旅立ちが遺すものは

 

ヒヨコブタ

 
 

真っ黒に焼けた顔でにかっと笑うとき
少し黄ばんだ歯がのぞくのを覚えている
その口で
俺は学がないからねといつも口癖のように

学がないということの意味はそのうちにわかってきた
祖父母の意向で長男だけは上の学校に進めなかったこと
代々の土地を
畑作を守るためのひとだという理由で
さして年も変わらぬおばは女学校に
兄弟姉妹を親が働く間子守りまでしていたのはそのひとだというのに
にかっと笑うその笑顔はすこしさみしそうで
自嘲気味のことばも
意味がわかってくるたびにかなしくて

存分に与えられたのはお金だったろうか
本当に欲しいものは
ほんとうは
愛情だったのではないかと

気弱な父と姑に逆らえぬ母をそれでも慕う
そのおじが
旅立った
いつもかあさん、いるかい?
と裏口から入ってきて
人形遊びをしている姪にちらりと視線をくれるひと

親同士が仲違いをしてもうしばらくになった
会うこともかなわなかった

こうしてひとりひとりのおじやおばが
旅立っていく
わたしにすこしのさみしさと
温もりのある記憶をおいて

行かないでと幼ければ泣いたろう
いまは
行ってしまうことの安らぎを願う
またあたらしい日々が戻れば
週明けにはにかっと笑うのではないか
幼いわたしに残したおじの笑顔が
焼きついて消えない

 

 

 

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