塔島ひろみ
涼を求めて入りこんだ天祖神社の境内に、洗濯物が気持ちよさそうに干されていた
降雨のあとの蒸し暑い夕刻、男は汗をぬぐうハンカチを持たない
干してあった女物のTシャツで、首筋の汗を拭き、またそこに掛ける
道に出て、少し歩き、自動販売機を見つけ、ポカリスウェットのボタンを押す
そして返却口に手を差しいれて、おつりを探す
おつりはない
体を起こし、すぐ隣にある「pokka sapporo」と書かれた自販機に移動
今度はボタンを押さず、返却口だけをチェックした
おつりはここでも見つからない
また少し歩く サントリーの自販機がある
適当なボタンを押して返却口に手を入れる
おつりを探す
ここにも彼のおつりはない
向いの溶接工場から、危険作業に打ち込む男たちの汗臭い笑い声が響いてくる
男は背中にその声を聞きながら、空っぽの返却口を指で叩いた
一台の軽トラックが走りぬけざま何かに乗っかり、メリッと小さな音を立てた
もう一台 白いホンダ車のタイヤがまた、同じ位置でかすかな破滅の音を立てる
車たちが走り去ったあと、道にこなごなに潰れた何かが残った
ネズミだった
また車が来た 開け放たれた窓から音楽が聞こえる
それは男の好きな曲だった
車は潰れたネズミの死体を轢いていった
それは私の好きな曲だった
(8月30日、奥戸4‐11付近で)
なんだろう。不思議な雰囲気の作品ですね。その不思議な感じが、また、なんとも言えない、いい感じです。また、次の作品を読みたいです。
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