鳥渡

 

廿楽順治

 
 

ちょっと
と読むらしい

鳥のようによろよろとひとは
「そこ」を
渡らない

空や川はいつまでも
「そこ」なのだろうか

きみはかんがえるふりをして
(六十年間)
奇妙な味の酒をのんでいる

死んで
生きよ

「そんなことあるわけはない
 ちゃんと帰ってこい」

そういう妻も
きみも
(つまりわたしのことだ)
もう どこをも高く渡らずに

ほんのすこしだけ
夜の椅子で
たがいに羽のようなものを動かしている

 

   ※高円寺のバー「鳥渡」で

 

 

 

雨が奏でる正午

 

原田淳子

 
 

 

銀の三角を額に描いて船に乗る

壁から電気を盗んでるあいだに詩を書く

街頭で集めたティッシュで花をつくる

握り飯を食べたら歯が欠けた
人生のいちぶが破損して、セラミックが光ってる

石階段を駆けあがる

子どもたちが飛沫に歓声をあげる

水が手紙を運ぶ

雨が奏でる正午

きみの方角が白く濡れていた