萩原健次郎
息
虫の息かどうか確かめる。
手を近づけて、虫、かどうか。
うわっ、人の息。後ずさり、
虫は、虫の代で死に
人は人の代で死ぬ。
息には、
意味の混ざった言葉が、
滲み出す。
布
薄片の、
水をふくませて、鼻と口へ被せる。
白よりも白く、
言うことを拒み、
欝する赤に遠くから、情を投げ込む。
根
根は、土中で息している。無臭。
何も伝わらない。わたしひとりが
赤子でね。
棘
棘が救ってくれる。
連作「不明の里」より