受話器より 雁の鳴き聞く ビルの窓

 

一条美由紀

 
 


踏みしめればガシャガシャと
音がする気持ちを隠し、
今日もなんとなくやり過ごす。

 


足元は霞空
柔らかい繭はポコポコと生まれてくる
わたしは多分そのうちのどれかに入ってる
行こうか、
行こう

 


遠くに住む母との電話
ご飯は食べた?
薬は飲んだ?
毎日同じ会話を繰り返す。
認知症の母にいつもと違う質問すると、
意味がわからなくなって、あ、誰か来たと嘘をつく。
母の世界は徐々に小さく硬くなっている。
小さくなる世界は、輝きを内に秘めて
いつか放たれるのだろうか。

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です