長田典子
学期の最後の授業はパーティになり
話がひとめぐりすると
PCを起ち上げユーチューブで
それぞれの故郷の民謡や歌謡曲を聴きあうことになった
カザフスタン、トルコ、タイランド、コリア、ジャパン、チャイナ、サウジアラビア…
このクラスの学生たちは
全員アジア出身なのに
くすくす笑うのだ
はじめて出会った旋律の
ふしぎさ に 居心地のわるさ に
インターネットで瞬時に世界中に発信されるポップスや
ヨーロッパのクラッシック音楽には慣れているのに
ふかくじつな
波
揺れ
オーロラ
よせては おしかえす 旋律
馬を食べます
犬を食べます
鯨を食べます
豚を食べます食べません
牛を食べます食べません
鶏を食べます
蛇を食べます
今ここで ピザやポテトチップスや野菜サラダなど
それぞれの神に赦されたものを食べて 飲んで
ニューヨーク流のパーティを楽しんでいます
ほんとうにつらい時はきっと
故郷の味を食べたくなるのでしょう
わたしはジャパンレストランに行って鍋焼きうどんを食べて心を温めます
食べるだけで励まされるのです
聴きたくなるでしょう故郷のこぶしのきいた音楽を
わたしは昭和の時代の歌謡曲を聞いて涙ぐんでしまうのです
聴くだけで魂が揺さぶられます
波
オーロラ
揺れのある
ふかくじつな 旋律
宇宙の羊水の流れにのって
西へ東へ南へ北へ
意識は流れて浮遊する
混じって 絡まって 枝となって分かれ
分かれてしまって
それぞれの 空で 揺れる
また混じって 絡まって 枝となり………
そうやって
枝の先に立っているから尖るのでしょう
くすくす笑うのでしょう
幹に降りて根っこまで遠くいにしえまで覗き込むことができたなら
居心地の悪さも受け入れられるでしょうか
馬を食べます
犬を食べます
鯨を食べます
豚を食べます食べません
牛を食べます食べません
鶏を食べます
蛇を食べます
野蛮でしょうか
もってのほか、でしょうか
この味がわからないとは気の毒に、と思うでしょうか
どの動物も知能は高いのです
いにしえ人は動物を大切に頂戴しました
余った毛皮は
衣服や靴として
歯や骨はアクセサリーや楽器として役立てました
わたしはネパールでヤクの歯と骨で作られたネックレスを買いました
今もジャパンの抽斗に大切にしまってあります
赤いセーターの上に着けるのが好きです
どんな動物も
人のように知能は高いのです
いにしえ人はそれをありがたく頂戴しました
21世紀のマンハッタン
窓の外は四六時中クラクションが鳴り響いています
ピザやポテトチップスや野菜サラダなど
それぞれの神に赦されたものを食べて 飲んで
わたしたちはニューヨーク流のパーティーを楽しんでいます
ユーチューブでそれぞれの国の民謡や歌謡曲を聴き合います
カザフスタン、トルコ、タイランド、コリア、ジャパン、チャイナ、
サウジアラビア……
似ているようで似ていない
波のようなうねりは
やはり似ているのですどこかで聞いたことがあると感じます
似ているから違うところが気になって居心地が悪いのではないでしょうか
似ているとかえってわからなくなるつらくなることがあるのです
それでわたしはコリアンと喧嘩をしてしまいました
いにしえ人は唄ったでしょう
獲物をしとめ家路につくとき
収穫のとき食するとき
それぞれの枝の先から分かれ目まで降りて行って幹を降りて根まで行って
遠くいにしえまで覗き込むと
400万年くらい前の子孫は
アフリカにいたんですね
ぜんいん
そこから始まったのだから
枝の先っぽで
こうやって
自分たちの存在の遠さに驚きたい
遠い存在の出会いを喜びたい
何百万年の旅の果てで
あした目覚めるために食べる
たとえば馬
たとえば犬
たとえば牛
たとえば豚
たとえば鯨
たとえば鶏
たとえば蛇
を食べることは
野蛮ではありません
助けられて生きていく
ジャパンでは小学校の給食によく鯨肉が出ました
嫌いだったけど一生懸命食べました
いにしえ人は唄ったでしょう
少しずつ違うゆらゆらゆれる節のある歌を唄ったでしょう
うなるような歌唱法になるのは魂の輝きと強さでしょう
人の感情って実はさほど変わらないのではないのでしょうか
狩りに出かけては襲われて人は動物に命を奪われたでしょうそれは与えたのです
荒れた海で人は命を海に奪われたでしょうそれは与えたのです
与え与えられているのです同じ生きとし生けるものとして
ある日マンハッタンのマーケットに安くて大量の肉が並んでいるのを見て
とつぜん吐き気がして肉類を食べたくなくなりました
嫌悪するようになりましたベジタリアンになりました
そういうとなんだか文化人みたいだけど
ただ肉を食べる自分を気持ち悪いと思ってしまっただけなのです
3か月ぐらい過ぎたら身体に力が入らなくなり体力不足が身に沁みました
肉をまた食べ始めました吐き気はしませんでした
美味しいと思いました
ありがたく頂戴することにしました
だけどわたしはどうやって
動物たちにお返しをしたらいいのだろうと思いました
パーティで
話がひとめぐりすると
ユーチューブで
それぞれの国の懐かしい音楽を披露しあうカラオケをする
枝の先っぽから遠い人を見ている近い肌を感じている
居心地が悪いのにどこかで聞いたことがあると感じている
実はきのう夢を見ました
茶色い洞窟の中にいました袋の中のような場所でした
円筒形のトンネルを走っていくと明るい出口が見えました
舗装されていない赤い道をいっしんに走りました
旋律がみぞおちに
どどろく
胃袋にひびく
だけどわたしはどうやって肉のお返しをしたらいいのでしょうか
とどろいてくる旋律ユーチューブからの
オーロラ
波
ゆらゆら
ほんとうは野蛮なのではないでしょうか
いまユーチューブを聞いているわたしは
いにしえ人からは遠すぎて
どうやって肉のお返しをしたらいいのかわからないのです
ほんとうは野蛮なのではないでしょうか
ゆらゆら
ゆら
ゆら