正山千夏
もうフォーカスするのはよそう
ちょうど老眼も入り
筋肉もほどよくへたってる
白髪まじりのごましおあたま
二か月に一度染めないと
はえぎわにまるで霜柱のよういつのまにか
ざくざくとそれを踏んでまわりたいの
まだあの頃の冬の朝の記憶
優雅に取りだして
ふっと息を吹きかけ埃をはらう
そう、今は五月
みどりの風に吹かれて遠くを見る
疲れ目を癒して
見たいものはなんだったのか
フォーカスしようとがんばっていたものは
引いて見れば
そんなに近いわけでもないけれど
もうそんなに遠いわけでもない
花をつんで花びらを一枚一枚
好ききらい好ききらい
中年期のただの女が
五月の宝箱を開けたのだった
母の宝箱のオルゴールのあの曲が
風と街の音の向こうで鳴っている