季節がよくわからぬ日々

 

ヒヨコブタ

 
 

体調よくないターンに陥る
とにかく寝すぎていて起きていない
ここまでは久しぶりかな
外の風があたたかいのかもわからぬ日々
時折少しだけ歩く
問題の根っこを知っている
と思いこんでいたのだけれど
だとしたら生きるしかないんだ
ここでこの世よさらば! 
なんてまったくの論外
わたしはこの生にしがみついて生きるのだと決めたのだ
けれども年齢的に若過ぎもせず、熟成もされていないちゅうぶらりんのわたしは
何を見、何を書けば生きていけるのだろう
何もかもを見て、何もかもを書き出したいのに
今はその時ではないということか

私のあとに何が残るのだろうな
誰の記憶にもあまり深く刺さらぬ存在でいたいような
けれどもことばだけは誰かのこころに
ずんとくるいっしゅんくらい、あったらいいのに
高望み高望みと、通院帰りをとぼとぼ歩く

 

 

 

繰り返すな、大きな過ちを

 

ヒヨコブタ

 
 

わたしが幼かったときこの国はもう戦争は起こさないだろうと
思いこんでいた。
その頃周りに戦争のさまざまを知っているひとが、語るひとがいたから
その苦しみをもうさせたくないと言うひとがいたから
わたしはじぶんの国のことよりも、よその国で止まぬ戦いに涙し祈っていた
明日こそは誰も理不尽に死にませんように
ちいさく拙い発想でもそれが叶うと信じていた

今、この国の進む未来に
昔年寄たちが話していたことの正しさに怒りときに
落涙する
人間は愚かだから、過ちを繰り返す
戦争も時が経てば忘れたようにおこすかもしれないんだと
そんなはずはない、あなた方の苦難を覚えていればそんな将来にさせないと
確かにあのとき思っていた

なぜ過ちにつながることをするのだ
あなたは無事でも、その子ども等が人を殺さなければならぬ道につなげてはならない
おのれのいっしゅんの欲望のはけ口に
戦争を持ち出すな
その欲望のためになくなる命があってはならん
あちこちが破壊され、なぜ我が国だけが通常でいつまでもいられると思えるか?

今のこの国に一旦失望し、前を向こう
あきらめない
誰の命も人生もあきらめない
わたしはそのために生き延びたのだと思うから

 

 

 

つぶやきのなかに、説明のなかに

 

ヒヨコブタ

 
 

しんと響く文章を書くひとがいる
それは重さを感じるときもある
このつぶやきの世界は断じて腐ってはならぬと願う
腐ったことばがならぶのは断じて
とひとりで熱くなりもする

とあるばしょで外国製の物の説明書きからその国のことやその歴史にひきこまれて夢中になった
その対象そのものももちろんだが、書き手の情熱が伝わってくる喜びがある
他者はさまざまに人生を重ねているのだ
考え方や身につけたものから教わることにわたしはどんどん向かっていく
それが趣味の世界であっても
物について興味深く思うより、さらにことばの世界にひきこまれるというのはわたしにとっては幸せだ
他者から教わるということはとても興味深く面白い
それは本のなかだけではなかったのだ
これからあとどのくらい探しめぐりあえるだろう
楽しみに思っている

 

 

 

いい人とかまともな人とか

 

ヒヨコブタ

 
 

精神科へコンビニのように通うことができる世の中にしたいと主治医はかつて思っていたと
そしてそんな世の中が近づいてきたといい
わたしはふとじぶんの人生をふりかえる
どうも疲れが抜けず緊張感にさいなまれて生きていた頃、それが希死念慮までになるのであれば
病院に連れて行くのが特に親というものではないか

けれども世の中でいい人、まともな人と見られてきたわたしの親族たちの大半も偏見にみちていた
きょうだいは今でもわたしを
変な病にかかっている人という
変な病だから付き合わないというのはどういうことか?
血も涙もないなと思う

じぶんだけが特別でじぶんは大丈夫という人はとても危うい
具合が良くなければ薬をのむのは一緒だろうに
彼らの思考がとても息苦しく追いかけられるように感じる

いい人やまともな人と呼ばれる人に
わたしはなりたくない
心がある人と呼ばれたい

 

 

 

新しい診察科目

 

ヒヨコブタ

 
 

思えば昔から頻脈だった。
スポーツ少年団では長距離を走ったあと、脈を測るのだが、しばらく経っても脈がはやく、コーチに走り込みが足りないと叱られては
苦しいなと思っていた。
走るのが好きで、誰も見ていないところでも走り込んだりしていたが脈が戻ることはなかったのだ。
よくわからぬまま時折心臓の痛みを感じながら大人になり
せんだって、叔母を心臓の病で亡くした。
どうにもこれは頻脈だけではないだろうと
病院に。
血圧が高いですね。脈もはやい。
医師はとても優しいのだが気分はよくない。
血圧が高いのは予期していなかった。
それぞれが都合し合って生きているのだから、となんとなく自分をなぐさめて
帰宅する前に血圧計を買う。
この年でまさか血圧計のお世話になるとは、と医師にもらった血圧手帳を眺めながら
毎朝毎夜血圧計とにらめっこなのだ。
なんとも情けなく血圧は高く脈もはやいまま。
まだまだ始めたばかり、力をそっと抜いて
腕を通してしっかり布を巻きつける。

 

 

 

2023の終わりに

 

ヒヨコブタ

 
 

今年もあと数日、というところでやってきた落とし穴のような闇
いつも何度もおもってきたのだけれど
結局のところはわたしは生き延びられている
今回も新しい年になればふっと軽くなるだろうか
そしてわたしはあといくつ年を重ねるのだろう

いつもきれいに色づくイチョウが、色づいたことの美しさと、また例年よりものすごく短期間で落ちてしまったことを
家を出られる日、裏表の気持ちでながめていた。
死について考えるのは無責任にも自由で
わたしのその時はいつなのかすらわからない
大切な人たちのそのときは覚悟はあるというのに、じぶんにいたってはまったくだということも

誰とも別れたくはないのに、それは決まっている
わたしはもう少し強くならねば
強くなることも芯を持つことも
じょじょに身につけられますように
その日までに間に合いますように

 

 

 

ボビーとオリビア2023

 

ヒヨコブタ

 
 

永い眠りについたその人は
わたしの片思いびとだ
子どもの頃からそう公言し、何度もあきれられてきた
けれども彼の歌のボビーのように諦めることもなく数えればながい時間が経っていた
歌詞の意味がわからないほど子どもだったわたしには、それすら懐かしく思える
初めて家を出る、というのを文字通りに捉えて家族もあきれていたがそれも今では可愛い思い出のよう
彼が居なく、難しすぎるピアノ伴奏を作り上げることもなく、語学を学ぶこともなく、突然海外に行ってしまうこともないと思うと
やはり悲しい
悲しいとしか言いようがない
いつまでも私の思いびとは変わらずこのひとなのだ
東大を目指すといったこともあるな、音大に入ると言ってもいたな
けれども彼が人生最高の伴侶を見つけたとき
嬉しくて悲しくて部屋で飲みつぶれたな
だめだよ、彼女を置いていくなんて早すぎるよ
そんな珍しい病気になってしまうなんて、あなたらしすぎて悲しいよ

毎日どれかは口ずさみ、じぶんの脳内にどれほど彼の曲が遺されたかを知る
そしてその度涙が出る

あんなに優しくて心遣いも一流なアーティストのあなたが
もう居ないなんてこの世界は何なのだろう
わたしには考えれば考えるほどわからないのだ
あなたが美人と公言して憧れたひともあなたを思う記事を書いていたよ
なんだ、本当に良かったじゃないか
がんばったね、大好きなひと

わたしはあなたの遺した演奏会の幕が閉じても立ち上がれずに泣いているあの日と同じようにまだ、泣いているんだ

 

 

 

すべての性犯罪者よ、さらば

 

ヒヨコブタ

 
 

何十年かけて犯し続けた犯罪なのか
世の中を騒がす性犯罪者のおぞましさに
じぶんのなかで闇に葬ったことがよみがえりそうになる
落ちついて、深呼吸する
可愛い子ではないと変質者にはあわないなどと
大人が言うじだいにわたしは居て
可愛い子ではない私にはそんなこと起こるはずがないと笑う母をじっと見るしかなかった
違うのだよ、変質者は顔で対象を選ぶばかりではない
大人しそうにひとりでいる子が好きな場合も多いんだ
それに当てはまってしまうわたしに
何が起きたかなどもういい
わたしにとっての変質者を呪うのは終わったんだ
眼の前の被害によりそえたらいいんだ
嘘だと決めてかからず
笑い飛ばさずに聞いてこころを傾けたいと思う
いつでもそう生きていられたらと思う
悪夢は短い方がいい
信じるよ、私はというスタンスを
わたしはこれからもまもり続けたいのだ

 

 

 

父を送る

 

ヒヨコブタ

 
 

何度もねばり息を吹き返した人が
その生涯を終える日がきた
各所に連絡し決めることはあまりに多く
でもどこかぼんやりしてしまい
私は泣けずにいた
いまは火葬するのも順番待ち
父はずいぶんと安置されることとなった

その人生は嫁として振り返っても容易でなく
悲しくさみしいことも語れぬほどあったろう
幾人も先に旅立った人たちを思っても
父の人生は壮絶だった
思い返しながら手を動かし頭を働かせる
その人の穏やかで優しい笑顔に
いつもさり気なく身なりをほめてくれる人
父のことを慮ることばをわたしはかけただろうか
今となっては伝えたいことも連れて行く場所も夢のまた夢

戦時中の疎開先から戻る夜汽車は
心細かったろう
少しの握り飯を父へと分けてくれた人に
こころからありがたいと思う

火葬場に向かう空はまるで迎えに来たとも言われそうな
美しい雲が浮かんでいた
ああ、お父さん迷わずに行けそうだねと隣で優しい婿がつぶやく
私はただ空にのみこまれるように見つめて
通夜の席で蛇口を開け放したような涙腺がまた崩壊する

きれいな骨となり父は大好きな家に戻った
ありがとう、あなたの嫁で世界一幸せでした
からだの隅々からそう思っている

 

 

 

存在の消滅はいつも

 

ヒヨコブタ

 
 

青い鳥がここにきてとうとう騒ぎの渦中にいる
特段気にしてもいなかったつもりがなるほど、
新しいものに強い違和感を感じて初めて
あの青い鳥というものが親しかったような
錯覚にとらわれているのだ、わたしは

いつもなくなってからかつてあったものがとても愛おしく思えるとき
こころの中で組み立て替えてきた
そうすることによって
わたしはまた思い出の席に座ることができる
そこからふと目線をあげたあの絵にも会うことができる
さて全ては錯覚なのか
懐かしささえ傲慢のようだが私には愛おしい作業の手前にいつもある

壊されていく、建物のなかにあった日常も
季節ごとに咲いた花も庭木も
どれも今は同じような錯覚の優しい思い出のなかだ
無駄なものというものがなかったらわたしは
一体どう生きていいのか
こんなにも無駄なものと呼ばれそうなものに
日々とらわれゆたかに妄想するのだから

それらのなかにいるじぶんは
恐ろしいほど静かでうっとりしている
幸せな記憶の中にじぶんをおいておく
壊されぬようにそっとやわらかなばしょにおいておく
これ以上壊され続けぬように
そっと息を吐く