塔島ひろみ
ぐらぐら頭がふらついて
座ろうとしたら、体が傾いて滑り落ちた
人が見ている
目立ちたくない、私は焦る
もう一度 座席によじ登ろうとして
後ろに転び頭を打った
私は車内通路に醜く伸びる、
腐敗臭を放出するゴミであった
ガタンガタン、ガタンガタン、電車が鉄橋を渡っている
荒川河川敷でススキが風にそよいでいる
まもなくヤヒロ、ヤヒロ
何も知らない(たぶん)車掌が放送している
窓から西日が差しこんで、倒れている私の顔を照らす
誰かが窓を開け、心地よい空気が入って来た
橋が見えるよ!
声の方に目を向けると、薄汚れた猫が数匹
窓に顔をくっつけて外を見ている
ヤヒロで駅員が2人乗ってきて、車内清掃が始まった
乗客が次々掃き出されるように降りて行く
そしてこのおぞましく邪魔な物体をそのままにして、ドアが閉まった
見ると座席にホーキを立てかけて、駅員たちが気持ちよさそうに目を閉じている
向い側には猫たちが座り、そして私の足元では何ものかが丸くなっている
足に、暖かいものを感じた
行き先のない電車はヤヒロで引き返し、再び鉄橋を渡り始めた
起きているゴミたちはみな顔を上げ、夕日に照らされた木根川橋を見つめていた
(2018年9月2日、京成押上線車内で)