温度の瀬戸

 

工藤冬里

 
 

食い尽くす温度を正確に測り
温かさとの距離に明確に絶望する
私達は誰であれ、ボロアパートに住んでいる
将来修復されるのか、日々修復されるのか
今の気候なら 永遠に続く見えない虫の頭部と胴の隙間を
バックネットから我を忘れて覗き込んでいることも出来るだろう
決してあきらめないのはカモミーユの花
温度の中に浮かぶと透明だ
旗を待つ裏日本から心を広げようとするが
嗄れ声の雨の中 ヴェールが直線を覆い
島々の閉じた線が 解(ホド)けていっただけだった
瀬戸内海はこの温度のまま、池のように干された
泳いで渡るための直線は 寸断された
海の温度に従っていたので、もう名前を思い出せなかった
2011年の5月に、じぶんの葬式の段取りだけはしておかなければならなかった
身辺整理とアーカイブ化が交わる一点を現在地とし
ナビは海底の道を具象しようと彷徨う
家がない
白い霊柩車の行き交う地上に昇るまで
この航行の温度が家だ
線は強迫症と闘い
スナメリを見ては引き返す
温度の瀬戸

 

 

 

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