鈴木志郎康
「鉱脈があったぞお」って、
小学四年か五年の
俺っちが
叫んだかどうかは、
忘れちまったが、
敗戦後の焼け跡の
瓦礫の下には、
ガラスの鉱脈があったっちゃ。
掘れば、
ザクザクと
壊れたガラスの破片が
出てくる場所があったっちゃ。
大きなガラス戸が、
戦災の時に焼夷弾で、
焼けて倒れたところっちゃ。
俺っちら子どもは、
そのガラスの破片を掘り出して、
三丁目の小さなガラス工場に売って、
小遣い稼ぎをしてたっちゃ。
ビール瓶や酒瓶の破片は安く、
透明なガラスは高く、
クリーム瓶や花瓶の破片は
一番高く売れたっちゃ。
掘り出したガラスの破片を、
箱に選り分けて、
工場の焼け跡から見つけて来た台車に乗せて、
ガラガラって引っ張って行ったっちゃ。
三円か五円か稼いで、
駄菓子屋に行って、
空腹を満たすってこっちゃ。
駄菓子屋には、
当たりのある籤が売っていて、
「当たれっ」って、
叫んで、
ボール紙に貼りついた菓子を剥がすと、
外れで、
がっかり、
外ればかりだっちゃ。
絶対に当ててやるって
俺っち、
ガラス屑を売ったゼニをはたいて、
その当たり籤をボール紙ごと、
買っちまったのさ。
そうして、
一人で、
外れも、
当たりも、
ひとつひとつ、
剥がして行ったっちゃ。
当たりが出ても、
景品を貰っても、
嬉しくもなく、
ちーっとも、
面白くなかったっちゃ。