桜がひらくと

 

ヒヨコブタ

 
 

春がきたらしいと近くの桜が告げて
苦手な季節なはずも
すこしこころやわらぐ
きれいということばがこぼれでたとき
胸の中の鉛が軽くなる

気のもちようとはよくいったものだね
もういない人たちを思い彼らに話しかけるように過ごす
苦痛とは人生で比べようもなく
欲を出せば幸せなどどこまでも手に入らないだろう
それを忘れぬようぎゅっと手に力をこめる

親やその上の人たちが苦労していたことを思い出して気を引き締めても
彼らはいつもやさしく微笑むのみだ

老いていくひとのほんのささやかな願いを
どうしたら叶えられるのかわからずにいる
わたしが思うほど悲しみを感じてはいないのかもしれないと気がつくとき
体の力が抜けて座り込んでしまうのだ
そんなことがあっていいのだろうか
悲しみに囚われすぎても何もうまれないときは
眠る

じぶんが微笑むと相手もこころ開いてくれる可能性は高いと思うのに
それがなたで斬りかかられるようなとき
わたしは涙する
心配りは相手の重荷になりすぎぬように
そしてじぶんの重荷にはならぬように
眠る

世界は閉じてはいなくて
誰も一人ではない
そこに傷つけあわないという簡単なルールが見えるひとと
そうではないひとがいるのだろうか
わたしはきっとだいじょうぶになるまで
ぬいぐるみを抱えて
眠る

 

 

 

わん、つー、ロックンロール

 

工藤冬里

 
 

子供がいない
馬のことか?
自分のためにパチスロに戻ってはいけない
軍備は不満を惹起した
一周間違えて
使い回したぺったんこのマスクを捨てて
長寿さえ求めず
祈れないのに僕はマンガの線のマスクが好きだ
補助的なマスクの虎
認知は瓶の中の赤い蒟蒻のように
ムサシアブミのぐんぐん
3時間でぺったんこ
小指にも電気
宗匠は器具を磨き上げ
背後にある感情?
丸亀製麺の浮腫がメジャーを巻き戻して
なんであれねじめなこと
痰の絡む金は粘土層の土地で鋳造された
5:45分起きなら洗いは当然
上手に抑揚を付けて弁当を
油髪のプリンス
東京スカイツリー6百34メートルです
逃げ去る子供がいない
의지없이
チリ紙にカッター刃が包まれ
青黒い縁取りの動画見せられ
命を犠牲にして助けてくれて
犬殺しや死体運びのバイトにもヒロイズムが充満している
欲を言うなら見ないで
my girl Fridayは有能な秘書
金髪焼いたら
服を残して逃げたら
戦い続けて肉や血焼いたら
奥様の思い出焼いたら
ローマの建物ごと
チャンピオンの踏み台は取り去って
凛々しい柿の若葉は天麩羅にします
添い寝ごはんの山を越えて
池の下にナビが配偶者の道を造り
集合無意識が放火するクロスロードで
子供丸亀製麺の浮腫
花粉マスクは池から穢れのない海にずれ込んで
使い古しの毳が当たる感じがだめだ
毛羽立つ畜生
努力によって生み出されるglobeのドーム内
遡って織り交ぜていく
140g5分捏ねて2つに分け3mmにして8分焼く
剥がしたらいいと言うがもう剥がれ切ってるのはどうしたらいいとうさん
わん、つー、ロックンロール
小雨の降っている間はエクリチュールを遡っても良い
時系列の順位を変える機能が備わっている
但し小雨が降っている間だけだ
二項対立の外に出る時の礼儀として傘を差さない
春なのに

 

 

 

#poetry #rock musician

真夜中の針

 

辻 和人

 
 

ヒブだ、肺炎球菌だ、B型肝炎だ、ロタウイルスだ
初めての予防注射だ
ギュエィアーン、ギュエィアーン
口が大きく撓んで開いて
目から涙チョチョチョチョーッ
知らない白い部屋に押し込められた
知らないおじさんに体いじられた
それだけでも大変なのに
いきなり太ももにプスップスップスップスッ
体ビッビッ反らせて
コミヤミヤが泣いた
こかずとんが泣いた
2人おんなじ反応おんなじポーズ
痛かったよね
びっくりしたよね
びっくりが痛かったをどんどん連れてきたよね
抱っこ紐ゆさゆさ、ゆさゆさ、してやって
ひくっひくっとトーンダウンしてきたコミヤミヤとこかずとん
さ、早くお家に帰ろう

家に帰ってマットに寝かせて
ちょっとは笑顔も見せてくれたんだけど

真夜中、突如
ギュエィアーン、ギュエィアーン
こかずとんの声だ
こんな泣き方見たことない
体ビッビッ反らせて両手ぷるぷる震わせて
つんざく声
真夜中、針が現れた
1本2本3本4本
真夜中の太ももめがけて
真夜中の痛かったを
プスップスップスップスッ
連れてきた
ギュエィアーン、ギュエィアーン
コミヤミヤはぐっすり眠ってるのにね

こかずとん、大丈夫だよ
ここにいるのは
ほんとはいない奴らなんだよ
ほんとはいないんだから
朝になったらみんなどっかへ行っちゃうよ
それまでかずとんパパが
抱っこ抱っこしてあげるよ
ゆっさゆっさゆっさゆっさ
ほうら
真夜中の針、消えてくよ
4本3本2本1本
ひっく、ひっ……く
背が柔らかくなってこかずとんは眠りに落ちていく
まだ微かにいるかもだけど
大丈夫
ほんとはいないんだから
朝になったらみんなどっかへ行っちゃうから

 

 

 

逆さまの音

 

小関千恵

 
 

こどもたちに、自分の名前を書いてもらったことがある
ひとつの紙に書いてもらった
誰かがそこに、わたしの名前も書いてくれた

ただ名前を書いてみても輪郭は取れないが
「居る」ということが不思議と浮かぶ

あの子は
嬉しい時に 泣き真似をし
泣きたい時 大声で笑った

喜びたいなんて思う間もなく喜んだり
泣きたいなんて思う間もなく泣いたり
できずに

わたしはその素直さが嫌いじゃなかった

ひるがえる海
逆立ちをして
波打ち際に捕まっていた
きみの声 涙
逆さまの音を天に落としている
そしてそれは、
いつか地上へ還ること