枕辺の

 

薦田 愛

 
 

めざめて
いた
ぼんやり
ひとり
ひとの
でかけてゆくひとの
くちづけに
めざめた
まえにだったか
足もとの
あけはなされた窓からきこえる
虫の音にふうっと
ひとねむりした
あとにもういちど
めざめてだったか
ほうけて
いた

花をかかえてまっすぐ
帰ってくる
ひと
おとこの
そのひととの床に
いるのだ
てあしのすらりとしたおんなの子が
ふたり
いる
おとこは
おこづかいをあげたりしてるんだ
という
たりって何
と、おもう
ひまもない
教科書の入ってなさそうな
かばんが
ほうりだされている
と、気づくやいなや
ふたり
みかわして
わらいごえをあげて
でていった
いってしまった

おとこは
ゆうべ
花をかかえてまっすぐ
帰ってきたのではなかったか
わるびれるでもなく
でかけていったのだろう
おんなの子たちのあとを
いないのだった
だれも
わたしたちの床には
あけはなされた
足もとの窓から
みおろしたのか
タクシーが
(と、おもった)
おとこをのせて
(と、おもった)

つづらに曲がるみちを
(未知、を)
いくたび折れて
その先でいつか車はとまる
おりた場所で
おとこが
荷を解いて積みあげて
とりにくる
だれかを待っている
まっている
(と、おもった)
わたしの
窓をとおく
よぎってゆく
ひとかげがそれであろう
(と、おもった)

虫の音がやむ
鳥たちの時間
朝、だ
まばたき
そして
目をあげれば
みえていた
(と、おもった)
かげは
プラごみ回収車の
はしりさったあとに
あとかたもなく
今朝のひたいをぬらした
おとこの
くちづけが
つれてくるかんじょう
(なみのけはい
(あるいは
(なみだににたなにか
(いえこれは

わたしを去った
あまたの恋の
卒塔婆をたてた野の末で
砕けた
対の茶碗がわらいだす
誰やらのぬけがらがおどる
にゅうねんに
あやとりするのは蜘蛛
地中深くから
蘇生して
けさ
くちびるのふれたあたりから
午前九時
あさいねむりと
わるいねがえり
いくども
いくどでも死んでゆく
細胞
その底で
とおくにぶく
うずく
それは
もえるだろうか
それは
分別をこのむ
指さき
朝の
こわばりを脱いで

今宵
ひとは
おとこは
帰ってくる
今日の花をかかえて
まっすぐ
ぬけがらでもなきがらでも
ない
おとこの
弁当箱をあける
かるい
梅干しの種がぬれている

 

 

 

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