恋沼

 

萩原健次郎

 
 

 

地に沁む
はじめ項垂れる
詫びる
詫び通す
嗚呼と応える
世はないと思えば
鳥は鳴き
朝日は射てくる
内臓が透ける
臓腑がいちどからまって
無痛の味わいがすぎてゆけば
梢へ投げる
消えたとき
嗚呼
あなたの涎を舐める
地に垂れた清水を
掬う
あなたに臓腑がないことの
どれほどの安堵
あなたに悩みがないことの
救い
草と空と
生血の獄が
混ざる
しあわせよ
嗚呼
水の放浪者として
池に投げ捨てよ
やさしく
首をしめて
水底へ

 
 

連作 「不明の里」より

 

 

 

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