9/11

その国際映画祭にはじめて出席した大富豪は、最新の映画が見放題なのに感激して、1億円を寄付したことで、その名を知られている。9/12

「この会社は腐ってるわ」と彼女がいうので、「その会社にいるボクもかな?」と訊ねたら、「さあそれは分からないわ」と答えたまま、彼女は地下鉄丸の内線の新宿駅の改札口から永遠に姿を消した。9/13

もうそろそろ、ここらへんで手を打たないとヤバイ、と思いながら、おらっっちは、何もせず、何も出来ないままで、いたずらに月日が流れていった。9/14

3時29分に玄関のチャイムがひとつ鳴ったので、おそるおそる階段を下りてドアを開けてみたが、誰もいなかった。9/15

ようやっとクリスチャン・バッハが到着したので、いよいよこれからリヒター選手が演奏を開始するのか、と固唾をのんで見守っていたが、コンサートは、なかなか始まらなかった。9/16

朝から晩まで敵将と激闘を続けた挙句、ついに最大の強敵を仕留めたのだが、おらっちには、何の勝利の喜びも湧き起こってはこなかった。9/17

芸術のための美的生活を目指して、楽しい共同生活を営んでいた私たちに対して、家主が強制退去を命じたが、おらっちを含めておよそ30名ほどが居残って、しぶとく美的生活を続けているのだった。9/18

全国マージャン大会が開催された。東京駅のホームに着くと、いきなりプラットホームのコンクリートが扇のように開かれて、その下には、何百台ものジャン卓が現れた。9/19

ふぁちょん大博士の下で、3年間修業を積んだおらっちは、朝寝して宵寝するまで昼寝して、時々起きて居眠りをしている大博士の代わりに、いま流行のエチカ調ルックスを製作したら大好評でした。9/20

その中国人女性のふぁっちょんトークでは、自分が得意とするラインは押さえて、あえて不要不急の不得手なラインを大きく打ち出すと、そのブランドの付加価値が増加するというたので、思い切ってやってみることにしたのよ。9/21

だいぶ前に急死した副社長の専用車に乗って、高速経由で彼の自宅に到着すると、美人の奥さんと女中らしき人がお辞儀をして、「おかえりなさいませ」という。副社長が運転手に「このまま彼の自宅まで届けてくれ」と命じたので、余は再び車上の人となった。9/22

その武将は、みずからも飢餓状態に陥りながら、小野城の包囲を解こうとはしなかった。9/23

私は最近大量生産されるようになったロボットについて研究している者だが、どんなロボットの表情も、また心の中にも、憂鬱と不幸が忍び込んでおり、譬え未来からやって来た猫型ロボットのドラどらえもんが、にっこり笑ったとしても、そこには決して消せない悲しみが漂っていることを見抜いたのであった。9/24

妻の実家で開催されている次男の個展を巡って、妻と息子の考え方が微妙に異なるので、はてさてどうしたもんじゃろう、と心穏やかならざる私。9/25

彼女は1億円の宝籤に当選したが、そのお金は生徒から集めた給食費の一部だったので、彼女は懲戒免職になり、1億円は学校がぶんどった。9/26

米国に遠征試合にやって来た我われは、毎朝食卓に並べられる宝石系のパンやコスモス系のパンを貪り喰うては、試合に臨んだ。9/27

ミクシィの少数の友人たちが書いた日記のありかを尋ねているのだが、杳として知れなかった。9/28

250人くらい入る大教室で、スタイリストを目指す若い女生徒に向かって、おらっちは1時間半にわたって谷崎の「陰翳礼讃」を論じたが、誰も聞いていない。と思いきや、講義が終わった時、一人だけ「とても面白かった」というて呉れたので、とても嬉しかった。9/29

リーマンを卒業して、フリーになってからのおらっちは、雑誌の取材記事から広告制作、専門学校、大学の非常勤講師等々、頼まれればなんでも引き受け、不眠不休で働き続けたので、自分のことを「抜き身の剣」と思うようになったのよ。9/30

海中なのに、巨大な水中ブルトーザーが、タラバガニのような大きな両腕で、海水を胸に抱え込んでは、次々に陸上に抛り投げていた。10/1

戸塚駅で横須賀線に乗り換えたら、ヴィクター宣伝部のトマツ氏が疲れた顔をして、うす汚れたガラス窓から外を眺めていたので、きっと重電部に異動できなかったに違いないと思ったずら。10/2

うちらあ野球の審判員なんやけど、2塁塁審で毎日60万円貰って、そのチームに有利な判定をしていた上司が、こないだ、とうとう首になってしまいました。10/3

Aという写真家が、商業写真を撮った後の現場を、Bという写真家が撮ると、芸術的写真に変わってしまうのだが、そのAとBを観察しているCは、写真家でも芸術家でもない。10/4

声は鋭い槍になって身を刺し、その身がどうなろうと、強烈な毒素を、全身に垂れ流すのだった。ひとたび身に受けた声は、体の中に沁み込んで、どうしても取り除くことは出来ない。10/5

モザールのト短調交響曲を聴きながら、おらっちはフルヴェンの悲しみが爆走していくのを見守っていた。10/6

「あんたの服には、権力への噛みつき跡が、ありありと残っているから、あれを着る人は、なかなかいないんじゃない」と、アンジェラが言うた。10/7

太平洋上空から見下ろすと、赤と青の2台の水中潜行艇に乗った2人が、楽しそうに海中ブランコしている姿が見えた。10/8

おらっちが校長を務めている小学校に、今年もベルリン・フィルの連中がやって来てミニ・コンサートを開いてくれるのだが、生憎改築中なので、校舎のあちこちを移動しながらの演奏になるので、ちと気の毒だ。10/9

夜、寝ているのに、起きているのに、寝ているようだ。10/10

いつもバスで会社へ行こうとしたら、道路の真ん中に大きな樹が倒れていて進まないので、仕方なくバスに戻ると、隣の黒人の大男が居眠りしながらもたれかかるので、身を躱していると、ソマリアのどすこいオバサンが乗り込んできて、余にウインクするのだが、もしかして、同級生のマリちゃんではなかろうか?10/11

南新宿の南の地下壕には、秘密の地下鉄が走っていて、オームとホームの血を血で洗う地上の武闘から逃れた民草たちが、犇き合っているのだが、おらっちはその群衆の中に、奥村晃作さんが、掃き溜の老鶴のように佇んでいる姿を見つけた。10/12

ピエール・カルダンは、さる伯爵夫人のために、毎年デザインと機能性に配慮した特製の水着を進呈していたそうだが、この話は、おらっちしか知らないと思うずら。10/13

大阪支店の連中と昼飯を食おうと歩いていたら、仲間の一人が黒鬼野郎にとっつかまってレスリングを挑まれ、さんざんやっつけられているので、誰か助っ人しないのか、とお互いに顔を見やるのだが、誰も助けないので、またさんざんにやっつけられて、素っ裸にされている。10/14

イソミ整形外科のイソミ先生に、そのことをどのように伝えるのかを、何度も何度も練習するのだが、そのたびに別の話をしてしまうので、焦りまくっているおらっち。10/15

わいらあ義経なんやけど、さる無名子が、公文書におらっちの名を書きしるしてくれたことだけを今生の名残として、いずこへともなく落ちのびていったのよ。単身で。10/16

せめて独裁的な為政者に蟷螂の斧を打ちおろさんと、余は身にワルサー一挺を携えて、王宮に忍び込んだのであったあ。10/17

偉大なるノーベル賞作家が、20年ぶりに発表した最新作は、たったの1行だけの世界最短小説で、しかもその1行の2/3が伏字になっていて、「その伏字が何であるかを当てた人には1億円を進呈する!」というスポンサーまで現れたので、超話題になっている。10/18

近所のおばさんから、「駅まで行くなら、ちょっと乗っていきなよ」と誘われたので、軽い気持ちで乗っていたら、そのおばさんが、俄かに、俄かめくらになったので、激しく動揺している私。10/19

ナカノ君が、「通産がオーバーランドの交通点」というたので、「キンサ、キレイな海の泡」と答えたら、また「光が輝き、土が唄ってる」というたのであるが、何も答えず黙っていた。10/20

ネモ艦長になった私は、ノーチラス号のスロットルを全開して、この世の悪人どもに体当たりさせ、次から次に海底の藻屑と化していった。10/21

私は星の王子様にテッパン協奏曲を聞かせたら、ことのほか喜んで、「もっと! もっと
!」とリクエストするのだった。10/22

「ここでリハビリを始めてから、まだ半年も経っていないんですよ!」と、おらっちは痛い右腕をブンブン振り回しながら、イソミ院長に激しく抗議したのよ。10/23

人世に消耗した時には、ベートーヴェンの交響曲第4番の出だしを聞くと、パンパンパンビノパンビタンを飲んだくらいには元気になるのだが、近頃は、さっぱり効かなくなってしまって哀しいずら。10/24

ともすれば分裂、崩壊してしまいそうになる「私」を掻き集め、また掻き集めしているうちに、いつのまにか「私」は「私たち」になっていった。10/25

おらっちの小学の同期の秀才は、村の一等地に巨大な銀行をおっ立て、「見てろ、いまに日銀に追いつき、追いこすんだから!」と、豪語するのだった。10/26

その村人たちは、風味絶佳、天下無敵と称されるサルマ茸を、おらっちにどっさり喰わせてくれたのだが、それほど美味くもなく、喰えば喰うほどマズくなるので、近寄って来た豚に呉れてやった。10/27

ゼンダ城の虜なおらっちは、鉄火面で全身を覆われてしまったので、飯を喰うたり、ウンチをしたりするのに、えらく往生したことであった。10/28

「この商売の鉄則は、本物のストラディバリウスのヴァイオリンを、ショオウィンドォに掲げることさ」と、その楽器商は語った。10/29

ボクはそろそろ身を固めようと思って、彼女と付き合い始めたのだが、彼女ときたら「海よ山よ町よ」と、あちこちふらふら遊び回るだけで、ボクと一緒にいる時間なんて、まるでありゃしないのよ。10/30

わいらあ潜水艦の乗組員は、夜狭いベッドに横たわって、「おらっちは今深い深い海の底の底で寝っているんだ」と思う時にしか、楽しみはないずら。10/31

中国大陸にほど近いその小島には、仮想敵国からの情報を細大漏らさず収集するための、大中小無数のアンテナが、蟻の這い出る隙間もなく立ち並んでいた。11/1

佐々木かをりが親戚ではなかったと知ったおらっちは、少なからずショックを受けたが、「そうか、京都生まれの彼女が、横浜生まれのはずがないもんな」と、胸を撫で下ろしたのだった。11/2

連隊長から「敵の捕虜を14・23に全員ここに整列させろ」と急に命じられたので、捕虜を捜したが、どこにもいないので、わいらあいうにいわれん苦労をしたのよ。11/3

おらっちの会社での仕事は広告宣伝なのに、もう秋が終わって冬に入ろうとしているのに、年初から何の仕事もしていないことに気がついて、慌てて営業部長のところへ行ったら、「今年は宣伝費はゼロなのよ」というたので、腰が抜けたずら。11/4

明日は総攻撃というその夜、わいらあ「みんな家族でいるところをスケッチしてやろうか?」と訊ねると、我も我もと集まって来たので、次々に描いてやったら、みな泣いて喜んでいた。11/5

コロナ禍が一段落したので、マンモス学会へ行ったのだが、「マンモスの本質は、その骨なのか、その内臓なのか、それともその魂なのか?」について、相も変わらず果てしなき議論が繰り広げられていたので、怱々に退席した。11/6

キヨカワ医院の女院長が、土曜日の内科を担当しているそうなので、いちど健康診断を受けてみようかな、と思うのだが、その動機がやや不純ではないかと、朝までもんもんとしているずら。11/7

新社長が同じ場所で毎回作っては壊し、壊してはまた作る展示会の設営費がまったくの無駄遣いだ、と怒り狂っているようだが、これが必要経費であることを、誰も説明しようとはしない。11/8

せっかく頻尿緩和剤を飲みだしたのに、なんでまた1時間おきに小便に行かなきゃならんのだ、それに寝返り打つたびに右腕の筋肉が痛むし、ダメトラは虚人なんかに負けるし、ああ早く寝なきゃ。11/9

私ら2人は、あんまり近くにいたために、かえって、お互いに深く愛しあっていることが、ずいぶん長い間、分からなかった。11/10

三代将軍実朝の私は、毎日歌を詠みながら、あの悪辣陰険な北条時頼が、私の首を取りに来る日を、今か今かと待っているしかなかった。11/11

おらっちは見た。かの公爵夫人が、あのコモド大トカゲとがっぷり四つに組んでから、明後日の方角へ、いとも軽々と投げ飛ばすのを!11/12

司令官から直接頼まれたので、仕方なく面倒を見ているのだが、その頑なに沈黙を続けている男は、ひょっとすると敵の密偵かも知れないので、おらっちは気を抜く暇は、てんでなかったのよ。11/13

イマイさんの小説講座を学んだ人たちから、数多くの芥川賞や直木賞作家が誕生しているが、イマイさん自身は、まだ候補にのぼったことすらないのは、何故だろう?11/14

車のトランクを開けたら、中は水がいっぱいで、金魚とメダカが泳いでいて、水底に2つの弁当箱があった。11/15

高橋アキさんが、ピアノで現代音楽を演奏していることは分かるのだが、それが誰のなんという曲なのかはてんで分からないうちに、演奏が終わってしまい、瞬く間に、聴衆も消えてしまったので、拍手することも出来なかった。11/16

おらっちは、オン・デマンド・サービスで頼んだ、コカコーラと三ツ矢サイダーとカルピスを飲みながら、懐かしの小学校唱歌を歌いまくったのよ。11/17

千客万来の展覧会にスタッフ一同大童だったが、ふと考えてみると、今回は入場料金をとっていないから、全部持ち出しになる訳なのであった。11/18

千客万来の展覧会の最終日の終了時間間際に滑り込んだ客が、いくら「もう終わりですよ」というても、粘りに粘って帰ろうとしないので、みな閉口して、客を残して引き揚げた。11/19

族長は、これから夜襲をかけるテントの中で幸せそうな顔をして眠っている女子供たちのことを思ったが、いそいで頭を振って、その残像を消し潰した。11/20

息子ときたら、五味家の広間に若者たちを集めて、なにやら大演説をしているので、恥ずかしくて仕方がない。いつのまにああいう偉もんハンに成り上がったのか。11/21

スクリーンに映し出された、青春まっさかりのアラン・ドロンを見つめながら、後期高齢者の女性たちが、ねっとりとした妖しい視線を投げかけるので、とうとう銀幕が燃えはじめたようだ。11/22

もうコロナにすっかり飽きた政権が、急に思いついたように18歳以上の国民にクラシックの定番CDを無償提供することになって、まずワルターのモザールの40番&41番が送られてきた。11/23

おらっちは、南アやアメリカ南部で人種差別バスに乗ったことがあるが、それはそれはお話にならないくらい酷いものだった。11/24

おらっちは、ある野党の領袖選挙に立候補したのだが、対立候補のレベルがあまりにも低すぎるので、討論会は欠席して、コブナ釣りに勤しんでいた。11/25

ノジマ電機でエアコンを買おうと思って、販売員と電卓を押しくら饅頭していたら、余の右手の人差指が電卓を突き抜けて、販売員の掌も突き通してしまったので、驚いたなあ。11/26

「シビラっちゅう服のコンセプト、コア・ターゲットのプロフィールは、いったいなんなんねん!」と社長が叫ぶと、その場にいた全員が、なぜかおらっちを見たので、「そんなこと知らすか、なんでおらっちが答えんといかんのかいな」というて、退席したのよ。11/27

いつも細かい所で失敗している大将だったが、最後のコンサートでは、一音符も間違わずに軽妙なフルートの節を奏でた。11/28

バーンスタインな私は、その日のコンサートで、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の棒は振ったが、ニールセンの交響曲は謹んで辞退し、家に帰ったずら。11/29

もう今では無くなってしまった会社のこと、もう今では泉下の人となってしまった先輩や後輩の人々のことについて四方山話をしたのだが、その御当人は、おらっちのことを全然それと認知していなかったと別の人から聞いたので、やっぱりそうだったのか、でもよくある話よと軽く受け止めているおらっち。11/30