遇うために

 

駿河昌樹

 
 

自由詩のかたちを使うのは

短いから

 
それだけのこと

そうして
なんの説得もしない
ことば並べを
ちょっと
やってみる

ちょっと

説得だけじゃなくて
なにも描かない

なら
もっとよい

むずかしいよ

ことばは
すぐに
描いたふりをしちゃう

すべては
音も想起させず
文字も脱ぎ捨てた
そんな
ことばたちに
いつか
遇う
ために

 

 

 

放浪無残

 

駿河昌樹

 
 

空白空こはいつの放浪無残老耄の母がみている海の夜の砂
空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白空白馬場あき子

 

文弱ということばがあるが
これをもっとも嫌ったのは三島由起夫で
文弱の徒と呼ばれないために
必死に文武両道を気取った

腹まで切って
首まで落とさせたのだから
たいした人生演出だったが
いざ遂行してみれば
あれは極端なまでの文弱の裏返しだね
と腐されたりする始末

そんな下馬評ばかり飛び交う時代を
幼少時にながく見てきて
腹切りまでしても文弱と言われ続けるのなら
プルーストのようにコルク張りの部屋に閉じ籠もって
じぶんの妄想世界に耽溺するのも
中途半端な維新ごっこより
突き抜けた生きざまになるかも
と結論するようになった

文弱の徒でなかった文士は
はたして
世界のどこにいるのかしらん
と見まわしてみても
ほとんどいなくて
皆どこかしら
太宰治していて
人間ひとりの生きざまとしては
やはり避けたいようなケースばかりだが
スタインベックなどは
ちょっと格好いいかもと思った

ふだんは肉体労働者をして稼いで
長編を書くときだけ
ガーッと集中して書く
それが終わるとまた肉体労働
高校卒業後にやった砂糖工場労働からはじまり
大学入学後に休学しての
牧場労働・道路工事・砂糖工場労働などなど
大学中退後の大不況下の田舎生活に
生活保護や食料泥棒

このようにしてしか
見えない社会や他人たちや人間なるものがあり
他人からの蔑視や差別や罵詈雑言を受け
金銭不如意をしみじみと肌に帯びて
そうして
まれに疲れのすこし癒えた時にペンを執る人にしか
書き込みようもない細部や
キャラクターや言葉の綾というものがある

放浪無残の人生のさなか
東京でホームレスをやっていた時期さえ
わたしにあることなど
もう
誰も知らない

 

 

 

コロナ儲け

 

駿河昌樹

 
 

(そう、富裕層にとっては
(大衆は操作して自分たちの資産を増やすためのただの道具に過ぎない

(大衆は目先の利益しか考えられないようにできている
(少ない利益を与えられたら、それで満足
(富裕層はそこを熟知している
(支配者側はそこを熟知している

世界経済フォーラム年次総会に向け
米経済誌フォーブスの長者番付や
スイスの金融大手クレディ・スイスの資産動向データに基づいて
オックスファムが2015年版の年次報告書を発表したが
それによると
上位62人と下位半数に当たる36億人の資産は
どちらも
計1兆7600億ドル(約206兆円)
つまり
超富豪62人の資産=下から36億人分の資産
上位1%の富裕層が握る資産額は
残り99%の資産額を上回る水準にある
しかもこの格差は拡大を続けている

そこへ
あらゆる点で綿密に計画された
新型コロナ騒動

アメリカでは 
コロナ騒動で4000万人が失業
他方 
FRBが大規模の金融緩和策を講じたことで
株式市場が急激に上昇し
トップ8人の資産は50兆円増
2020年度の日本の国家予算は102兆円なので
日本の国家予算の半分の資産を
数ヶ月で
たった8人が得た
アメリカのシンクタンクの報告書では
この3か月で増えたアメリカ富裕層の資産は5650億ドル(約62兆円)
“Institute for Policy Studies”は
富裕層の資産総額が
感染拡大初期から19%増加し
3兆5000億ドルに達したと報告している
アマゾン創設者のジェフ・ベゾスだけでも362億ドル増

世界規模で見ると
コロナウイルスの感染拡大騒ぎが起って
3ヶ月目の6月時点で
財政出動により世界に流れた金が 1180兆円
1180兆円は
日本の国家予算11年分にあたる
その金のほんの一部が米国の株式市場に流入しただけで
富裕層8人の資産を50兆円増やした

コロナを理由とする混乱がさらに続けば
さらに
どれだけの金が世界中に出まわることになるか
おそらく日本の国家予算の50年分
もし3~5年などと長期化すれば
100年分のお金が出まわることになる
5000兆円?
1京1000兆円?

コロナ騒ぎが収束すれば
余った千兆円規模の資金は投資市場に流入する
そうして
人類が経験したことがない規模の巨大バブルが到来し
超富裕層は
資産を何百兆円レベルで増やす

もちろん
数年後にはバブルが崩壊し
これもまた未曾有の経済破綻が発生する
コロナ対策で金利を限界まで引き下げて莫大な金融緩和を行った
FRBや世界の中央銀行には
その時
もう打つ手がない

超富裕層は
バブル崩壊も必ずうまく活用するので
地球上の90%の富を手にすることになる

(そう、富裕層にとっては
(大衆は操作して自分たちの資産を増やすためのただの道具に過ぎない

(大衆は目先の利益しか考えられないようにできている
(少ない利益を与えられたら、それで満足
(富裕層はそこを熟知している
(支配者側はそこを熟知している

 

 

 

キャサリン

 

駿河昌樹

 
 

要記録と判断した事柄は手帳に細かく記入している。
記入しておかないと後で困ることが多過ぎる。
もう朝。
開いたページの上に、黒いプラスチック軸のペンを斜めに置いてある。
書くのには0.7の太さが快適なので、黒字はこれしか買わない。
MITSUBISHIのJETSTREAM uni 0.7だが、
他にもより書きやすいものがあれば、躊躇なく買うだろう。
キャサリンと呼んでいた娘を急に思い出したが、
農業工場のようなところに就職し、茨城の奥に家族で越した後、
連絡は途絶えてしまっている。もう七年以上になるか。
町田や上野で飲んだことがあった。
日本人だが、猫のような目をした明るい魅力を持った娘だった。
ついこの間まで本名もすぐに思い出せたのに、なぜか、
思い出せなくなっている。
キャサリンという渾名だけがスッと出て来る。
 

 

 

たゞの空間のように

 

駿河昌樹

 
 

おそらく
たゞの空間のようになっていくだろう

空間を満たすひかりのようになっていくだろう

とりたてて
ひかりであろうとする必要もなく
薄闇のようでもいいだろう

漆黒の
まったき闇でもいいだろう

中心はなく

だから
縁も
境もなく
はずれもなければ
外もないだろう

 

 

 

ふいに真の恋に

 

駿河昌樹

 
 

わたしの詩の読みかたなんぞ
いいかげんである
なにをするのもいいかげんだが
詩なんかを相手にするときなんぞ
なににもまして
いいかげんである

けれども
いいかげんな読みかたをしてさえ
りっぱに引き込まれちゃったりするか
どうか
詩の見分けかたは
そこにあるような気がしている

いい詩というのは
読み手のいいかげんさを貫く
まるで
怠け者でぐだぐだで
あたまも悪い愚か者が
ふいに真の恋にだけは貫かれるように

 

 

 

発生即思い出

 

駿河昌樹

 
 

いまとなってはいい思い出だ と よく 言う

これもいつか いい思い出になるよ とも けっこう 言う

ぼくのいま現在の感覚をしゃべらせてください
毎瞬毎瞬が発生即思い出です
いつの頃からかそうなってしまって
もう
ありありと発生即思い出です
一瞬一瞬なにかが起こったと同時に思い出として思い直しているのです

あ 洗濯機がピーピー言って
洗濯の一回分を
はげしく懐かしんでいる!

 

 

 

花からもしっかりと見られているのでなければ

 

駿河昌樹

 
 

桜が咲きはじめている

もう満開のようになっている木もある
まだほとんど咲いていない木もある

ひとりひとり
異なった宿命を与えられている人の世のようだとも思いながら
桜の並木づたいに歩いていく

花を見る
花を愛でる
などと
平気で言ってしまいがちだが
見ることや
愛でることは
やはり
ほんとうにむずかしい
希少な瞬間に恵まれなければ
かなわない
ことでもある

花を見るとき
花からもしっかりと見られているのでなければ
見たとはいえないのだろう

この頃はよくわかっている

花がこちらを見てくれるまでには
ずいぶんと時間がかかり
こころの沈黙もかかる

こちらのこころの沈黙だけが芳香を発して
かれらの注意を引きよせる
沈黙が底知れぬ淵を出現させ
そこから花々を惹きつける芳香がのぼる

桜に見られたことはあるか

どのくらい
あるか

あったか?

それほどまでに
どのくらい
“居ない”
ことが
できてきていたか

 

 

 

いずれきみはそうなる

 

駿河昌樹

 

空白空白空白空白真の導師は、死のようだ。
空白空白空白空白空白空白空白空白空白ラジニーシ

 

ただ居ればいい
そのようにそこに居るだけでいい

ということを
忘れてしまっている人が多すぎて
ときどき
この世はわずらわしい

もちろん
なにを言ったっていい
叫んだり
わめいてもいい
跳ねたり跳んだり
寝転んでみたり
丸まってみたり
どうしたっていい

けれど
そんなきみは
ほら
すぐに失われていくよ

きみにとっても
つぎの瞬間
もう
いない
そんなきみ……

そう言ってやりたいことも
多いけれど
言わない

いまのきみは
死体
どのいまのきみも
死体

灰から灰へ……
という
うつくしい
正見

語るべき思いや
表わしたいこころが
ふいに失せた時に
きみでないものがはじまる
きみでないそれをこそ
きみはきみとしたほうがいい

いずれ
きみはそうする

きみが語りかけるべき相手も
きみが聞くべき相手も
すっかり失せて
こうふく
という言葉さえもう使わないきみの
とほうもない
こうふく

来る

いずれ
きみはそうなる

 

 

 

キリリ

 

駿河昌樹

 
 

わたしは抽象的なものが好きである
つかみようもないものをつかみようもなく思うのが好きである
はっきりしないものをすこぶるぼんやり語るのが大好きである

しかしながら
ことばはものに寄り添わせて並べるとキリリとする
ひとがことばならではのことばに触れた気がするのは
このキリリが随所随所に現われているような場合である

そこでいつも思いなやむのだが
抽象的なものをキリリと表わせたらいちばんだろうと憧れる
つかみようもないものをつかみようもなくキリリとやれたらと悶える
はっきりしないものをすこぶるぼんやりキリリできたらと恋い焦がれる