水面

 

工藤冬里

 
 

水から上に出ている顔の部分は
裏のようでもあり
また泛子(ウキ)のようでもあった
数えれば十一だろうということは分かっていた
家族だからだ
人殺しや出産のものがたりは
水面より下で起こった
そこが表なのかもしれなかった
それでも裏を裏返すのではなく
表を「表返し」たこの水の上で
わたしたちは真理を享受するのだ
善悪を裏返すのではない方法で
わたしたちは呼吸しなければならない

母は四人で
長男は異母と寝ていた
次男と三男は人殺しで
長女はグレていた
そのようにして
排他的階級制度の最下層に居たが
裏を裏返して咲くのは花だけで
表を表返した水の上では
四男の末は王になり
十一番目は総理になった

古いラジオ放送の音質で
百舌がキチキチと啼いて
背の高い女と背の低い女が向き合ってはなしている
十一人の平和な住まい
殺しのない安全な家
ステップファミリーの心休まる平穏な場所で再び生きること
とはいえ雹によってフォロワーの多いアカウントは倒れ
東京は完全に破壊される
全ての水のそばで
椅子からずり落ちてゆく
すっかり変わってしまった水の面が昭和のようだ
裏が表として水の中にあり
表が裏として水の上にある

 

 

 
#poetry #rock musician

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