穴出し蜥蜴 誰ぞに呼ばれん

 

一条美由紀

 
 


夜明けと共に勘違いした幸福感は剥がれて
人 イコール 一人 とメモる
毎回同じことを繰り返し
やっと他人との距離感を確定する
頭上ではハッピー、ハッピー
と鳥が鳴く

 


誰も住まなくなった家の床が
揺れるボートのようにぐにゃりと沈む
散らかった家は惨めな痕跡となる
立ち止まる風と時間だけがその営みを覚えてる
やがて記憶は薄れて霧と漂う
いつか全てを忘れて空からこの地を見た時、
私は泣くだろう、意味もわからずに。

 


俺が死んだら猫飼うの?
君が先に死んだらホームに行くよ。
どちらか一人になったら寂しいな。
お互い何とか長生きしようね。

 

 

 

雪も命も 溶けていざなう 月の人

 

一条美由紀

 
 


アンダーラインをつけていた気持ちは
1枚の花びらより軽かった
消えてなくなってみれば
意外といらないものだった

 


今日はどの顔で過ごそうか
繕わなきゃ普通に生きれない
みんな自分に色を乗せてなんとか上手くやってる
不確実な明日を見たくなくて
ヘラヘラ笑ってやり過ごす
積み重なった雑事の多さに思考を停止
共感求めて動画を漁る
歯の欠けたじいさんと安い酒場で意気投合
大した哲学者のごとく語り合い
内心はお互いを否定する
高層ビルに反射する朝日は嘘くさい
出勤の靴はやたらと重く
大声で悪態つく妄想に救われ
今日も立派な常識人
金を数えに歩き出す

 


土をかけられた棺の中のあなたはあれからどこに行ったの?
夜私のベットにふんわりと腰掛けたの、わかっていた
でも死んだはずのあなたを見るのが怖くて
目を開けることができなかった
あの時ちゃんと見ればよかった
幽霊の姿になっても会いにきてくれたあなたの姿を

 

 

 

荷一つでぬかるみ歩む 冬景色

 

一条美由紀

 
 


欲しいのは、
気持ちのいい会話と小さな満足感

 


失敗の数と叶う夢の数はイコールではない
でも後に残るベンチには誰かの言葉が揺れた

 


狂気と理想はいつも混在してる
狂気を一枚ずつ剥がしたら、
赤ん坊の私が生まれた。

 

 

 

色変えぬ松に夢見し 行く道々

 

一条美由紀

 
 


喰らえば喰らうほど腹が減り、
憎めば憎むほどに恨みは募った。
やがて彼の肉体は歪み、
薄黒い異形と成り変わった。

 


その村の墓には墓ごとに草刈り鎌が刺さっていた。
死人が生き返ってこないようにとの風習だった。
ムササビが飛び交う村の中央にある大きな沼には鯉が放たれ、
初夏には蓮の花、秋には鯉祭りに村は華やいだ。
田に放たれた鯉の幼魚に早朝餌を与えるのが子供の仕事だ。

ある時、
幼い子供とおばあさんがその沼で溺れ、子供が亡くなった。
以降蓮の花は咲かなくなった。

鯉祭りは行われなくなり、村の過疎化は進んだ。
お墓の草刈り鎌は抜き取られ、今は普通の墓地と変わらない。
村の人々が大事に守ってきた神さまのいる山は、誰かに売却された。

私は故郷を離れ、その村に帰ることもごくまれになった。
美しい里山の人々の営みや祭りを楽しむその声だけが私の心に残る

 


やまびこは答えた。
だが、言葉はバラバラと散らばっていった。
追いかける記憶は少し凍えていたが
優しく佇んでいた。
それでいいのだとわかった気がした。

 

 

 

露寒の指に触れるや小さき花

 

一条美由紀

 
 


ワタシハワタシノナカノ彼女デアル
彼女であるワタシはワタシの全てを知っている
でもワタシは彼女であるワタシを拒否し見ようとしない
彼女であるワタシはワタシの一番の味方であり友人でもある
彼女であるワタシは時に固く小さな実となる
そして待つ
ワタシをワタシが理解してくれる時まで

 


生まれた時から数字で考える機械と育ち、
この世は自分たちとは違う命の形があることを知っている
肉体だけに命が宿るわけではないの
私たちは浮遊する、肉の塊を超えて
私の実存は機械の中にもあり、あらゆる世界と繋がっている
私は我々で、我々は私
個人の肉体を超えて未来を見つめてる

 


言葉遊びの結果は二次元で終わる