「ボブ・ディラン全詩集」(片桐ユズル・中山容訳)を読みて歌える

 

佐々木 眞

 
 

西暦2017年1月23日、ギャラプの世論調査によれば、トランプ大統領の就任直後の支持率は45%で、調査を始めた1953年以来過去最低を記録したそうだ。

この日大統領は、「TPP交渉から米国が永久に離脱するよう」指示した。

永久?永久?永久?
お前さん、まさか永久に大統領を続けるつもりやないやろな。
死んでも永久に生き続けるつもりかいな。

とわいが驚いとると、あの「プラトーン」のオリバー・ストーン監督が、「トランプを良い方向にとらえよう」とツイッターで呟いたそうや。

来日した彼は、朝日新聞24日朝刊のインタビューで、
「ヒラリー・クリントンが勝っていれば、危険だと感じていました。米国による新世界秩序を欲し、他国の体制を変えようとする彼女が大統領になっていたら、第3次大戦の可能性さえあったと考えます」
なんちゅうことを平然と語っておるので、またまたびっくらこいてると、
突如、わいの目の前にメリーゴーランドが現われ、ゆっくり、ゆっくり回りはじめた。

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

「トランプ氏は“アメリカ・ファースト”を掲げ、他国の悪をやっつけに行こうなどと言いません。米軍を撤退させて介入主義が弱まり、自国経済を機能させてインフラを改善させるなら、すばらしいことです」

などとストーン監督はのたもうんやけど、その嘘ほんまかいな?嘘かいな?
ちょいとばかし楽観的にすぎるのではないかいな。

そういえば、わが国の東京都知事も、盛んに「都民ファースト」を呼号しとる。
そういえば、だいぶ前から食い物はファースト・フードだし、アパレルはファ(ー)スト・ファッションが大流行だし、なんでもかんでも速攻自己中心の“ファースト主義”の時代になったやろうか。

ほな早速、ボブ・ディランはんに聞いてみまひょ。

「半分の人間は、いつもなかばは正しい。
何人かのひとはときどき完全に正しい。
しかしみんなのひとがいつも正しいことはありえない」
やて。

そりゃそうやけんど、そもそもオリバー・ストーンはんは、正しい人か?
トランプは悪魔か、それとも正義の味方か? ボブ・ディランはんは、どっちの半分や?
わいらあ、だんだん自信がのうなってきたよ。

するとボブ・ディラン選手がまたあらわれて、わいにウインクしながらこう言うた。
「いまの勝者は、つぎの敗者だ。
第一位は、あとでびりっこになる。
とにかく時代はかわりつつあるんだ」

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

なんか人世が厭になってしもうたわいがテレヴィをつけると、かつて「米国抜きのTPPはあり得ない」と語っていたアベ・シンゾウが、まるで猪八戒のような顔を30度傾けて、参院本会議場で演説しとる。

「トランプ大統領は、自由で公正な貿易の重要性は認識していると考えており、TPP協定が持つ戦略的、経済的意義についても腰を据えて理解を求めていきたい」

なぞと、目玉をキョロキョロさせながら、ゴーストライターの書いた原稿をほとんど聞き取れない猛烈なスピードで読みあげている。

しかし肝心のトランプが「永久に」蹴ってしまった交渉の座席に、「腰を据えて理解を求め」るなんて、世界中の誰にもできっこないだろう。

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

民放にチャンネルを切り替えると、横綱昇進が決まった稀勢の里が、今まではほとんど開けなかった目玉をぐっと見開いて、

「これから、ますます強くなります。土俵入りは不知火型ではなく、雲竜型で行きます!」
と威勢よく語っている。まるで血液型が変った別人23号のようだ。

別のチャンネルに切り替えるとかの「仁義なき戦い」で有名な俳優、松方弘樹はんが、脳リンパ腫で74歳で亡くなったと悼んでおる。

ここで急遽、元妻の仁科亜希子はんの言葉が紹介される。

「このたびの、訃報を聞き大変驚いております。私が本気で愛し、2人の子どもを授かり、20年以上も共に歩んでまいりました方です。今は、安らかにおやすみくださいますよう、心よりお祈り申し上げます 合掌」

わいらあ、その「私が本気で愛し」に完全に痺れてしもうた。
こういう赤裸々な告白を、芸能人、いや世間の人々から聞くことはめったにない。
恐らく別れた後で、「ホントウニ愛シ」ていたことが分かったのだろう。ええ話や。

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

すると、よせばいいのに、またアベ・シンゾウが出てきた。

アベは、共謀罪の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法の改正案について、「捜査の相互協力などを定めた国際組織犯罪防止条約の締結に必要だ」と強調。
「国内法を整備し、条約を締結できなければ東京五輪・パラリンピックを開けないと言っても過言ではない」と述べたそうや。

なら、オリンピックなんて止めちまいな。謹んで返上してしまいな。
だあれも困りはしないよ。
なあ、ボブ。

そこでボブは、立ち上がる。
立ち上がって、歌う。

「何回弾丸の雨がふったなら、武器は永遠に禁止されるのか?」
「何人死んだら わかるのか あまりにも多く死にすぎたと?」
「おい戦争の親玉たち。あんたがたにいっておきたい。あんたがたの正体はまる見えだよ」

いいぞ、いいぞ、ボブ、ええやんか。

「それで ひどい ひどい ひどい ひどい雨が降りそうなんだ」

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

 
 

*トランプ大統領、オリバーストーン監督、安倍首相の発言は西暦2017年1月24日付朝日新聞、ボブ・ディランの発言は片桐ユズル・中山容訳「ボブ・ディラン全詩集」の「第三次大戦を語るブルース」「時代はかわる」「風に吹かれて」「戦争の親玉」「ひどい雨が降りそうなんだ」より引用。

 

 

 

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