のっぺり四角いものがだんだんと

 

辻 和人

 
 

のっぺり、のっぺり、のっぺり、したものが
四角く、四角く、四角く、
だん、だん、だん

降りている
伊勢原の実家近くの県営団地ですよ
ミヤミヤと年始の挨拶に行く途中
八幡様で今年の無事を祈願した後
のっぺり
現れた

ああ、これ
ぼくが小学生の時にできたんだよ
ぴっかぴかだったなあ
まあたらしいコンクリートの無臭がぷんぷんきてね
ほら、一軒家って何となく臭いがあるじゃん
そいつが全然なくってさ
スッ、スッ、スッ

段々畑みたいな坂をかっこよく降りてた
もう名前忘れちゃったけど
友達の1人がこの団地の4階に住んでたんだよ
階段の硬さがかっこいい
ちょっと息が切れるけど高いところまで昇るってもかっこいい
部屋の感じも四角くってかっこいい
胸にズキッとくる
四角の力だ
ぼくは新築の一軒家に住んでたんだけど
こんなところに住めたらなあ
高い窓からの眺めはいいなあ

それが何とまあ、今は
のっぺり、のっぺり、のっぺり
コンクリートって年を取るんだよね
四角は相変わらずだけど
線の縁がね
ボロ、ボロ、ボロ、ってくるんだ
名前忘れたあいつの家族、まだここに住んでんのかなあ
エレベーターないから部屋に辿り着くのも大変だ

実家への道を歩きながらミヤミヤに
「さっき通った団地、小さい頃は新しくてすごくかっこよかったんだよ。」って言ったら
「70年代頃に建てられたんだね。ウチの近くの団地もあんな感じじゃない。」
そういやそうだ
広くて緑の多い敷地に余裕たっぷりに配置された白くて四角い建物群
スーパーも郵便局も保育園も公園もある
若い夫婦が入居して
赤ちゃんの泣き声がいっぱいで
夕方になると「〇〇ちゃん、もうご飯よ。」なんて声がいっぱい
だったんだろうなあ
けど今は
のっぺり、のっぺり、のっぺり
杖をついて歩く人がいっぱい
残業を終えて10時頃通りがかると
しぃーん
灯りがついている部屋の方が少ない
「住居は福祉」という幟が立ってるから
もしかしたら建て替えの話が出てるのかもしれない

小さい時、テレビを見てて
怪獣が発した火の玉を受けてウルトラマンが勢いよく倒れこんだ先が
こんな団地だったなあ
四角く、四角く、四角く
くっそー
怒ったウルトラマンがL字型に腕を組んで光線を放つと
お見事! 怪獣は木っ端微塵だ
さて
幼いぼくがこの快感を得るために
スッ、スッ、スッ

四角く並んだ団地は絶対必要なものだったね
団地ってさ
豊かさの象徴、安定の象徴、新しい時代の象徴
かっこいいの象徴
そいつをぶち壊されたんじゃたまらない
ウルトラマン、頑張れーっ
やっつけろーっ

のっぺり、のっぺり、のっぺり、したものが
四角く、四角く、四角く、
だん、だん、だん

降りていっちゃった
実家が近くなるってことは団地が遠くなるってことだ
野菜畑の中の細い道を歩く
カラスがカーカー鳴いて、富士山がご機嫌な姿見せてる
ここからの光景、昔から全然変わんない
けど
まあ多分ぼくが気づかないだけだろう
スッ、スッ、スッ

のっぺり、のっぺり、のっぺり
になっていったように
カーカー&富士山、も
だん、だん、だん、と
変わっていってる
長い間独りだったぼくも
ミヤミヤという伴侶を見つけて
変わっていったさ
実家もいつまで実家でいられるかわかんないぞ
それでも着いたらみんなに新年の挨拶だぞ
おせちとお雑煮が楽しみだぞ
のっぺり、のっぺり、のっぺり、したものが
四角く、四角く、四角く、
だん、だん、だん、と
続いていくんだぞ

 

 

 

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