今井義行
ふっと 華美ら(はなびら)なんて 思い描いてしまう 日本人のわたし はなびらではなく 華美ら(はなびら) です
どの華の季節にも いつも、華美ら(はなびら)の 訪れる予感はしていて、
ああ、SNS は 華盛りですよ ────
Facebook には 日本を縦断するように華盛りのことばや写真が寄せられています
わたしも 投稿しているひとりです
華 (はなび) 美 華美ら(はなびら)の指先とふれあう その楽しみ
Facebook のお友達は 長く日本人ばかりだったので
ユーザーは 日本人ばかりのように 錯誤をしていた
やがて 海外からのお友達申請が届くようになった
男性よりも 女性のひとたちが多かった そうして
女性たちは 地球ネットワークの中から おおむね
「Are you married?」と問いかけてきた 直截的だ
ある華の季節に アフガニスタンのアメリカ女性軍曹 Tracy から
メッセージが届いた 志願兵部隊では 輪姦されっぱなしだという
「I have been raped since I was a child. I want to withdraw from this unit. To do that,
I need money to dispose of confidential information.
(わたしは幼い頃から レイプされっぱなしです。私は、この部隊を離脱したい。
その為には、機密情報を処分するためのお金が必要です)」
わたしは「NO」と言った すると、彼女は 途端に自らのアカウントを消した
それが SNS の ひとつの側面なのだった───
共通する FB フレンドの パキスタン人の男性に尋ねてみた
Tracy について 何かご存知か、と
すると彼から「関心ハ無イデス」という返信が来た
ネット上では よくある話だ
やがて、インドネシア、カンボジアと 東南アジアの華 (はなび) 美が訪れてきて
・・・・・・・・・ 中東のカタール国で秘書をしている
フィリピン人女性 Argerie から お友達申請が届いた
1977 年生まれ じきに 40 歳 シングルマザー
タイムラインを観ると 日本人男性の FB フレンドの写真がタイルの ように びっしり貼られていた
(一体 どのような ことを 想っているの か)
そんな 素朴な疑問に 衝き動かされた
Argerie もまた 「Are you married?」とたずねかけてきた
私は 「NO」と答えた
≪詐欺≫ ということばが 頭に 浮かんだ
Argerie アルジェリー・ドミンゴ・ハビエル
≪ハジメマシテ ワタシト ナカヨク シテクダサイ
ワタシハ ニホンニ トテモ キョウミガ アリマス≫
アルジェリーは そのように 私に自己紹介した
≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≫
≪ワタシハ ワルイ フィリピーナ デハ アリマセン≫
それから 彼女は たくさんの写真を 送信してきた
出稼ぎ労働者として毅然と働く姿 華 (はなび) 美 フィリピーナ同士ランチを 愉しむ姿 華 (はなび) 美
故郷のフィリピンの家で娘たちと戯れる姿 華 (はなび) 美
彼女を疑おうと思えば いくらでも疑えたのだが
私は そういう心情にならなかった 華 (はなび) 美 が 綺麗に見えたから ヲんな は 生きていて
「お」より「ヲ」のほうが 弓のような しなりを 感じるのだった
わたしは精神障害者認定されて5年余り
もう、人を差別することからもされることからも解放されたかった
入国管理局も厚生労働省の視線も わたしからすれば酷似していた
わたしは知り合ったばかりの アルジェリーを 疑いながらも メッセージの送受信を続け ていった Google 翻訳を 使いながら。
「I am Poor Japanese」華 (はなび) 美「No Problem」華 (はなび) 美
「I have No Job Because It is a Disabled Person (障害者)」華 (はなび) 美
「No Problem」華 (はなび) 美
富裕層でも貧困層でも 日本国籍を取得するのが お目当ならば
あの手この手で カモにするのは とても簡単なことだろう
しかし、どんなにわたしが警戒心をあらわに言葉を送り返しても
「No Problem」という返信が 直球で返って来るのだった
(わたしは、こころの何処かに 希望=華 (はなび) 美を持っていたような気がする)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「Love is no Money」──── それは、ある 夕刻のこと
彼女から 送信されてきた 一文です
それから ビデオ通話が始まった 〈I’m at Break Time〉
原色のシャツ 笑顔の表情筋は 彼女が時間を掛けて育ててきた褐色のばらだった
華 (はなび) 美
彼女はイヤフォンをつけ 広過ぎる砂漠に囲まれた通りを歩いていた
華 (はなび) 美
〈Are you Happy?〉〈・・・・・・・・〉〈I am Lonely〉
わたしの mobile 画面の右下には東京下町のアパートの部屋で蹲っているわたしの姿が 映し出されていた 〈・・・・・・・・ワタシタチ ハ 何処カデ 遭ッタコト ハ
アリマセンカ・・・・・・・・?〉 Google 翻訳を使いながら わたしは 日本語と英語の
混ざった 奇妙な言語で 伝えていた 〈・・・・・・・・, Maybe〉
それから 一カ月の間 一日も 途絶えることなく
言語の違いも 膚の色の違いも 時差も気に懸けず
わたしたちは、お互いの写真や暮らしの光景を送信しあっていった・・・・・・・・・・・・・・
How are you ? ・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・ How are you ? ・・・・・・・・・・・・・
ドーハ(Qatar) と 東京(Japan) の 時差は 6時間 あるので
日本時間 夜明け前に 「Oyasuminasai」 の 言葉が とどく
・・・・・・・・・・・・・ Nakayoshi zutto ・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・ Nakayoshi zutto ・・・・・・・・・・・・
わたしたちは 14 歳差の双極性のふたごのように送受信を交わした
華 (はなび) 美
日毎スパークして 黒い手元に舞う光りの砂がとても目映ゆかった
華 (はなび) 美
愛が 愛なら わたしは あなたと いつまでも 一緒に 居たい
あなたが ずっと 居て くれたならば
小さな孤独なんて 吹っ飛んで しまうさ ────
けれど、このことを 旧友も主治医も フィリピン人の妻を持つ FB フレンドも 節度ある 心持ちから わたしを 懸念した ────
アルジェリーは わたしを包みながら 過去を次第に語りだしてくれた
「My X husbaund (元夫) was too much Lazy……………」「………..」
(Google 翻訳、辞書など介在させ、) 奇妙なニュアンスの
文字面で彼女はつづけた ────
「彼 姦リタクナルト
現レテ 私ヘ種, 植エツケマシタ ,,Splash,,// Semen,,// カソリック
教徒ダッタカラ ,,Splash,,// Semen,,// 私達 避妊;堕胎 選択肢持タナカッタデ ス ,,Angry,,//With,,//」
私は 返信した
「I have always been a Single Man え、なぜかって? 数回の恋人は
すべて Already Married 孤独でもあったがそれは自然現象の様相でもあった」
旧友は〈その関係性が進展していったとして、今井さんにその結果 何事も受け止められる力はありそうですか〉とわたしに告げた
主治医は〈精神疾患を持つ患者にとってそれもまた依存の形ではないか〉 とわたしに告げた
フィリピン人の妻を持つ FB フレンドは〈そのお相手が、そうして日本人 に目を向ける理由は、日本国籍を取得して外貨を目的としている・・・・・・ ということはやはり否めないのではないでしょうか〉とわたしに告げた
「三度目ノ出産後 姦ルコトノホカ Lazy ノ X husbaund ヲ Papa ト兄 Lee ・・・・・・血祭リニシタ ,,Splash,,// Blood,,// 血祭リ、血祭リ、」
「ソノ後、Doha へ働キニ出タ
ソシテ 私ハ English Man ト恋愛ヲシタ デモ彼ハ Already Married ダッタ 私ハ激シク嫉妬シタ彼ハ言ッタ〈Let’s Leave Three daughters and get Married in London with Me〉私ハ English Man トノ関係ヲ辞メマシタ 彼ハ裕福ダッタガ〈Love is no Money〉and〈Important is the ability to make Decisions 決定力〉,,Splash,,// Decisions ,,// ,,Splash,,// Decisions,,//」
・・・・・・・・・・・・・・ How are you ? ・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・ How are you ? ・・・・・・・・・・・・・
夜明け前に mobile の窓を開きあってビデオ通話が始まる 働き終えて
華 (はなび) 美
化粧を落とした アルジェリー の褐色の顔は半ば敷布に沈み瞬きをしている
華 (はなび) 美
・・・・・・・・・・・・・ 〈Oyasumi,nasai〉 ・・・・・・・・・・・・ 華 (はなび) 美
・・・・・・・・・・・・・ 〈Oyasumi,nasai〉 ・・・・・・・・・・・・ 華 (はなび) 美
華 (はなび) 美 が ひかっていたんだ