放射

 

道 ケージ

 
 

そのとき放射が起きるのだった
下り沈み落ちゆく
娘はほっとしたように悔恨を包む

私の脂肪の臭気はこの深海では
ネクトンを呼ぶ
小さな蟹たちがよってたかって
つまんでくれる
かゆくないのに

「なぜ嫌いだったのだろう」
娘は考え、波は答えず目を背け
「せいせいした」と下の娘がおどける

放射と見まごうのは
イガイ科ヒラノマクラの蝟集
「マカロニに覆われてるみたい」

ガスで膨れ皮膚は障子のように破れ放題
骨までくずれ醜く臭い
圧力か、どうも動きづらい

それでも忘れないでほしい
と言うことを忘れてしまった
浮かべねぇなぁ

サンパウロ海嶺水深四二〇四mの海底における
鯨骨生物群集
四十一種の生物はほとんどが新種である
深海熱水噴出口と同様、シオリエビが群着
ベントスは鰓で適当を過ごす
正義はないから
硫黄酸化細菌と硫酸還元細菌およびメタン菌に頼る
任せた
腐りきっているから

そのとき放射は肉を裂き
腐食性多毛類の幾千
「静けさに堪えよ。幻に堪えよ。生の深みに堪えよ。
堪えて堪えて堪えてゆくことに堪えよ。
一つの嘆きに堪えよ。無数の嘆きに堪えよ」
とは原民喜である

琴クラゲは皇帝の好み
わが目玉に
触手を伸ばしている

 

 

 

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