ピコ・大東洋ミランドラ
空だ
と思った
彼女の頬づえついた横顔のその先にあるもの
口を固く結んで少し悲しげで
天窓から流れる風が
僕と彼女の静止したままの柔らかな関係を
そっと揺らす
マグカップに残るわずかなぬくもりを両手で包み込みながら
彼女の先にあるものを探す
ブルーマウンテンが香るコーヒーメーカーの先
窓ガラスの向こう
そして
そのもっと向こうにあるもの
街?
そうじゃない。
愛し合った時間のその先
彼女は一瞬うつむいてから
静かに目を閉じた
それから
溜息をついて僕の方へ視線を移す
彼女の潤んだ瞳の奥に
僕と僕のマグカップが映っている
空だ
彼女はきっとわかってくれると思っていた
だけど
僕が自分勝手すぎたから?
彼女の思いをくんでやれなかったから?
僕は彼女を悲しませてばかりだった
空だ
彼女にぽつりと言う
彼女は微笑みを浮かべ
窓の方をちらりと見て
立ち上がる
「わかったわよ! いちいち『空だ空だ』なんて催促しないでよ!空っぽだと思ったら自分で勝手にコーヒー入れたらいいじゃん!アンタの方がコーヒーメーカー近いんだからね!」
そう言って彼女は立ち上がって
ブルーマウンテンを僕の空のマグカップへ不機嫌そうに注ぐ