自転車屋のおじいさん

 

みわ はるか

 
 

マンションの窓から向かいの自転車屋さんが見える。
70才近いだろうか。
白髪、眼鏡、中肉中背、すらっとしたおじいさん。
1階は自転車を売ったり直したりしている店舗、2階3階が自宅だと思われる。
カーテンという概念がおじいさんにはないのか、2階の部屋は夜になると中がよーく見える。
窓際にマッサージ付きかなと思われる大きな椅子、テーブル、その向かいにテレビが置いてあるようだ。
お店を閉めた後には必ずそこにおじいさんが現れる。
1人、何かを飲みながらテレビの方を見ている。
たまに大きな口を開けて笑っている。
たまに勢いよくビールだろうか飲んでいる。
外でお祭りをやっている日でも、数年に1度の台風が来た夜も、おじいさんはいつもと変わらず椅子に座って休んでいる。
とても幸せそうだった。

ある日、たまたまお昼にその自転車屋さんの前を通った。
おじいさんが仕事をしている時間だった。
ちらりと覗くと、おじいさんと目が合った。
口をもごもご動かしていた。
傍らにはお饅頭が箱ごと置いてあった。
いたずらが見つかった少年のように目をまん丸くしてこちらに会釈してきた。
わたしも軽くお辞儀した。
お饅頭の箱をそーっと後ろに追いやっていた。
なんだかとてもかわいらしかった。

これから寒い寒い冬がやってくる。
おじいさんはあの椅子に座り続けるだろう。
半纏でも着るようになるのかな。
熱燗でも飲むようになるのかな。

これからもこっそり迷惑にならない程度に垣間見てみようと思う。

 

 

 

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