恐竜キッチン

 

塔島ひろみ

 
 

チーズの焦げる匂いがした
電子レンジのドアを開けると 中に子どもが入っている
私を見ている

「その子は明日から入院で、人工内耳の手術を受けるんです」
ハウスのスタッフが説明してくれた
バタンとドアを閉めてしまう

病気の子どもとその家族が、
自分の家にいるように自然に、
しかも孤立しないように、工夫をこらして設計されたキッチン
丸く成形されたハンバーグたちが、クッキングヒーターにおいしそうに並び
せっせと焼けながら、パンに挟まるのを待っていた

チリチリチリと終わりに向かってタイマーが動く

「チン」
「チン」
「チン」
あちこちで楽しそうな音たてて、仲間が生まれた

わたしは恐竜図鑑を持ってきてみんなに見せる
ほら、これがニンゲンだって
「優しそうだね」「強そうだね」

私たちはみんな同じクリクリの顔で、 食べられるのを待つ間
レゴでトリケラトプスを作って遊んだ
♪ジュージュージュ~
♪ほかほかほか~
ママの膝に乗っかって、歌を歌った

電子レンジのドアを開けて中を覗く
耳の聞こえない男の子が私を見ている
この子はまもなく人工内耳の手術を受ける
タイマーをセットしてドアを閉める

チリチリチリと終わりに向かってタイマーが動く
まもなくその子は自分が生まれる音を聞く

自分が焼ける音を聞く

 
 

(7月13日 ドナルドマクドナルドハウス東大で)

 

 

 

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