村岡由梨

 
 

娘たちが、壊れた。
周囲の大人たちの毒に侵されて
ついに、壊れてしまった。

自宅から12km離れた病院に入院させて、
帰り際、もう一度一目会うことも許されず、
私たちは、
第三者が管理するドアの鍵によって
いとも簡単に分断されてしまった。

自分の子供が苦しい時に
側にいて手を握ってやれないなんて。
帰りの電車の中で、涙が止まらなかった。
身勝手な涙だった。

私の身勝手。夫の身勝手。
私の両親の身勝手。夫の両親の身勝手。
私のきょうだいの身勝手。
夫のきょうだいの身勝手。
私の両親のそのまた両親の身勝手。
夫の両親のそのまた両親の身勝手。

身勝手は伝染する。
いつか誰かが断ち切らなければ。

大人になりたくない、
ずっと子供のままでいたいと、
現実から目を背けて、逃げていた私。
けれど、それではダメなんだ。

私はもう大人で、
娘たちを保護して
命をかけてでも守ってやらなければいけない立場なんだ。

思えば私は、口を開けば自分の話ばかり。
娘たちの言葉に、真剣に耳を傾けることがあっただろうか。
こうして言い訳みたいな詩を書いて、
どこまでも自分本位の私に、反吐が出そうだ。

娘が言った。
「ママは人に、本当のごめんなさい、や
本当のありがとう、を言ったことがあるの? 」
そう言われて、私は言葉に詰まった。

 

ある日、飼い猫が、無邪気に私の肩に飛び乗ってきた。
その瞬間、鋭い爪が私の皮膚を引き裂いた。
何の悪意もなく、引き裂かれた、皮膚。
血がジワジワと染み出してきて、
ヒリヒリと痛んだ。
「これはまずいね」と言った夫が、
抗生物質を塗ってくれた。
「これ、たぶん痕に残るよ」
と言われた私は、
ジワジワと血が染み出してくる傷痕を
いつまでも
いつまでも、見ていた。

今この瞬間に子と引き裂かれてしまう悲しい親は
世界中に数え切れないほどいるだろう。
でも、私には、眠と花がいる。
ごめんなさい。
ありがとう。

いつか娘たちに心の底から信じてもらえる日まで。
時にもがきながら、生き抜いてみようと思う。

 

 

 

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