スマホ炎上・譚/
4月になれば、或る奴らは・・・ *

 

今井義行

 
 

富士通 arrows M04 は わたしの たいせつな 友だちだった・・・よ
それなのに わたしは 絨毯に おいて あった 友だちを
まちがえて ちから いっぱい 踏んで しまった・・・よ
友だちは 一瞬にして ほのおを 大きく 噴きあげて
爆発をして しまった・・・よ
友だちは こなごなに なって 散って しまった・・・よ
わたしは 濡れた タオルで どうにか ほのおを 消した けれど
SIMカードは 焼け焦げて 死にたえて しまった・・・よ
日々の なかで 新聞も TVもみない わたしは ベッドで Yahooニュースや Facebookなどの ネットを 何時間も ながめ つづけて 
いるのが 好き なんだ・・・よ
Facebookは 数多くある コミニケーションアプリの ひとつで わたしに とっては 
富士通 arrows M04と 同じくらい たいせつな 友だち なんだ・・・よ
かつて わたしが キャプションを つけて 画像を アップして いた頃 
それに 反応した 見知らぬ
誰かからも コメントを 入れて もらったり して いたんだ・・・よ 
その逆の ことも あって わたしは それを とても 愉しんで いたんだ・・・よ 
いまでは 閲覧が 主になって さまざまな 情報を 何時間も 何時間も 愉しむように なって いるんだ・・・よ 
「人びとの くらしは さまざま だなあ なんて」 おもいながら・・・
或る日 わたしは なにかが からだの なかに 在る ような 
気がして いたんだ・・・よ
わたしは その なにかが どこから きたのかなど 知りは しなかったんだ・・・よ
まったく・・・知りは しなかったんだ・・・よ
 

空0わたくしは・・・その なにか の ことを 知って おります・・・
 
 
空白空4月になれば、或る奴らは・・・
空白空まるい テーブルを かこみあって
空白空分厚い ポークソテーを おいしく 食べる ことでしょう
空白空フォークと ナイフで 切りわけた
空白空分厚い ポークソテーの いのちは 濃い脂だから
空白空奴らは くちびるの まわりに たくさんの 濃い脂を
空白空かがやかせては お互いの くちびるの まわりを 存分に
空白空ながめあう ことに なるでしょう・・・
 
 
わたしは 写真を 撮らないし 曲を ダウンロードする ことも ないから
えきまえの Y! Mobile で
もっとも スペックの ひくい あたらしい
友だちに なって くれそうな 端末を かったんだ・・・よ
そして ふるい へやに もどって わたしが
はじめに した ことは よく切れる 4枚刃の かみそりで
無精ひげを 剃る ことだった・・・よ
すると くちびる から まっかな 液が でてきて
はちみつヨーグルトが 瞬く間に あかく そまって しまった・・・よ
 
 
空白空4月になれば、或る奴らは・・・
空白空ふるくからある 下町の 銭湯へ いく ことに なる でしょう
空白空そうして 奴らは
空白空背中から 足先まで 入墨をしている ひとが
空白空ひろい ゆかに 立って いる ことに 気づく でしょう
空白空そうして 奴らは そのひとの
空白空和彫りの 美しい 華々に いくたびも さわらせて もらって
空白空はげしく 高揚をする ことでしょう
空白空やがて 奴らの ひとりは 和彫りの 華々の いとしさに みとれながら
空白空「50万円で 拳銃を 売ってください」と
空白空たのんで みる こと でしょう
空白空けれども 和彫りの 華々の 艶やかな ひとは
空白空けっして なにも 答えない でしょう
空白空( ああ 世の中で いちばん いやな ものを なくした かったのに・・・ )

                   
箱を あけて わたしが であう ことに なった 友だちは・・・
外国 うまれで その からだは とても あおくて うすい 奴だった・・・よ
たのむから・・・ もう 炎上 しないで おくれ・・・よ
携帯番号は 変わったけれど わたしには ほとんど 電話がくることが なかった な
わたしは さっそく Facebookを インストールして ひらいて みた・・・よ
・・・・・・・・・・・・・・・
わたしの 大きな 顔写真がないのが 正しいアカウントで 
大きな 顔写真があるのが どこかの 欧米人に 乗っ取られた 
アカウントだった・・・よ
・・・・・・・・・・・・・・・
画面には 顔写真がない ほうの 正しいアカウントが でた・・・よ
 
 
空白空4月になれば、或る奴らは・・・ 
空白空まだ 法制化 されていない 同性婚を していく ことに なる でしょう
空白空けれど 奴らは おんなのなかに おとこがすみつき
空白空おとこのなかに おんながすみついて いる ことを 知っているから
空白空・・・・・・・・・・・・・・・
空白空奴らは 真っ直ぐに 離婚を して しまう こと でしょう
空白空なぜならば 奴らの 醍醐味は
空白空・・・・・・・・・・・・・・・
空白空仄暗い へやで 顔も見えず 名まえも 知らない 処で
空白空特定の 相手など もとめあわずに
空白空まじわりあう ことだと 知って いるから なのです・・・
 
 
その晩から 翌朝まで わたしは つくづく スマホを いじり倒していた・・・よ
けれど わたしが あたらしい スマホの Facebookに ある
「その気持ち シェアしよう」 という スペースに 
「昨日は はちみつヨーグルトを おいしく 食べました けれど 無精ひげを 
剃った ときに くちびるを
傷つけて ヨーグルトが すこし 赤く そまって しまったんです・・・」という 
できごとを アップしたとき 見知らぬ 誰かが すぐに いいねを 
つけて くれて いた・・・よ わたしは 
そのひとの タイムラインに 跳んでみた・・・よ 
すると「今日は とっても 新鮮な さかなが とれて 早速
さばいて みたら さかなは まだ 活きていて 内臓が まだ ぴくぴく 
動いて いるんです・・・」という 動画が アップされていた・・・よ 
わたしは その動画に 「リアルな 画像ですね!」という コメントを 
入れたんだ・・・よ そのあとに 自分の アカウントに もどって 
「今日は とても 楽しい 出会いが ありました!!」と 入力したら 
その 文章が 大きな顔が ある方の 乗っ取られた アカウントに 
移動して しまって いたんだ・・・よ そのような ネット上に あげられた お互いの できごとが・・・ひとと ひととが 繋がりあえる ことが
Facebookの 魅力だった というのに・・・Facebookの 不具合で
その 愉しみが ほとんど 失われて しまったという ことは 
本当に さびしい 出来事 なんだ・・なあ・・・

空白空4月になれば、或る奴らは・・・
空白空早朝に ひびくはずの めざましどけいを セットする こと でしょう
空白空けれど 早朝に なって いくら まっても その とけいが ひびかないので
空白空奴らは その とけいが とけいの すがたをした なんらかの
空白空機械で ある ことに 気づく こと でしょう
空白空いきどおった 奴らは 絨毯の うえで その なんらかの 機械を
空白空あちらこちらから つよい ちからで 踏みつぶす ことに なる でしょう
空白空機械は 一瞬にして 大きく ほのおを 噴きあげる ことに なるでしょう
空白空しかし 奴らは 噴きあがる ほのおを 鎮める ことなど 決して する 
空白空ことは ないでしょう 
空白空奴らの だれもが その機械を 卑下して いるからです
 
 
或る日のこと・・・訪問看護師さんが 訪ねてきてくれた・・・よ
鹿児島出身の りすのような 顔をした
若くて 可愛い おんなの娘 だった・・・よ
彼女とは すこしずつ 親しみが うまれあって いるような 気が して いたよ・・・
わたしと 彼女は しばらく
向かいあって いたのだ けれど
そのあと わたしは どうにも ならない
気もちに なって しまって 彼女を 抱きよせて しまった・・・よ
「あなたは わたしに 娘が いたならば その 娘よりも 
もっと 若い ひとだ・・・よ」
「はい わかって います・・・」
その できごとは あたたかい 体温に ふれつづけている・・・
ネットに あげられた 現実を はるかに 越えている・・・ 
「現実」だったんだ・・・よ 
それから 10分ほど そのままで いて 
わたしは 玄関で 彼女に 「お気をつけて」と 言ったんだ・・・よ

やがて わたしは ひとつの 気もちに たどりついたんだ・・・よ

「そうだよ な・・・たかが Facebookでは ないか・・・?」

「こんな ことで 死んで しまう わけでは あるまいし・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

わたしは ネットなどに ふりまわされないで これから くらしていく
ことに すっかり 決めたんだ・・・よ 

しばらく してから
わたしは もの静かな 雨の ふっている 外へと 出かけて いったんだ・・・よ
 
 
空白空4月になれば、或る奴らは・・・
空白空えきまえの らあめん屋に いく ことに なるでしょう
空白空その らあめん屋には ばつぐんの
空白空挽き肉の らあめんが あって
空白空おおむねの ひとは その 挽き肉の らあめんを たのむのです
空白空奴らは カウンターに すわって
空白空その うまいという 平うち麵を たのむ ことに なるでしょう
空白空やがて 奴らは なにも いわずに 湯気のたつ
空白空いずれ はこばれて くるだろう 挽き肉の らあめんを 
空白空いかにも たのしそうに 待つ ことに なるでしょう・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その ことは とても 素晴らしい できごとに なる こと でしょう

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 

空0わたくしは・・・ その後の 奴ら の ゆくえの ことは 知って おりません・・・
 

・・・・・・・・・・・・・・・

 
空0わたくしは・・・ その後の 奴ら の ゆくえの ことは 知って いないのです・・・
 
 

 

* 詩のタイトルの1部は「ポール・サイモン・ソングブック」を、参考にしました。

 

 

 

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