野北の

 

道 ケージ

 

「黒々とした杙が何本も立ち
それが死を実感させた」
海辺の光景、安岡章太郎だな

「海辺の墓地」
鳩はいない、
ゼノンも亀もいない、アシルなんてさ
貝殻は骨のように白く

社は放火で焼けた
母の骨を、一応、食べてみる

浜では九大生が何人も泳ぎに来て
生を煌めかせていた
この四十九日

一週前の台風で浜は汚れ
やることもなく
ゴミを拾い出だす
キリがない
空き缶、ビニール、ロープ

小さな巻貝が幾つも打ち上げられ
腐臭は潮の香りに紛れ
不快ではない
小蠅とトンボが盛んにたかる

母はこの海辺に生まれたが
海も魚も好まなかった
死ぬ間際に「お母さん…」と
この野北の夢でも見てたんだろう

その母、つまりキヌ婆とそっくりの顔をして
薨った母、テル
私も父そっくりの顔になり
鏡を見るごとに
「少年」にもなるのだった

砂を玄関のかまちで落とす
黒い犬が吠える
叔母さんがよう来たと迎えてくれた
局長は鳥締めの血を洗う

ノキタかノギタかよくわからない
風なくて
いきたくない

 

 

 

準備

 

道 ケージ

 

春、午前一時
ゴミ出しで
廊下に出ようとすると
電話をとった妻が
お母さん亡くなったって

そうか、と廊下に出る
途端
ものすごい号泣
息が詰まるほどだ
崩れ落ち
こんなに泣くのかよと思う自分

息苦しくて
起きる

夢だった
福岡の兄にライン
あゝそう
「こっちは大事ないたい
すっかり誰が誰ともわからなくなったが
口から食べられるごとなった
ケージは? とも言ったったい」

昨夏、危篤、救急車に同乗
覚悟した
春、驚くほどの回復
ゼリーを食べた!
夏、また会う直前
本当に亡くなってしまった

棺におさまる母
こんなんなっちゃって
父への母の言葉
嗚咽

まぁ号泣はしない
ホッペを触る
冷たい

  いまさら孝行息子でもあるまい。よせやい。泣いたらウソだ。涙はウソだ…
  いまにも、嗚咽が出そうになるのだ。
  私は実に閉口した。(太宰治「故郷」改)

嘘だ嘘だ
泣くのはよしにして
飲みに行く

ついでに吉野ヶ里
カメに入った大王は
丸まって笑みをもらす

刀剣は出ない
印章は出ない
ここに卑弥呼はいないよ
汗だくの元自衛官のガイドが笑う

蚊をつぶす

 

 

 

む行

 

道 ケージ

 

「む」は「ん」と読む
むんむんムンムン
んは無音化する
むむ
むほんです

むはむむはむむはん
無は無
んーむ
ハム半分残しはんなり
無理じゃないん

無駄に麦を蒸す
ムハンマドむっつり
昔ムキムキ
無害の不精

無一文の村
無限の昔
息子に無理強い
ムズイとムスコ
無理
結んだ紐でむぎゅ

無我夢中で向かった
酷い
無間地獄
むせびなく

むき身無理やり
無銭飲食
無償の無罪
むく犬の迎え

無勢で多勢
無垢の武蔵
向こう傷
村雨無敵
無為に向かう

無闇に
胸元無造作
むせかえる
無邪気な夢精

紫むらぐも
ムンバイ無風
群れのムクドリ
無響

向かいの村
無辜の婿
無毛無関心
鞭打ち無情

むたいどすえ

 

 

 

何かの間違い

 

道 ケージ

 

何かの間違いだろう
オレの骨壷を母が抱いて
こんなんなっちゃってと涙ぐんでいる
それを見ているオレも泣けてくるが

元気そうな母を見て一安心する
箱の中の確かなカサカサ音

母はまあしょうないたいと呟いて
掃き掃除

どうも生きている心地なく
母に聞いてみたいけど
すでに姿なく

しょうなく箱に戻る
どう言えばいいのか

座間でFENを聴く
うまく聞き取れないことをいいことに
虐殺を命じている

喜んで応じるから
体をなんとかしてほしい

 
 
 
※ フランス語にしてみた
 

Une erreur, sûrement

Michi Cage

Ce doit être une erreur.
Ma mère serre mon urne funéraire dans ses bras
en murmurant, les larmes aux yeux :
« Mon fils est devenu comme ça, finalement. »

Moi aussi, je pleure en la regardant,
mais je me rassure
de la voir en bonne santé.

Un son sec et certain
vient de la boîte.

Ma mère soupire :
« Bah, on n’y peut rien. C’est la vie. »,
et balaie le sol.

Je ne me sens pas vraiment vivant.
J’aimerais lui demander,
mais elle n’est déjà plus là.

À contre cœur, je retourne dans la boîte.
Je ne sais comment le dire.
À Zama, j’écoute FEN.
Je fais semblant de ne pas comprendre,
quelqu’un y ordonne un massacre.

Je réponds avec joie,
alors, s’il vous plaît —
rendez-moi mon corps.

 

 

 

蛇崩れをひだりに

 

道 ケージ

 

折れるといたな
なにやっとるん?
イヤフォンで聞こえないようだ

少し口裂けて
八重歯黄ばみ
頰に金の生毛
目が青い

おーとかやーとか
うわべの呼びかけでは
目を合わせようとしない
爪を噛んでいるのか

見たことはある、当然
何なのかわからない
斜めからの風にやられる

うずくまる
茶器にも似て
肌触りでしかわからない

突然
振り下ろしやがる
顔面擦傷
ゲンタマイシンを処方

慶安丙午の生まれだと
どうも気性が荒い

お前には何がある
早く早くと迫るが
案外うわの空

腫瘍の字が書けない
打ち込めば済む
投げ出して夏

関わらない
知らないふりをすると
付いてくる
邪魔なんだがやはり

 

 

 

オンカーには逆らえないよ

 

道 ケージ

 

殺さるるより殺す
殺すより殺される
どっちもいやだなぁ
だから逆らわねぇだよ

オンカーの言うことは間違いねえだよ
そうすとくんだ
家族は皆連れんられた
どっかいいとこへ

何も話さないさ
何も言わねぇよ
何も考えない
逆らわないことだよ

なぜなんだかね
生き残るのは
弱いからだね
強い順に死ぬわな

オンカーってどこ行ったんですか

知らねぇな
そこいらにいるんじゃねぇの
オメェはどうなんだ

 

 

 

二見ヶ浦霊園
山本哲也先生十三回忌まえに

 

道 ケージ

 

「和」なんですが
多いですもんねと石屋
百合地区蘭地区すみれ地区

いくら探してもないお墓
月曜日は管理事務所の定休日
記憶は確かなのに
ない

墓じまいしたとかねと友人
もうすぐ13回忌やもん
あー、早めにね
そうね、あるかも

「和」をひたすら探す
「和」が多すぎる
海は広い

オレなら
生か無か
道はいやだ
謝、元、思、「し」
いっそ狂
無と謝はあったな

なぜ「和」なのか
生前聞いた気がする
すっかり忘れて

オジキの墓も同じ霊園に
こちらも見つからない
やっとこ石屋さんに聞けて
あやめ区とわかっていたので
すぐに教えてくれた
オジキとちょっと話す
石は風の声

オヤジは
飯盛山の西部霊園
「海」
これはたぶん一つだけで
見つけやすい
しかしなぜ「海」かはわからない

オヤジは元から
話さない
石もあまり話さない
潮騒は聞こえない

 

 

 

ミム

 

道 ケージ

 

宮坂弥栄
見たくない身の上
見知った未明
見飽きた道に
見過ごす三島
未完のミーム
見事に未来未知
水の都見ず
幹の味方
港、水面、美空
ミレー、実が惨め
翠、緑、みどり、味噌
見ず知らずの店で蜜柑
身に余る見誤り
溝の口、美輪明宏、道長の耳
眉間を見ろ
見ず知らずの未生
ミクマリの三毛
見た見た三宿
未来は南の岬
ミカエル天使見返す
身の程知らずミゼラブル
三國、御霊、妙竹林
水際、見事、見損なわず
未練がましく未婚
見捨てられ
未然未必未知未了
見もしない

 

 

 

僕は寂しい

 

道 ケージ

 

僕はさびしいって
んっんっんっ
ぼくは寂しいって
んっんっ

繰り返す人
高田馬場で降りるまで
繰り返し繰り返し
僕はさびしいって

外回りして内回り
外と内を逆に
乗せてみる
(変わんねえな)

ラーメン屋の旗が色を失って
はためいてはためいて

訴えるでも
言い表すでもなく
いろんな人の前で
ぼくは寂しいって
んっんっ

まぁそういうことだよ
ささくれ顔で流す

まとも坂を下ると
虚ろ音に出くわす

「死んだ方がまし」と言われ
病院に行けよで
鏡、砕けた朝
でした

 

 

 

マーサ

 

道 ケージ

 

まあさまあまあだ
マーサまだだ
まっいいかまだいいか
待つよ待てよ
舞う前、魔王まさか
摩訶不思議
ママン膜巻く枕
魔剣曲げ巻け
誠、真菰、真琴、馬子マゴまことちゃん
まさかまさしまたか
魔性魔女真白
まずまずマッスルマスター
麻酔マスクまずいマスコット
ませガキ混ぜ
末席まそっとマゾ
またねまたかまたぐまた
待たせたなマタイ
マタギマタンキ又郎
マッチマチマチ待ちかねて町田
マッチョ街場の祭り間違い待って
末端真っ白抹消末梢
待てってマテウス待てない
まとめ纏まどかまとも
待とうまとめて窓からマンタ
学んだ真名序
真夏まなこ眼差し
マイナス間に合うマニ教
マニアマニキュアマニアック
間抜け免れ
マノン目の当たり
マッハマッハマルハ丸々
真昼麻痺マフラー
真冬マフィンマブダチ
眩しいまふまふ
目深真帆魔法
まほろば幻
ママンママ友ままごと
見えるまみれた真向かい
マキシム魔夢まむし
豆つぶ豆まき豆状
まもなく守る摩耗
摩耶馬屋マヤまやかし
眉繭黛眉毛まゆみ
マヨネーズ迷って真夜中真横
魔羅マラソンマラカスマニラ
鞠まりこ摩利支天
マリンマリアマリーマリーナマリコ
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