いとおしいのは

 

ヒヨコブタ

 
 

愛憎どちらもいとおしいと
友はいう
素直な気持ちに胸がすく
わたしはそうなることはできないだろう
憎しみとかなしみが寄り添って
いとおしくいる気がしてはっとする

人類史上稀にみようと
今日もわたしは息をして
明日もまた息をしていると思いこんでいるのだ
そうやってつないできた日々は
いつまでも続くはずもないというのに
果てしなく絶望することもないのはなぜか
考える
そしてまた途方にくれる

愛がいつもみちみちていることは
どれだけ大切なことか知っている
つもりだ
溢れてしまえと思う
ひとりひとりに溢れる愛が
どうかありますようにと
しんとした夜に
はりつめる朝がくるまえに

目を瞑り祈る

 

 

 

混沌とした

 

ヒヨコブタ

 
 

混沌としたというには

あまりにあんまりに
ずっと黙っていたくなるただそうやって

ときにひとがおそろしくなるなら
なんのためにひとと生きるのだ
他者と生きるというのはなんのためなのだ

おそろしくてもおそろしくなくていい寄り添えずとも
日傘傾げあうぶんはなれて歩いていていいのなら

そうしたいのだ
他者のなかにうずまく不安をみても
わたしにはそっと閉じることくらいだろう
あまりの不安からそっと

いまは
この混沌以上のなにかが揺れ動くのをやめた世界をみたい
みんなでみたい
ひとり残らずみんなで
こどものころのわたしのような願いだ
お金儲けでもなんでもすればいい
わたしの願いは
その先の明日がみたいだけだ
こんなこどもにとってのあたりまえを
願えば叶えられることがありますように
誰も欠けることなしに
どうかみんなでみたいのだと

 

 

 

増産される、のは

 

ヒヨコブタ

 
 

ひとが
ひとが怖くなるこんなとき怖くなる
ウイルスへのおそれのほうがわかりやすい

ひとは
ひとは鬼になる
大切なものを守るというたてまえで

幼心にそんな母をみたことがある
わたしは怖かったが母は笑った
その笑顔はほんとうじゃない
本物の笑顔だけください神様

誰かを蹴散らし誰かより上に行き
誰かを嘲りわらうためにいきているのではありません
たぶんほとんどのひとが
そうだと信じています
だからお願い

もう叩きあうのはやめにしませんか
そっとほほえみあいたいのです
抱きあいたいのです
泣きじゃくりあいたいのです

傷を誰しもがもっているなら
優しく手をあてていたいのです神様

 

 

 

春の嵐のような

 

ヒヨコブタ

 
 

春の訪れを
喜ぶ地域で育ったとき
いまのこの寒ささえ永遠ではないと知っている確かな喜びがある
ある

一足ひとあしずつ進む
賽子を転がすのではない
人生を誰かやなにかにとらわれるのではなく
とらえて生きていきたいと願う
願う

わたしたちの日々は穏やかであると
信じて生きる
生きる
生き続けている

他者のなにものにもふりまわされぬよう
生きる
生きていたいと願う
願い続ける

静かなばしょに
そのこころのなかの誰にも入ることのできぬばしょにいるとき
こころも凪いでいく
凪いでいく

なにを恐れよう
なにを

迷う
迷いながら
静けさに身をゆだね
こころも軽やかになるまで
わたしはここにいたいと願う

ことばの魔法はいつも
ひとことでも
自由だろうか
自由だと信じている

 

 

 

少女のようなあなたの旅立ちに

 

ヒヨコブタ

 
 

話上手なおとなのなかその人はいつも静かだった

 
話すことで人をひきつける魅力をもつおとなより
とつとつと話すひとのことばを聞き漏らさぬように観察していた
おとなの輪のなかに入らぬおとながいてもいいと知った
悲しいときにそっと静かにしているおとながいてもいいと

彼女らしい旅立ちというのは酷すぎる
いつもどおり好き勝手な話が飛び交いはじめても
彼女はもう傷つかないでいい
わたしをそっと見守り
わたしの話を聞き取ろうとしてくれたそのひとは
たしかに
旅立ってしまった
たくさんの編物をありがとう
こころをこめて偉ぶることもないその贈り物が宝物だった

どんなに会いたくともこうして別れゆくなら
彼女のよく笑った顔をこころに切りとっておこう

さようなら大切な
少女のようなあなたへ

 

 

 

扉を開き、その世界にいること

 

ヒヨコブタ

 
 

静かな世界をもっている

どれほど周囲がけたたましくとも
静かな世界のなかに他者をいれぬこと
そのときだけ
ほんのいっしゅんだけは

いつからかざわついたこころからもはなれて
その世界にいるとき
自由であるのかわからずとも
ひとときの、ほんのひとときの

悪意に満ちている、と誰かがいう世界があるのか
善意だけを信じようと必死なのか

わたしはどちらにもなることはできないだろう
どちらもあり続けてきただろう

現実世界から去っていくことに加担するのは
なぜなのだろう
加担したひとほどそのじじつからは目を背けるのは
誰も去る必要はないのだ
去らせることに加担してはならぬのだと
自らには
自らにだけは

ことばが通じあわぬときの苦しみも
気持ちがかよいあわぬときのかなしみも
溢れすぎるとき
わたしはこの世界からいっしゅん離れる
現実からいっしゅん

痛みがあることを嗤わないで生きていきたい
そんな世界だけではないと
ひたすらここまで

小さな猫たちの
温もりだけではないことの現実と
わたしの現実世界との重なるぶぶん
そうではないぶぶん

もう少しだけ
静かな世界にいる

 

 

 

Rebornと小さなふたつのいのち

 

ヒヨコブタ

 
 

ちいさなからだで
わたしより早い鼓動で
声をあげる
その声やしぐさから読みとることができぬほどの
初心者と暮らす猫たちは
幸せになってくれるだろうか
いいのだ
わたしたちが読みとろうとし続けることだけやめずに
そのこたちとの日々がいまここにあるのを
感じ続けると決めたんだ

旧き友はわたしに
あなたのRebornをただ嬉しいと
よき猫先輩の重くあたたかなこころ

かつて詩人が書いた猫について
かつて作家の書いた猫への愛

そのからだに手をやるとき
目一杯撫でるとき
思い出す

すべてがこちらのエゴであるとして
それを忘れずに生きよう
あなたたちと生きるこれからを
毎日振り回されているいまを
懐かしむことをたぶんわたしは

ことばの伝えられぬものの声は
しっかりきいてやりたいのだ
祖父がかつてそう貫いたこころに
わたしも新たに重ねていこう

 

 

 

秋が近づくとわたしは

 

ヒヨコブタ

 
 

秋が
近づくとわたしは
秋がうつくしいことも
冬への準備が始まっていることも
見たくなくなってしまう

落ち葉となる葉を選んで踏み歩くというのに
そのこころは軽やかになるはずと知っているのに
なぜだ
すっとしみる記憶の日々が連なる秋が
いつも
すこしだけ見たくなくて
けれども
冬に続くその時季を
ほんとうは
愛していると

ゆれる
ずっとずいぶんゆれる
こころがゆれる
ゆらす手は
わたしの手だと
知っていても
すこしだけいつも
こわいとも思うのは
うつくしさもかなしみも両方なのか

だいじょうぶ
ほんとうは知っているのだから
うつくしさのある世界を

 

 

 

いつもいつかの夏のなかで

 

ヒヨコブタ

 
 

いつかの夏をわたしは知らない
体験はしていない
ただ感じて
読みとって過ごしてきた

たいへん遠い昔の
歴史のなかにあったことと
幼いころ思っていた
いたましさについて

考えないことはなかった

いまのじぶんから見たその夏は
そのじだいは太古ではなかった
いっしゅんいっしゅんの連続のなかにいつも
いたのだろうかというのみだった

水を求めて暑さをしのぎたいのは
いつも変わらずとも
じぶんの変化はじぶんも見てきたこと
他者の変化を変えることはできないだろう

いつかのなんらかの区切りというものの
意味とは
先に旅立ったひとののこしたものとは
わたしのなかでよりわけて
あたたかになる道を選ぶ

大切にしたいことが数えきれなくても
すくなく思えても
どちらもいっしゅんの連続でここにいる

水の流れのようになるべくの穏やかさと
木々の成長のようにたゆまぬことと
寄り添いたいと
願うことと
わがままに散々に混じりあう

途方もないわがままのようにも思うとき
すこしたちどまる
こころは全速力で駆け出したとしても
ぼんやりそれを眺めるように
過ごすことも

のこされたことのなかにヒントがあるとき
ただ嬉しいと思う
いつまでも迷子でもなく
迷子のように見えてもそこから
すっと這い出ていることも
確かにあるような不思議

不思議とあたたかさにつつまれていても
悩むのはなぜか
戸惑うのはなぜか

考える
そして休む

駆け抜けることはないだろう
すっと寄り添いたいのはときに傲慢だろう
傍にいるじぶんがわたしに語るとき
はっとすること

難解なドリルなのか生きることは
そうとらえるのかどうかも
じぶんに問いながら
大切にしたいと思うひとのこころを
踏み荒らしたくないと

過度ななにかより
あしもとがどこにあるかを
見つめて夏
駆け出そうとするこころを少しだけ止める
じきに

旅立ったひとへの思いもさまざまな
秋がくるのを見ている

 

 

 

他者と、生きる日々に

 

ヒヨコブタ

 
 

バケモノだ

何かを区別するこころになにが棲んでいるのだ
おそらく
じぶんがバケモノになることを恐れ
何かをバケモノとすることのほうが
簡単ではないのか
容易いことに流されたさきに
何があるのだ

考える
考え続ける
じぶんと他者との異なるぶぶんが
重なる可能性について
考える
考え続ける
眠る

思考の健全さというものの
それぞれの異なりかたについて
重なるぶぶんは
あるのだと信じてきた
じぶんこそが健全だという主張のなかの脆さは

かなしみにつながっていくときがある
わたしにとって

傍らにいるその誰かは他者だ
よく知っているつもりの
他者だ

耳を傾け全身でききとりたいことが、ある
ひととの関わりに疲れたとき
わたしは眠り続けるだろう
目を覚まし、力が戻れば
また歩きだしききとろうと感じとろうとするだろう
歩みを止めるのは、まだ嫌だと内なる声をききながら