かくある日日を楽しといふか

 

駿河昌樹

 
 

令和と呼ばれることになった
この列島だけの新時代もすでに六日目に入り
初夏というのに
うす曇りの朝はすでに秋めいている
枯れ果てた多くのものが
たんなる名称の変更では覆いきれずに
はやくも露呈してきてでもいるのか

斎藤茂吉の忠実にして有能な弟子
しかし慎ましやかで地味だった歌人柴生田稔が
戦中にこのように歌っていた

つきつめて新しき世も思はねばかくある日日を楽しといふか

 
時代と自己へのなんと見事な批評!
あまりに静かにさらりと一行に表わしてしまうので
細かく過去の詩歌を見直す目にしか
ともすれば
止まらなくなってしまうが

年老いて時におもねる文章は今日もひきつづきて夕刊に出づ

いたく静かに兵載せし汽車は過ぎ行けりこの思ひわが何と言はむかも

 
この列島に起こること
起こりうること
くり返されることは
すべて
柴生田稔がひそやかに歌って去っていってしまっているように見える
まるではじめて自分が発するかのように声高に
あるいは
新たな論や批判を提示するかのように矜持たかく
今さら言うまでもなしに
しかし
再三だれかが
くり返して言葉にしなければならないのも
たしかではあって

時すぎて人は説かむか昭和の代のインテリゲンチヤといふ問題も

 
 

 

 

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